第2話、【貞力】【貞器】……妄想が大暴走!?
────翌日、空き教室
「今から【貞力】の使い方をレクチャーするわ。まずは瞑想からよ」
「瞑想……?」
「あなたの気持ち悪い想像力で、とびっきり気持ちの悪い、あなたの欲に塗れた妄想をすればいいの」
「気持ち悪いって……」
「あなたがいつも考えているようなことを考えるのよ、どんなことかは知らないけど」
(そんなこと言われても、エッチな妄想しかしてないからなぁ……それでいいのかな?)
「とりあえず、やってみなさい」
……
「ねぇ、鬼童くん」
「た、高嶺さん!? ど、どどど、どうしたの!?こんなところに、ボクを呼び出して!?」
───暑い。全ての窓が閉められている。放課後の教室はなにかそれ以外の、何かしらの要因で熱気が充満している。身体の芯から熱くなっている感覚がする。すると不明の熱源の正体は、この場に居る二人の体温だろうか……。
僕の目の前に居る少女の名前は、高嶺レイコ。誰もが憧れる女性で、僕自身も彼女に憧れを持っている。才色兼備とは彼女のことを指すと、周りの人間は皆彼女を評価している。しかし、僕は彼女の異なる一面に注目、いや欲情していた。
その長い髪に触れたらどれだけ気持ちがいいだろう。その唇はどんな味がするだろう。その細い腕を掴んだらどれほどの征服感を得られるだろう。そのたわわに実った胸に触れればどれほど柔らかいだろう。その細い腰に手を回してみたい。その芸術品のような脚をつま先まで嘗めまわしたい。
ドッドッドッドッ
情欲の渦が、律動を刻む。
ドッドッドッドッ
情欲の渦に、呑みこまれる。
「ねぇ……」
熱に溺れた一対のガラス細工が、僕を見つける。いつも飄々としていて、涼しげな顔をしている彼女の頬はわずかに上気していた。
水滴だ。乾いた砂漠で、絶望的な飢えの中で、残された最後の希望の水滴が流れていく。噛り付きたい程の首筋から、溢れる。一筋の水滴が流れて、流れて……。希望は、大きくはだけたアリジゴクの巣に沈んでいった。
「鬼童くん、暑いね」
「あっ、あっ、あっ、あのっ……み、見えちゃう!」
「あら、鬼童くん。顔、真っ赤じゃない? ダメよ、我慢したら……」
普段からは想像すら憚られる姿をした彼女が豊満な双丘を僕の細い腕に押し付け、引き寄せた。そして、彼女の手はするすると僕の衣服を脱がしていく。気づいたころには、僕が上半身に身に着けていた物の全ては床に吸われていた。
「ふふっ……鬼童くん、脱いだら意外と……凄いじゃない?男の子にしては細くてか弱い身体、でも私の身体とは全然違うわ。固い胸板、あまり脂肪とかはついてないのね、男の子の身体って感じだわ」
「ひゃいっ……!!」
高嶺さんは僕の曝け出した部分を、秘術を紐解くように愛撫していく。首元から胸板、臍の下までその手は降りていく。心地よくもありこそばゆくもあるその感覚に、僕の身体は彼女の掌の内に溶けていった。
「だっ、駄目だよ、高嶺さん!」
「そうね、私だけが触るんじゃ不公平よね。あなたも触ってみる?」
「なっ、何を……!?」
彼女の優しい手は僕の腕をつかみ、そして水が噴き出すその砂丘、オアシスへ……。
───くん、鬼童くん!」
「うるせぇ!! 今良いとこだったのに!!」
「ど、どうしたの急に!? あなたそんなキャラだった?」
「はっ!? そういえば瞑想がどうとか……」
「成功よ、凄いわ!鬼童くん、やればできるじゃない」
(マジか、ただただエロい妄想しただけなのに)
「身体の奥に増幅された力を感じるでしょ、それが【貞力】ね。次はゆっくり深呼吸して、その力が下腹部からゆっくり、脳まで上がって来るようなイメージをしてみなさい」
「は、はい……スゥー……」
……
───聞こえるか、未だ異性を知らぬ純潔の者よ……。
(な、なんだ!? 脳内に、声が……)
貴様は、選ばれし者……内なる欲望を堪えながら、媾うことをせぬ、孤高の者よ……。
(そ、そう! ボクは敢えて、敢えて童貞なの! あえて!)
貴様にやる力……いや、既に持っている力と言った方が良いかな。……それは、【聖杯】と呼ばれる力だ。
(せ、【聖杯】!?)
間違えた……【性杯】だ。
(さっきまでかっこよかったのに……!)
貴様の能力は……ふふ、なるほどなるほど。
(すごいページめくる音聞こえてくるけど説明書か何か?)
あー、うん。えー……。貴様の能力は、いずれ貴様自身によって分かることだろう。
(分からなかったの!? と言うかさっきから誰、この声の主……)
申し遅れたな……。我は大妖性【デカスギ・マラトン】……貴様の先祖だ。
(なんか普通に嫌だけど、ボクってこんな変な人が先祖なの……?)
貴様に力を使役するキーワードを授ける。復唱せよ。
……デカスギル・インケーハ・ミオ・ホロ・ヴォス───。
(あっ……はい)
「……デカスギル・インケーハ・ミオ・ホロ・ヴォス───」
シュイイイイイイイイイイイイイン!!
「……!? 鬼童くんっ!?」
全身から湧き出る力、降り注ぐ光、神々しくも輝くモノは同時に禍々しくも感じられ、異なる二つの性質を内包したそれはかつての神の血を受けたモノに似ていた。そして、貞男の股間の前にそれはあった。
「も、もしかしてそれ……【性杯】?」
「知ってるの? 高嶺さん」
「えぇ……すさまじい【貞力】を持っているものだけに現れるとされている伝説の力……ただ、それが何の力なのか、分かってはいないの。だって、そんな出鱈目な力を持った人間は今までで一人も居ない……」
「よくわからないけど、高嶺さんみたいな槍は出せたりしないのかな?」
「いいえ、一人が使える【貞器】は一つまで……」
ギュイイイイイイイイイイイイイン!!
「……!? 鬼童くん、それって……!?」
「だ、出せちゃった」
貞男の手の中には、確かにレイコの【貞器】である【勝利の槍】が握られていた。
「もしかして、【性杯】の力って、【貞器】のコピー……?」
「それって、もしかしてボクは強いってこと?」
「調子に乗ったらダメ、とにかく……その【貞器】なら私でも使い方分かるから、今日からレクチャーを始めるわよ」
「は、はい!」
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