第三十六話 先へ
「俺が攻撃を防ぐ。ヒイラギとコンとオニキスは、できるだけ傷つけずに無力化していってほしい」
ジョンは手短に指示を出すと、相手3人の攻撃を同時に大盾で受け止めた。
そしてそのまま、まるで大地に力強く根を張った大木のように動かず、ジョンの背後には何の脅威も及ばない。
「やるっすよ! こんな戦いはすぐに終わらせるっす!」
コンがその後ろから姿を見せると、ジョンに攻撃を止められていた傭兵たちを殴り倒していく。
その殴打はかなり加減をしており、うめいてはいるものの、意識を飛ばした者はいなかった。
「頼むからやられてくれ!」
オニキスに斬りかかる傭兵が心からの叫び声を上げる。
それを空中に移動して避け、着地と同時にその傭兵を地面に組み伏せた。
「…………」
冷静さを保ったまま肩の関節を外すと、再び空へと登って行った。
「ソジュさん。道をあけてください。必ず元凶を倒しますから……!」
ソジュの激しい連続斬撃をさばきながら、ヒイラギは説得を試みる。
「いや。絶対に先へはいかせない。たとえお前の片腕を切り落とすことになっても」
言葉の終わりにひと際鋭く剣が振られたが、ヒイラギは見切り、勢いを殺して止めた。
「どうしてそこまでするんですか! 傭兵会の上位の方々の実力でも勝てないということですか!?」
「そういう問題ではない……!」
乱暴に振り払われたヒイラギは、少し後ろに下がりながらもソジュから目を離さない。
「既に言ったが、奴の盾に触れただけで人が死ぬのだ。そんな馬鹿げた相手のところにお前や傭兵会の主力を向かわせて死なせるわけにはいかない!」
ソジュは新参大会でヒイラギに負けはしたものの、大会後は傭兵として順調に活躍をしていった。
通り名は”
そんな中依頼を受けて南の森を調査する隊の隊長を務めることになり、ソジュは自信とやる気にあふれていた。
その全てを、たった1回その謎の盾に触れてしまっただけで、一瞬にして無にされたのだ。
生き返ったあとのソジュに残ったのは、無力感と使命感だった。
「私ができるのは、これ以上犠牲者を出さないことだ。私たちのような者を増やさせはしない……!」
ソジュの震えた声を聞いてうつむいたヒイラギへと、歯を食いしばって剣を振った。
ヒイラギはそれを止める様子もなく、そのまま腕を引き裂くかと思われた。
刹那、白銀の剣がソジュの剣をものすごい力で弾き飛ばした。
あまりの力によって折れたソジュの剣先は、回転しながら薄暗い森の奥へと消えた。
反対に傷ひとつ付いていない白銀の剣。
それを血がにじむほど強く持ったヒイラギは、折れた剣を呆然と見つめるソジュに悲痛な顔を向ける。
「……そこまでして止めようとしてくれるソジュさんの命を奪った相手を、僕は絶対に許しません」
ヒイラギの碧い瞳に強い憎悪の感情が宿る。
「自分の意志で、僕たちを引き留めようと必死な方々の命を奪った相手を、僕は絶対に逃がしません」
ヒイラギの耳に、ジョンの大盾に阻まれ、コンとオニキスにやられても、這いつくばって必死にあがく者たちの声が聞こえる。
「必ず、討伐します」
ヒイラギはソジュを見ながらも、その先にいるであろう姿も見えぬ元凶を睨みつけていた。
ソジュの手から折れた剣がこぼれ落ちた。
それを見届けると、ヒイラギは白銀色の剣を鞘に収めた。
「ぐああっ!」
そのタイミングで、ソジュを除く最後の傭兵が地面に倒れた。
「……ふん。強くなったくせに、相変わらず優しすぎるのではないか」
ソジュは少しぎこちなく笑った。
「私は奴に殺され、生き返らされ、無様にお前たちへ挑み、止めることもできなかった。結局、それまでの人間だったということか……」
「違います。ソジュさん」
力なく座り込んでしまったソジュに、優しい声でヒイラギは言う。
「あなたが僕たちに謎の人物の盾や剣について教えてくださったおかげで、覚悟を決めることができましたし、これから対策を考えることもできます」
「突拍子もないことを言っただけだがな」
「でも、それは虚言ではない。そうですよね」
ソジュは鼻で笑った。
「生きている状態でこんなことを言うのも変だが、ヒイラギ」
心の底から悔しそうな表情で伝えた。
「私たちの
胸が痛くなるほど辛い感情を声にのせると、糸が切れたようにソジュの体から力が抜けた。
目から光が失われると、もともとそうであったかのように動かなくなった。
「…………」
ヒイラギは体を震わせて、感情のままに大地を思いきり叩いた。
「命をなんだと思っている……!!」
そのヒイラギの元へ、とぼとぼとコンが歩いてきた。
その表情もまた悲しみと怒りに満ちていた。
「その人も死んじゃったんっすね」
うなだれるヒイラギの背中に手を添える。
「あのダリーとか言う奴も頭に穴の空いた死体に戻ったっす。他の傭兵もみんな……」
そこから先は言いよどむ。
「コン、ヒイラギ。先に進もう。オニキスには先に偵察をお願いした」
冷静なジョンの言葉に思わず顔を上げて睨んでしまったヒイラギ。
だが、あまりにも真剣なジョンの表情に、ぐっと感情を押し殺して立ち上がった。
「皆さんは手厚く
そう言い残すと、再び3人で死角を補いつつ、さらに暗い森の奥へと進んでいったのだった。
永久不変の剣を手に、人々の命の守護者となる なで鯨 @Whale_nade
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