第23話、ニッポンチャチャチャ

二試合目、チーム貞男VS日本代表


「高嶺さん、だっけ? 凄い才能ね。あなただったら本気でバレーをやれば、世界を狙えるわ」

「別に世界を狙うつもりなんてないのだけど、大磯さん」

「知ってる人なの、高嶺さん?」

「えぇ、お母さまが応援してたみたいだから」

「あら、ありがとう。後でサイン色紙書くから、持っていってあげてね」

「感謝するわ。手を抜くつもりはないけども」

 不敵に笑う大磯に微笑み返すレイコ、その間には見えない火花が散っていた。


───戦いの火ぶたが切られる。レイコはまた先程のように強烈なジャンプサーブを繰り出した。しかし、日本代表の選手がそれをいとも簡単にレシーブした。

「宮本、ナイス! ミヤコ、次行くよ!」

 ネットの近くに張り付いていた大磯は大きな声で指示を出した。ライト側に居た選手が大きくジャンプをし、アタックしようとする。

「させるかああああっ……貞男!!」

 アカネが貞男にアイコンタクトを送る。

(もしかして、アカネと高嶺さんでブロックしたら打つコースが限定される……ボクがレシーブを構えていれば、止める確率は上がるはずってこと……!? 無理だけど……が、頑張らなきゃ……)

 二人が壁になり、貞男はレシーブの準備をした。しかし、大磯はその動きを見て、咄嗟にレフトサイドの選手にトスを出した。

「はいっ!」


バシーン!!


 ボールは無常にも誰も守っていない場所に打ち込まれた。

「畜生っ……いとも容易く先制されちまった。さすが日本代表だぜ」

「忠成くんが呼んだんでしょ」

「ふふっ。私たちは現役を離れたといってもそこまでブランクが長い訳じゃないわ。才能はあるみたいだけど、所詮は素人よ。負ける訳にはいかないの……じゃあ、行くよ!!」

 大磯の強烈なサーブが貞男のもとに飛んでくる。

「は、はやっ……あれ?」


バシーン!!


 貞男は一歩も動けなかった。しかし、ボールが見えなかった訳ではない。今までになかった感覚に戸惑い、動けなかったのだ。

(今、ボールがスローモーションみたいに……ちゃんと構えたら意外と簡単にレシーブできそうな……)

「ドンマイドンマイ!! しゃーねーよ!! 次切り替えろー!!」

「えぇ、鬼童くんにあのサーブは止められないでしょうね。次は私がサポートに入るわ」

「……ゴメン、高嶺さん。次はちゃんと止めるから、ボク一人で」

 大磯は貞男の強くな表情を見て、嬉しそうな顔でほくそ笑んだ。

「大した自信ね、少年? ちょっとくらいは筋肉付いてそうだけど私のサーブはそんなに甘くないよ?」

「が、頑張ります」

「じゃあ、行くね……ッ!」

 前のサーブよりやや強いボールが貞男のもとに、コントロールされて打ち込まれた。

(やっぱり、見える、見えるぞ……!)

「はいっ!!」

「私のサーブを打ち返した!?」

 貞男のレシーブは大きく宙を舞い、ネット際のレイコに近づいてきた。

「槍山くん、紅葉さん、行くわよ」

(槍山さんと赤い女の子……どっちにトスを出す……)

 レイコはバレないように、一瞬だけ槍山の方を見た。

(そっちか……!!)

「ミヤコ、レフト!!」

「あら、残念」

「ワタシが決める!!」

(バックトス……!? そっちには誰も居ない!!)


ズシュウウウウウウウウウウウウン!!


 アカネのスパイクが空気を切り裂いた。

「な、なんてパワー……男子ですらこんなスパイクは無いわ」

「やったぞ貞男!! 見てたか?」

「うん!! 凄いスパイクだった!! アカネ凄い!! カッコいい!!」

「えへへ!! レイコレイコ!! 次、ワタシが打ちたい!!」

「……しょうがないわね。本当はリベンジしたかったけど……譲るわ」

 アカネがボールを持つ。

「いっくぞー!! おりゃー!!」

 アカネがサーブを打った瞬間、ボールが消える。日本代表側のコートを見ると、砂浜に穴が空いていた。

「こ、これはもしかして……」

 大磯が穴を覗くと、その中には焼け焦げたバレーボールがめり込んでいた。

「アカネ! ナイスサーブ!!」

「よし、次もワタシが行くぞ!!」

「……待って」

 大磯はチームメイトを集め、何やら話し合いを始めた。そして、彼女たちは一斉に頭を下げた。

「私たちの負けだわ……まだ始まったばかりなのに、ごめんなさいね。命の方が大事だから」

(確かに、あれを喰らって生きてる自信はないな……)

「あんなバケモノみたいなサーブ、あのチームだけだと思ってたんだけどね」

「あのチームって、日本代表に勝ったっていう、あの……?」

「ふふふ……そう、私たちよ」

「少年よ、少女よ、また会ったね」

 マイクロビキニを着た碧山カリン、相変わらずタキシード姿のラテ・フラペチーノ、そして、緑色のフリルの付いた水着を着た女がそこに立っていた。

「ま、まさか……あの人たちが、最強のビーチバレーチーム……!?」

 そう、【サキュベーター】たちである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る