第三話 実力を見せるために新参大会へ①
どうにかナーラン立案の王国巡りツアーの開催を阻止したヒイラギは、新参大会へ向けて準備を始める。
大会までの数日間を使って、王国の雰囲気に慣れることに決めた。
企画をおじゃんにされて拗ねているナーランにお願いして、簡単な王国の案内ツアーをしてもらうことにした。
一度希望がついえた案内ができることになり、ナーランはあっという間に機嫌を良くし、丁寧に案内してくれた。
巡った場所は、ナーランおすすめの飯屋3軒、ナーランおすすめの宿2軒、ナーラン一押しの武器屋1軒。
ナーラン推奨の防具屋1軒、ナーランが太鼓判を押す鍛冶屋1軒、そして貴族区画の入り口の門とその城壁である。
ものの見事にオニキスのおすすめする場所が存在していないが、数日にわたったツアーの全てに参加はしていた。
そして、最終日の城壁を訪れた後の帰り道。
翌日に新参大会があるということもあり、この日は早めに切り上げてくれた。
「明日の新参大会、絶対に応援しに行くぜ!
アクロ君にはキラリと光る何かがある! 俺の直感がそう言っているから間違いないぜ!
それに、あの場所で出会ったのも何かの縁だと思うからね!」
「ありがとうございます。どれくらいやれるかはわかりませんが、できる限りを尽くそうと思います」
「うんうん! 期待してるからね! オニキスも来る?」
「……俺は依頼がある」
「そうかー。じゃあ仕方ないね。俺がオニキスの分まで応援しておくぜ!」
「…………」
(初めて会話が成立しているのを見た気がする……)
そんな会話をして、その場で解散した。
ヒイラギはナーランおすすめの宿に部屋を取っており、そこに戻ってきた。
部屋に入ったところで、一人の時間が久しぶりに感じたヒイラギ。
この数日間は嵐のようなナーランと凪のようなオニキスの二人と行動していたため、充実した日々に感じていたのだ。
明るい時間から一人になるのが久しぶりということもあり、少しの寂しさを感じていた。
(僕は本当に運が良かった。あんな形とはいえオニキスさんに出会い、そのあとナーランさんにも出会うことができた。
二人と出会わずに王国に入っていたら、慣れるまでもう少し時間がかかった気がする)
腰から剣を外して壁に立てかけ、木製のイスに深く座る。
(ナーランさんがしたかったこととはいえ、数日間依頼を受けられない状況にしてしまって申し訳ないな……。
明日も、僕の応援より依頼を優先してもらって全然かまわないのに。オニキスさんみたいに)
考えているうちに、すーっとまぶたが下がってくる。
この数日間は、確かに充実した日々だったが、その分体力を消耗した日々でもあった。
親切な二人に思いを馳せながら、穏やかな昼間に別れを告げるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
天を衝く炎火がごうごう音を立てて、家々を飲み込んでいく。
視界に入るのは、月のない闇夜を眩しく蝕む炎。
その強すぎる光に目がくらむと、嫌な臭いを伴った煙が追い打ちをかけてくる。
目も鼻も頼りにならない。耳は?
家の材木が燃えて弾ける音。逃げ惑う人々が発する悲鳴や足音。
そして――
「いいかアクロ。何があってもそこから出てくるんじゃないぞ。
そこにいれば、炎がくることもない。悪い人に見つかることもないからな」
待って! 一緒に逃げようよ!
みんなで一緒に!!
「アクロ。お前は本当に優しくて良い子だ。
こんな状況でも、俺や村の皆のことを心配してくれている。
お前の優しさのおかげで、俺はまた戦うことができる」
待って! ダメ! 行かないで!!
炎による逆光によって
そこに歩いてくる小さな人影。
――! ――――、――――。
やがて影は重なり合い、隻腕の人影が地面に沈む。
小さな人影は
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、あれ……。眠っちゃってたか」
イスから立ち上がると、体に痛みが走る。
窓の外は暗くなっており、穏やかな昼間に引き続き、穏やかな夜がやってきているようだ。
固まってしまった体をほぐしながら、大きく伸びをしたとき、自分の頬を涙がつたったことに気が付いた。
その感覚と共に、先ほどまで見ていた夢の内容が、頭の中によみがえる。
「……大丈夫。忘れるわけがない」
そうつぶやくと、今度はちゃんとした寝床に潜り込んで、再び目を閉じた。
柔らかな朝日で目を覚ますと、ヒイラギは剣を持ち、部屋の扉を開けた。
新参大会の開始時刻まではまだ数時間あることを確認して、軽く体を動かしてから会場に向かった。
会場には開始前にもかかわらず、すでにそれなりの人数が集まっていた。
参加者なのか見学者なのかはわからないが、近くの出店で買い物をしていたり、大声で笑いあっている人たちもいた。
活気のある様子を端から眺めていると、列ができ始めている受付を見つけることができた。
並んで待ち、受付を済ますと、武器を選ぶ場所へと通された。
事前に聞いていた通り、そこには木製の武器や防具が並んでいた。
その中から自分の剣に一番近い見た目の木剣を一本手に取ると、試しに振って感覚を確かめる。
これでいいかなとヒイラギが思っていると、ドンと体を突き飛ばされた。
「どけガキ。今から俺が武器を選ぶんだからな」
太い体を揺らしながら、偉そうな口調でそう言い捨てる。
「……少し時間をかけて選んでしまいましたかね。失礼しました」
ヒイラギは顔色ひとつ変えずに、よろけただけの体を太った人に向けて、軽く頭を下げた。
そしてそのまま控えの場所へと向かっていった。
「っは。あのガキと当たるやつが羨ましいわ。じっくりと時間を使って、自分の力を誇示できるんだからな」
周囲から乾いた笑いが漏れる。
その場にいたほとんどの参加者が、ヒイラギのことをカモだと思っていた。
ヒイラギは身長こそ170センチ程度はあるが、体格は周囲の傭兵と比べれば細く弱弱しく見える。
毎年必ずいる弱小枠という認識の元、傭兵たちは自分の力の示し方を考えるのだった。
「さて、今年も始まりました新参限定の武闘大会!
新参者にとっては自分の実力を示してスタートダッシュを切れるまたとない機会!
他の傭兵にとっても、弟子にしたり協力したりする人材を見つけ出す良い場所になるでしょう!」
司会の人間が大会の始まりを盛り上げる。
この時間になると、かなりの人だかりができていた。
出店の数も増え、中にはこんな時間から既にできあがっている人も発生し始めていた。
「今大会も多くの新参傭兵が参加してくれました!
と、こんな前置きはさておいて、さっそく予選にいきましょう!
予選は5人で1つのグループになり、1対1の総当たり戦をやってもらいます!
4つのステージでどんどん試合を進めていきます!
勝敗は片方が降参するか、戦闘続行が不可能になるかで決定します!
ただし、殺しは厳禁! 即刻、敗退と退会処分になりますので注意してくださいね!
それでは、第一試合の方々はステージ上におあがりくださーい!」
ヒイラギの予選グループは、剣と盾を持っている者が2人、槍を持っている者が1人、そしてあの時突き飛ばしてきた太い男が1人だった。
そして第一試合、いきなりその太い男とヒイラギの戦いである。
「お前も運がねえな。いきなり
「失礼ですが、大型というのは、その体型のことでしょうか?」
一瞬の静寂がステージ周辺に訪れ、そして大爆笑が起こる。
「お、お前……!!! 殺しが禁止だからと言って、痛い目を見ないと思っていたら大間違いだからな!」
「だからな、だからな、とおっしゃる前に、まずは実力を見せていただいてもよろしいですか?」
ヒイラギの煽りに、観客は大きく盛り上がり、デッパフの青筋も大きく盛り上がった。
「それでは第一試合、開始です!」
「死にさらせやガキが!!!!」
開始の合図と同時に、見た目に似合わない俊敏な動きで突っ込んできた。
どうやら、大型新人というのも、あながちウソではないようだ。
片手に持った大木剣を勢い任せに横振る。
硬い木どうしがぶつかり、ガンッ! という音が響く。
中腰になり、左腕で右手の木剣を支える構えを取ったヒイラギは、ぐっと重心を低くした。
そして、デッパフの大木剣が当たった瞬間に、絶妙な角度をつけて大きく上のほうに攻撃の勢いを流した。
自身の力と大木剣の重さで体勢を崩されたデッパフは、目を見開いてヒイラギを凝視する。
「なん……!?」
「僕は人々の命を守るために傭兵会に入った。
僕の後ろに守るべき命があったとき、危険が及ばないようにするために、僕が攻撃を受けなければならない」
体が泳いで隙だらけのデッパフの顎に、ヒイラギの横薙ぎが完璧に決まる。
白目を向いて音を立てて沈む。
「そして、相手の命も奪わずに、無力化する」
小さく息を吐く。
「僕が守る命の中には、相手の命も入っているのです。
先ほどは、失礼なことをたくさん言ってしまって、申し訳ありませんでした」
丁寧なお辞儀に合わせて、わああっと歓声がわき起こる。
新参大会の予選、ヒイラギの初戦は白星から始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます