第29話、ヒヒーン!サダオインパクトの豪脚が迫る迫る~!
「じゃあ、始めるわよ……人間競馬を」
「に、人間競馬……?」
「うふふ……。分かるでしょう? あなたたち男は馬、女は騎手、手綱を握るのは女ということよ」
(うまく言ってるようで言ってない気がするぞ……)
「それでは行きましょう、決戦の地へ……!!」
「……!?」
カリンは結界を展開し、周囲の景色が変わる。教室の生徒たちは何が起こったか理解できず、呆然とした。いつの間にか教室が競馬場になっていたのである。
「あなたたちには馬並みの身体能力になる暗示を催眠術でかけさせてもらったわ。このスタート位置からあのゴール板まで2000m、かかる時間は……大体2分くらいかしら」
「い、いかれてやがる……!? なんで教師にこんなバケモノが紛れ込んでんだ……!!」
「あら、ルールは聞いてた方が良いわよ? そうじゃないとあなたが奴隷になってしまうかもしれないもの」
カリンはルールの説明を始めた。
・競馬場を回ってゴール板を通過すればゴール。
・5着以内に入着すれば勝利とみなす。
・6着以下には負けポイントが一つ追加される。
・1着になれば負けポイントはリセット。
・最初は16頭立てのフルゲートからスタートする。
・レースが終わり次第、次のレースをスタートする。
・負けポイントが3回溜まれば退場し、奴隷となる。
・残り七以下になれば、その時点での負けポイントを持ったままゲーム終了。
・特定のペアが奴隷にならないように、他ペアに働きかけたり敢えて負けたりするような行為には追加で負けポイント1を与える。
「と、言うのがこの人間競馬のルールよ……分かった? じゃあ、今からハミを付けていくわね」
カリンが「ハミ」と呼ぶそれはどう見てもポールギャグで、左右にある穴には手綱のような紐が通されていた。
「あと、鞭も渡しておくわ。これで下の男を叩けば加速するけど、使いすぎると体力がなくなって次のレースに支障をきたすから気を付けなさい。さぁ、ゲートインよ」
パカパカパーン!! パカパカパーン!!
ファンファーレの音が流れると、貞男たちは瞬きをした間に狭いゲートの中に閉じ込められてしまった。
「さぁ、全頭ゲートに収まって……スタートしました!!」
カリンがマイクを持ち実況を開始した。
「おおっと一頭出遅れた!? これはまさかの貞男くん、最後方からの競馬となります! まずハナに立ったのは野球部の飯田くん、続いて番手につける形で南くん、そこから大きく離れた三番手は米山くん、その後ろに坂本くん、大野くん、田中くんと続いていって、三島くん川端くんのところまでが固まりとなって先頭集団、少し離れた位置に他7頭が居て、貞男くんはさらに後ろから、さぁここから届くのか!?」
(少し出遅れたけど大丈夫、ボクも競馬の知識をアニメで身に着けた……追い込みとかいう戦術を使えば、最後の直線まで体力を温存することができるはず……!!)
「さぁ、各馬第4コーナーを周って最後の直線に入ります! ここで先頭に立ったのは南くん! 飯田くんも粘るが米山くん率いる先頭集団も追い上げてきている!! そして大外を回して飛んできたのは貞男くん!!」
「ンンンンンン!!ングウウウウウ!!」
「分かった、ムチ打てばいいんだな!?」
ペチン!!
「ンンンンンンンン!!」
アカネがムチを打つと、貞男の尻に激痛が走る。しかし、加速する。
(な、なんだこの痛さ……!? 身体能力は馬並みなのに、痛覚は人並みっておかしいでしょ……! それに、最後まで体力温存したはずなのに、なんか、苦しい……!)
貞男が苦しいのもそのはず、この競馬場はコーナーが急にカーブしており、後ろから全力で追い抜こうとすると無駄に外を回されてしまうことになる。さらに、心臓破りの坂が最後の直線に待ち受けていたのであった。
「もう少し……もう少し……!! 頑張れ、貞男!!」
「南くん、今先頭でゴールイン!!」
1南
>1
2米山
>ハナ
3大野
>クビ
4川端
>ハナ
5飯田
(負け……た?)
「うわあああああああああ!! ワタシのお昼ご飯があああああああああ!!」
「フフフフフフフ……さぁ、6着以下は全員負けポイント1……次負ければ退学です」
「貞男!! 次は絶対に1着で勝つぞ!! お昼ご飯を取り返すんだ!!」
(このペナルティ、アカネ特効過ぎない?)
そしてまた貞男たちはゲートの中に転送され、レースが始まった。
「スタートしました! おっと、今回は貞男くんいいスタートです!」
(よし……良いスタートを切れた、このまま内で脚を溜めるぞ)
好スタートを切った貞男は、先ほどのレースで考え付いたレースの攻略法を実践する。小回りとなっているこのコースは内側を走る馬にとって有利で、外を回ると余計に体力を消耗することになる。そして最後の直線も短く、明らかに先行しなければ後々苦しくなるコース形態だ。さらに地獄の坂道を登り切る体力を残さなければならない。そのために馬群の中で体力を温存するのだ。
「今回もハナに立ったのは飯田くん、前のレースよりも引き離しての展開となる! 続いて南くん、貞男くんが2番手、3番手につけている! 先頭集団もこれに続き一塊だ! さぁ勝負はここから、第3コーナーから第4コーナー周って最後の直線に入る……!!」
(アカネ、ここだ……!!)
「ヒャッハー!! 最後の一線をぶち破れー!!」
アカネが貞男に鞭を入れる。
「凄い脚が飛んできた! 飯田君粘る! 飯田君粘るがここは貞男くんが差し切った!! 貞男くん、今先頭でゴールイン!!」
アカネはすかさず電光掲示板を確認すると、そこには確かに1着に貞男の番号があった。
「やったぞ貞男!! これでお昼ご飯復活だ!!」
その後もアカネと貞男のペアは入着し続け、何のペナルティも無く競技を終えた。南、大野、川端、米山、鹿野、の五人も勝ち抜いた。
「残ったのはこの六人……貞男くんも勝ち残ってくれて良かったわ。さて、次の競技のルールを説明するわ」
「まだやるの!? そんな……彼はもうボロボロよ!!」
憤慨した女子生徒が泣き叫ぶ。しかし、カリンはそんなことは気にも留めない。
(ふふ……残念ながら紅葉アカネを脱落させるまでこの戦いは続くの)
彼女はさらに説明を続けようとした。しかし、貞男たちも無策ではなかった。
(よし、今なら気づかれない、やるぞ)
(貞男、やるんだな! 今、ここで!!)
ピカーン!!!
「な、何の光!?」
貞男の身体が光り輝く。そこには普通に二足で地に立つ貞男とアカネの姿があった。
「そ、そんな……私の催眠が、破られた!? な、なんで……!!」」
貞男は口に付けられていた拘束具を外し、自信満々に語り始めた。
「ボクは気づかれないように【貞力】を溜め続けていた。あの人間競馬が始まる前から、今に至るまで、ずっとね」
「ありえない……!! あの『ハミ』には【貞力】の阻害効果があったはず……! まさか……!?」
「そう、ボクは自分の中に【貞力】を溜めていたんじゃない、アカネに送り込んでいたんだ」
「それでワタシはその【貞力】を通じて貞男と意思疎通して、オマエの催眠を破るタイミングを見てたんだ」
「くっ……そんな方法があったなんて……!!」
「終わりだよ、皆にかけた催眠を解いて」
「まだ……まだ終われない……!! 私は、アカネを……倒す!!」
パリーン!!
「なっ……!?」
カリンが【断罪の鞭】を召喚し構えたところで、結界が崩壊する。
「高嶺さん……!?」
「レイコ、来てくれたか!!」
「あれだけ大きな【貞力】が発生したら、さすがにここまで隠匿してても無駄だわ。……で、あなたは私の学校で何をやっているの、碧山カリン」
「クソっ……高嶺レイコ!! お前が来ると、私の清楚お嬢様キャラが被るんだよ!!」
(その発言、全然清楚お嬢様じゃないんだけど、いいのかな……)
「あなたのどこが清楚お嬢様なの?」
(あっ、高嶺さん言っちゃった!?)
「こ、このクソガキイイイイイイイイイイイイ!!」
カリンは顔に血管を浮かび上がらせて、怒りに任せた突進を行った。
「あっ、横ががら空きだぞ!!」
「はうあ!?」
レイコの挑発に乗って前しか見えていなかったカリンに、アカネは【破壊の鎚】で強烈な一撃をぶち込んだ。そしてまた、カリンは宇宙の果てまで飛ばされていくのだった……。
事件から数日経った。学校からは当然カリンの姿は消え、その代わりに今まで幽閉されていた担任の教師が復帰した。捜索した高嶺家の人間は、彼が発見時に意外と元気だったことに驚いた。なんだかんだでカリンは食料等の必需品を用意していたらしい。
平穏な日常がまた始まり、繰り返されていく。
「おーい、貞男! レイコ! こっちだー!!」
「ま、待ってよアカネ!!」
「はぁ……また付き合わされるのね」
(あれ……? なんか忘れてるような)
一方その頃、槍山は……。
「なんか急に拘束されたけど、なんとかここから抜け出して見せるぜ……!! 待ってろよサダ……!!」
まさか忘れられているとも知らず、必死に藻掻いていたのだった。
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