第二十七話 安全な旅路で目的地へ
親子に追いつこうと必死に走るヒイラギは、自分の判断が正しかったのか考え続けていた。
(強敵を前にしたとき、絶対に危害を加えさせない力があれば、そばにいてもらったほうがいいに決まっている。
それができない今、逃がすことが本当に最善の手なのか……。
もし逃がした先で襲われたら、その人たちを誰が守るんだ……)
じんじんと痛む足を気にせず、前へ前へと突き進む。
(追いかけられない状態にされたとしたら、護衛としての役目を放棄したことと大差ない。
……そんな状態にされたときには、僕も護衛対象も、命はない、か)
命を守ることの難しさを痛感したヒイラギは、遠くに親子の背中を見つけて
見える範囲には敵の姿はなく、追ってきているような音もしなかった。
スリークは本当に追撃してこなかったようだ。
「すみません。遅くなってしまいました。
何事もありませんでしたか?」
親子の隣に並ぶと、馬上の2人を交互に見て外傷などの変化を探す。
父親のレンティスのほうは青白い肌になっており、手の震えも収まっていなかったが、目立ったケガなどはしていなかった。
息子のフォグもケガは見当たらなかった。
その彼はヒイラギのことをじーっと見つめていた。
「ヒイラギさん。ぼくたちは無事です。
ヒイラギさんと離れてからは不安でしたが、必ず戻ってきてくれると信じていましたから」
生き生きと、そしてハキハキとした口調で話すフォグに、ヒイラギは少し驚いた。
村を出たときは連れられるがままといった感じだったはず。
戦いを間近で見てしまったせいで興奮しているのだろうかと、ヒイラギは思案した。
(何はともあれ、元気でいてくれて本当に良かった。
でも、今回は運がよかったにすぎないな。
もっと強くなって、守り続けられる守護者にならないと)
フォグから向けられる純粋な笑顔に応えながら、馬を引いて王国へと向かうのだった。
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「ではこれから、レンティスさんたちの目的地である、グルーマス王国へと出発します。
シーナリームとグルーマスの間は比較的安全な道ですが、何が起きるかわからないので、油断せずにいきましょう」
あれからヒイラギは、レンティス親子の体調などを考えてゆっくりと進み、無事にシーナリーム王国へと到着していた。
村を出たときに暗殺者とスリークに襲われた以外、これといった危険もない旅路だった。
その安全な時間のおかげか、レンティスが抱いてしまった畏怖の感情は落ち着き、普通に接してくれるようになっていた。
しかも、息子のフォグとは非常に仲良くなった。
年齢が13歳ということもあり、ヒイラギにとっては弟のような、フォグにとっては兄でありあこがれの人物のような関係性になっていた。
そんな彼らはシーナリーム王国で十分な休息と、必要な道具などをそろえたうえで、馬を2頭借りて出発したのだ。
レンティスは村から出て王国に着くまでずっと馬に乗っていたため、自力で乗りこなせるようになっていた。
「私にこんな才能があったなんて、”白銀の守護者”様に出会わなかったら一生知らなかったかもしれませんねぇ!」
レンティスは普通に接してくれるようになってはいたが、通り名に様をつけることだけは止めてくれなかった。
「お父さんばっかり手綱握らないでよ!
ぼくにもやらせてよ!!」
レンティスの後ろに乗っているフォグが、父親の腰をつかんでゆする。
年齢よりも若干低いような態度になったフォグ。
今までわがままを言えるような環境になかった反動からなのか、父親に対して強く当たるようになっていた。
しかし、それがまた嬉しいのか、レンティスはゆらされたまま上機嫌で馬を進めていた。
「依頼主についてあまり深いことを聞くべきではないと思うのですが、少しだけ聞いてもいいですか」
親子のやり取りを横から
「もちろんです! ヒイラギさんになら何でもお答えしますよ!」
「いや、そこまでしなくてもいいんだけどさ……」
砕けた口調でフォグにそう返してしまう。
フォグから敬語禁止令を出されているため、砕けた口調はむしろ歓迎されていた。
だが護衛中ということもあり、ヒイラギは少しむずがゆかった。
それを
「どうしてグルーマス王国を選んだのですか?
シーナリーム王国も他の場所からの移住者に対して寛容だと思うので、そこでもよかったのではないかなと思いまして」
「ああ、それはですね」
レンティスが答えた。
「以前村に来てくださった傭兵の方が、グルーマス王国が住民を集めているということを教えてくださって。
今なら住むところと職を確保してくれると聞き、それはありがたいと思ったのでそこにしたのです」
「そうなんですね。グルーマス王国は今そんなことをしているんですか……」
ヒイラギは感心したが、妙な引っ掛かりも覚えた。
国を大きくする手法の1つとして、外からの移住者に手厚くすることは別に変わったことではない。
周囲の国の情報を熱心に仕入れていないヒイラギが、そのことを知らなかったことも不自然ではない。
ヒイラギが奇妙な感覚に首をかしげていると、レンティスはとっておきを話すように言葉を続けた。
「”白銀の守護者”様のことをうかがったのも、その方からでしたよ。
確かその方は……そう、”健脚”っていう通り名だったはずです」
驚くというよりはむしろ納得した。
「ナーランさん、本当になんか、すごいなあ……」
運び手部門の第一位は伊達じゃないなとヒイラギは改めて思った。
そんなたわいもない会話を時々かわしながら、一行はグルーマス王国へと到着したのだった。
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