第24話、迫りくる淫靡な触手の嵐に、少女は乱れる
「カリン、まだ生きてたのか!! 許さないぞ!!」
「仲間だったはずなのに宇宙の果てまで飛ばされた私の方が許したくないのですが……」
「まぁまぁ、良いじゃないか。どうせその程度じゃ死なないさ」
「あれ? 俺の呼んだチームと違うような……それにあの緑色の子、どっかで見たことあるような」
貞男たちも知らない女が居る。緑色の髪をしている。前髪はメガネのかかった目を覆うように隠していて、自信なさげにモジモジとしている。
「槍山さん。わたしです。翠山シズク……」
「……あっ、思い出した、リムジンの運転手で雇った子だ!! どうしてこのチームに?」
「わわ、わたしは、その……」
「シズク、私から説明するわ」
カリンはシズクを制して前に出た。
「私たちはバレーをしに来たんじゃない。リベンジしに来たのよ、まぁついでにやったバレーも楽しかったけど」
「ククク……ワタクシとしてはリベンジなんてどうでもいいのだがね」
「わ……わたしもべつに……」
「三対一はさすがに卑怯だから、二人とも連れてきたのよ。ほら、本気でやりなさい!!」
「はいはい……全く、カリンは普段無理してクールを装ってるのに、鬼の形相でワーワー叫んで煩いのは昔から変わらないね」
「だだだだ、駄目だよ。カリンちゃんも頑張ってキャラ作ってるのに、そんなこと言っちゃ……」
(やっぱりキャラ作ってたんだ、あの人)
貞男は納得した。
「じゃ、じゃあ召喚しますね。ヌルヌル・スベスベ・チュルチュル───」
シズクは詠唱を開始した。
「出でよ、エロクラーケン!!」
ザバーッ!!
「な、なんだあれは……でかいタコ!?」
海を割って高層ビル程の大きさの巨大な蛸のような生物が現れた。しかし、その足は無数にあり、うねうねとそれぞれ意思を持つようにこちらを伺っていた。
「忠成くん、下がって!!」
「く、クラーケンくん、捕まえちゃって」
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
巨大な蛸はその触手を凄まじい勢いで砂浜に伸ばしてくる。
「……間に合わないっ!!」
「うわー!! ヌルヌルしてる!!」
レイコとアカネは触手に捕らえられ、空中に連れていかれた。
「くっ……両手を塞がれてしまったわ。どうにか隙をついて……」
ヌルッ
「んんっ!!」
レイコの競泳水着の中に触手が侵入してくる。彼女はその未知の感覚に身をよじらせた。触手はさらに彼女の咥内にも侵入し、考える余裕を奪った。
「レイコ!? この、放せっ!!放せっ!!」
アカネは触手に掴まれたままじたばたと足掻くが、何の意味もなさない。ぬるぬると巻き付いてくる触手は胸を覆い、水着を奪い去っていった。
「あっ!! それは貞男に見せるために買った水着だぞ!! 返せ! 返せーー!!」
さらに暴れるアカネの耳元に、触手が忍び寄る。細長い触手はそのまま彼女の耳に侵入していった。
「アッ……アッ……や、ヤメ……んぐっ……」
「アカネ!!」
さすがのアカネも耳から未知の生物が侵入する恐怖感に涙を流した。
「ククク……シズクの【淫靡な手】は狙ったものは逃さない。きっと君たちは……ぬわぁっ!!」
「わ、私にも触手が……!! シ、シズク!? どうして……!!」
「あ、あの……女の子が触手にぬちゃぬちゃされるの見たくて、つい……」
「つい、って……ヒャアン!!」
触手に絡みつかれたカリンが甲高い鳴き声を上げる。オイルのように滑っている触手が四肢を縛り、登って来る。水着を剥ぎ取り、全身をねっとりと弄る。
「ンンッ……覚えてなさいよ……アァンッ!!」
その様子を見たラティアーノは特に焦燥することなく、静かにシズクを見つめた。
「少女たちは兎も角……ワタクシまで拘束するとは……。君は物好きにも程があるよ」
涼しげな顔をしているラティアーノにも、触手の魔の手が伸びる。
「ククク……あいにく、ワタクシはそのような感覚には疎いのでね。何も面白い物を見せれなくて、エンターテイナーとして申し訳ない」
触手は彼女の背中を撫で、臀部を撫でまわしたが、何の反応も無い。
「効かぬ効かぬ……オオォッ!?」
他の触手よりわずかに大きい触手が、背中側から侵入する。臀部のあたりが大きく盛り上がった。
「そ、そっちはちがっ……オホッ!! フっと!! やっべ、やべろ、オッ、オホッ、ウゴッ……!!」
「ハァハァ……カリンさん。ラテさん。凄いビクビクしてる。き、気持ちよさそう」
敵と仲間の痴態に悦ぶシズクは、太腿をもじもじと擦り合わせながら、スケッチブックにペンを走らせていた。
「ハァハァ……次は、この触手をこっちに入れて……こ、この画も欲しいな……」
「アカネ……高嶺さん……ううっ」
「サダ、そっちのペースに呑まれるな!! 相手を分析して対処し……オオンッ!!」
「忠成くん!?」
いつの間にか、槍山も触手に捕らえられていた。
「き、気にするな!! サダは自分のことに集中しろ!」
「な、なんか不純物が混ざっちゃった……いらないからポイしちゃお……」
「ぐわああああああああ!!」
槍山は遥か彼方、水平線の向こうに飛んで行った。
「た、忠成くん……!! なんてことを……!!」
「これで邪魔なのは居なくなった……。もっとえっちな画、欲しい!」
(敵はあっちに集中してる。今のうちに【貞力】を溜めて、反撃の準備をしなきゃ……!)
───にちゃ、にちゃ……。
高嶺さんを縛り付ける触手は、ゆっくりと彼女の身体を這い続けていた。水着の上から、水着の中から、蠢く触手の感覚を感じ取り、身体を震わせる。
触手から何か艶のある液体が分泌されている。それはオイルマッサージに使われるような液体に見えるが、実際は強力な媚毒であった。
全身に塗られた媚毒は、身体中のありとあらゆるものに対し過敏な反応、特に性的快感を与えさせるものだった。身体中に巻き付いてくる物の感覚は、ほとんどの者から全ての思考力を奪うのには十分だ。
「んんっ……ひんっ……あっ……」
高嶺さんは必死に歯を食いしばり、はしたない声を上げないようにしていた。媚毒によって耐え難い程の快楽が与えられているとはいえ、今のところは巻き付いた触手が自分の身体でとぐろを巻くようにいて蠢いているだけだ。全身が震えるが、彼女の屈強な精神はまだ正気を保ち、思考力を保っている。
「す、すごいあの人……私の【淫靡な手】に絡まれてまだあんな反抗的な目つきを……他の人はもうとろんとした目をしているのに」
触手の中から嬌声がいくつも重なって聞こえてくる。僕は他の三人の様子を確認した。
アカネはとっくに陥落していた。触手に耳を責められた恐怖で空いた心の隙間に強い快楽を流し込まれて、抵抗する気力を失った。目の前の現実から逃げるように「気持ちいい」「もっと」という言葉をうわ言のように発していた。
ラティアーノはあれだけ余裕そうにしていたのに、全く駄目だった。男にも女にも聞こえる中性的な低すぎない低い声が魅力だった彼女だが、後ろを責められて以降は野獣の威嚇のような汚い声を上げ続けている。
カリンは他二人と比べればだいぶ持った方だ。彼女の加虐趣味とは真逆の被虐的快楽に、最初は怒りを露わにしていた。怒っているときは口が悪くなるらしく、「許さない!」「殺す!」など物騒なことをシズクに叫んでいたが、抵抗する体力がなくなった今は遠い目をしながら身体を震わせていた。
「も、もうみんな堕ちてるのに……まっ、まだ頑張るんだね」
「当たり前だ、高嶺さんがこんな快楽なんかに負けるわけない!」
「え、えへへへへ……強い女の子、久しぶりだ。こういう子が堕ちて、アヘ顔晒すところを見ると創作意欲が沸くんだ」
シズクのペン捌きがさらに速くなる。最早普通の人間が雑に塗りつぶす時より速い。その動きに呼応するように、【淫靡な手】の責めも加速していった。
「クラーケンくん、やっちゃえ……! 穴という穴、全部、全部!」
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
無数の触手が高嶺さんを覆いつくし、彼女の姿は消えて行った。しかし、触手の森の中から何やらもがき苦しむような声が聞こえる。
「た、高嶺さんが……ど、どうなって」
「ハァハァ……き、気になるよね。えへへ……キミはわたしと同族な気がするから、特別に、教えて、えへっ、あげるね、へへっ」
彼女は懐からタブレット端末を取り出し、僕に渡す。そこにはあられもない姿の高嶺さんが映されていた。彼女は身体中粘膜まみれで、四肢は触手によって固定され、カエルのように大きく開かされていた。さらに、その腹は大きく膨れ上がっていた。
「こ、この子、綺麗だよね。可愛くて、かっこよくて……。でも、そんな子がこうやって、ぶ、ぶ、無様な恰好で……へへっ、えっちだね、えっちだね……」
「ふざけるな───!」
「わ、わわっ、おこらないで。それに、き、キミも……『すごいこと』になってるじゃん、へへっ」
「こ、これは……」
図星だった。僕は高嶺さんの醜態から目を離せなかったし、これから何が起こるかが気になって、膨らむものを抑えられなかった。
「ほら、始まるよ、み、見ててね」
ゴクリ、という音が聞こえた。シズクの喉の音だろうか、それとも、僕の喉……?
「オッ、オッ、オッ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
ブチッ!! ブルリュッ!! ぷうっ……!! ブチチチチッチチチ!!!
高嶺さんが、あの高嶺さんが、絶叫している。いつも凛々しい高嶺さんが、いつも美しい高嶺さんが、いつもカッコいい高嶺さんが、いつも正しい高嶺さんが、汚らしい声を上げながら、汚らしい音を出しながら、濁った液体を出しながら、身体中から触手の子供を排出している。
「イ、 イギイイイイイイイイイイイ、イ、ウウウウウウウウウウウウ、アアアアアアアア
アアアアアア!!!」
ビュッ!! ビュルウウルウウウウ!! ブリブリブリブリ……!! ぶっ!! ドババババババ!!
「そ、そんな、た、高嶺さん……?」
僕の脳裏に、美しい彼女の、美しかった彼女の姿が、走馬灯のように流れた。
「鬼童くん」
「オオオオオオオオオオン!!」
「鬼童くん!」
「おっ、おほ、オホオオオオオ、オホッ!!」
「鬼童くん……」
「ヒッ、ヒイイイイイイイグウウウウウウウウウウン!!」
ブッチッ!! ブ、ドビュビュビュビュ!! ブリリッ、ブチッ……!! シャーッ……。
放心する彼女の姿は、「高嶺レイコ」ではなくなっていた───。
「……へ、へー、そ、それがキミの【貞力】の練り方なんだ」
「もういつでも【貞器】を召喚できる。ボクの勝ちだから……皆を離して」
「うん、いいよ。見たい画は見れたしね」
(えっ、意外とあっさり……?)
【淫靡な手】は拘束していた二人を優しく地面に降ろした。
「貞男ー!! 怖かったー!!」
水着を剥ぎ取られたままのアカネが、そのままの姿で貞男に抱き着いた。
「ちょっ……アカネ、服、服!!」
彼はアカネを引き離そうとしたが、中々離れなかった。
「いーやーだー! もっと抱きしめさせろー、いたっ!!」
アカネは後頭部に痛みを感じた。振り返ると彼女の水着を持ったレイコが居た。
「水着持ってきたわよ。……はぁ、全身べとべとで気持ち悪いわ」
「ご、ごめんね……べ、別荘にシャワー室たくさんあるから、使って……」
シズクは申し訳なさそうに頭を下げた。
「翠山さん、なんで忠成くんの別荘のこと知って……まさか!?」
「わ、わたしがこの家の前の持ち主だから」
「地球で漫画描いてるのか!? サインしてくれ!!」
「アカネ、さっきまで酷いことされてたのに、切り替え速いね……」
「あっ、あっ、そうだ。さっきまでわたし、酷いことをしてたんだ……おっ、お仕置き!! お仕置きしてください!!」
シズクはそう言って、自分の尻をレイコとアカネの方に向けた。
「何となく察したけれど……お仕置きって何をすればいいのかしら」
「ハァ……ハァ……た、叩いて、おもいっきり!!」
「こ、この人ご褒美貰おうとしてない?」
「分かったわ。とりあえず一発……」
「アヒーーーーーーン!!」
シズクの叫びがこだました。
「……一発でいいわ」
「も、もっと!! もっと!! あっ、男の子の方はどうでもいいからやらないで!!」
「や、やらないけど……」
「次はワタシの番だな、エイッ! エイッ! エイッ!」
「あっ!! いい!! すごくいいです!! いいいいいいいいいい!!」
アカネのシズクへの「お仕置き」は数分間続いた。一方その頃……。
「降ろしてー!! おい降ろせー!!」
「い、意識が飛んでしまっていた。ワタクシは一体何を……ここはどこだ?」
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「イヤアアアアアアア!!! そのまま行かないで!!」
「次のエンターテイメントは、竜宮城ですか。それもまた一興……」
カリンとラティアーノは、そのまま海に沈んでいった。
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