第五話 実力を見せるために新参大会へ③
「長かった試合も、短かった試合もあるようですが! 予選突破者が出そろいました!
ただいまより、本選を開始いたします!
本選のルールは基本的には予選と同じですが、1つだけ違うところがあります!
それは、総当たり戦からトーナメント戦になることです!
最優秀新参傭兵が決まるドキドキの戦いを、ぜひご覧くださいね!
それでは、トーナメント表をご覧いただきましょう! こちら!」
メインのステージに集められたところで、司会者が元気よく進行を始める。
かぶせられていた布が取られ、トーナメント表が出てきた。
予選突破者全8名の名前が記入されており、誰と誰が戦うかも既に決まっていた。
ヒイラギの予選のあと、各ステージでもう1つずつの予選が行われた。
単純に考えて、今回は40名程度の新参が参加したことになる。
「ご覧の8名で本選を戦っていただきます!
ドキドキワクワクの第一試合は、5分後に開始いたします!」
本選出場者の8名はステージ近くの控室に呼ばれた。
控室といっても、大きな天幕に8卓と8脚の机とイスが置かれているだけだ。
おのおの適当に場所を決めると、それとなく対戦相手を観察し出した。
独特の緊張感が、天幕の内部に漂う。
そんな中、前髪で目が隠れているあの青年は、イスに座って腕を組んでうつむいていた。
あくまでいつも通りといった感じだ。
第一試合に名前のあった2人は、緊張をしている様子はあまりないものの、イスには座らず体を簡単に動かしていた。
ヒイラギの試合は第二試合である。第一試合のこの2人のうちのどちらかが、勝ち上がった際の対戦相手ということになる。
しかし、まずは初戦を勝たなければ、先のことを考えても意味がない。
最初の対戦相手を確認する。
持っている武器は木剣が2本。実際戦っているところは見てないが、力よりも速さで攻めてきそうな体格をしていた。
「ではすみません。第一試合のラセターさんとソジュさんはステージにお越しください」
ヒイラギが観察している間に、第一試合の2人が呼ばれた。
ラセターは盾と剣を持ち、ソジュは剣のみを持つと、天幕から出ていった。
「みなさんお待たせいたしました! ただいまより、本選第一試合を開始いたします!」
予選にはなかった鐘の音が高らかに鳴り響いて、試合の開始を告げた。
天幕の中から試合の様子を見ていたが、予選よりも観客が多く、注目度が高そうだった。
それに加えて、予選ではほとんど見なかったベテランらしき傭兵の姿も見られるようになっていた。
ラセターとソジュの対決は、ラセターの盾を弾き飛ばして強い一撃を入れたソジュの勝利に終わった。
終始途切れることなく連撃を繰り出し続けたソジュが、そのまま押し切った形だった。
どうやらソジュは、スタミナがある男らしい。
「ではすみません。第二試合のヒイラギさんとカゼリさんはステージにお越しください」
名前を呼ばれた2人は、それぞれの武器を持って天幕を後にする。
ステージに向かう途中、戦いを終えたソジュとすれ違ったが、ソジュは2人の方をちらりとも見ずに天幕へ戻っていった。
「熱戦の第一試合に続いて第二試合です! こちらはどのような試合になるのでしょうか!
それでは、本選第二試合、開始です!」
鐘が鳴らされた。
試合開始の際に、一定の間隔を空けていたヒイラギとカゼリは、その距離を保ったまま少しずつ右に動く。
お互いにまずは相手の出方を伺う。
ヒイラギは左手で誰かを庇うような独特の構えを取っており、どこか隙があるような構えに見える。
その構えを警戒してか、カゼリは2本の木剣をヒイラギに向けたまま、踏み込めずにいた。
第一試合と違いあまり動きがない試合に、観客たちは野次を飛ばす。
「お互いに見つめ合ってるだけじゃ何にもならんぞ!」
「思い切っていけー!」
「やったれやったれー!」
ヒイラギは野次を受けても表情ひとつ変わらなかったが、カゼリは冷や汗を垂らすと、言葉に押されるようにヒイラギへと飛び掛かった。
上段から振り下ろされた2本の剣を、剣の側面に手を添えて正面から受ける。
ヒイラギの体が少し沈む。
その一瞬を察知したカゼリは、左手は力を込めたまま、右手を引いてヒイラギの無防備な体を横薙ぎしにかかる。
ヒイラギは右手が引かれたのを見て、腹に力を入れ、受け止めているカゼリの剣を一気に押し返した。
重心が後ろに流れたカゼリだったが、右手の横撃は構わず続行する。
しかし、その攻撃は真下方向に叩き落され、剣先が地面に当たった衝撃で、木剣が右手から飛んでいく。
そして逆に無防備になったカゼリの右側から、今度はヒイラギの横撃が飛び、右肩を強打する。
これらが一呼吸をする間に起った。
カゼリは左手で右肩を庇いながら、いったん距離を取った。
先ほどまで野次を飛ばしていた観客が、打って変わって大きく盛り上がる。
痛みに顔を歪めながらヒイラギを睨みつけていたカゼリだったが、長く息を吐くと、再び踏み込んできた。
「……!!」
初撃よりも格段に早い突きに、一瞬対応が遅れたヒイラギだったが、すぐに気を取り直し外側へ弾く。
そのまま間髪を入れずに、左の鎖骨のあたりへ一撃を入れた。
「……っく。降参する……」
カゼリは痛みによってうずくまりながら、絞り出すように降参を告げた。
「第二試合終了! 勝者はヒイラギさんです!」
試合の終了が告げられると、ヒイラギは大きく息を吐く。
そして遅れて出てきた大量の冷や汗をぬぐう。
予選とは違う、大勢の観客に囲まれた状況。対戦相手の質の違い。
これらが合わさり、精神的にかなり消耗してしまった。
(でも、初戦で雰囲気をつかめたし、結果だけ見れば無傷の勝利だから。よし、前を向いていこう)
ステージから戻る道中で、第三試合に出場する2人とすれ違った。
そのうちの1人は、例の前髪で目が隠れている青年だった。
何も気負っていない歩きで、ステージに上がっていった。
「第二試合は一瞬の攻防を見せてくれました! 第三試合も期待しましょう!」
開始の鐘が鳴らされる。
「先手必勝。我が槍技の前に沈むがいい」
青年の対戦相手は、独特のタメの構えから、射出するように突きを繰り出した。
その狙いはまっすぐ鳩尾へと向かっていた。
青年はそれを見定めたかはわからないが、木剣の柄を両手で包み込む独特な構えを取ったかと思えば、相手の槍の側面にぴったり剣を沿わせた。
そのまま剣と共に進み、目にもとまらぬ速さで槍を持つ両手を連打する。
流れるように顎とこめかみにも食らわせると、何事もなかったかのように立ち止まった。
瞬く間に体の4か所を打たれた槍使いは、本当に槍をステージ外に射出しながら、前のめりに倒れた。
「……だ、第三試合、終了! 勝者はマフィスさんです!」
あっけなさすぎるが、何が起きたかほとんどの人間はわからない。
試合終了が宣言されたあとには、歓声はなく、不気味な静寂に包まれるのだった。
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