第六話 強敵と戦う準決勝へ①

 一瞬の出来事に終わった第三試合に続いて、第四試合が行われた。

 観客は第三試合の衝撃を若干引きずりながらも、互いにノーガードでやりあった第四試合に盛り上がりを見せた。


「本選の一回戦目がすべて終わり、残りは4名になりました!

 ここまでくると、それぞれの戦い方がはっきりしてきましたね!

 攻め手を緩めないソジュ!

 無傷で守り切るヒイラギ!

 一瞬で勝負を決めるマフィス!

 力と体力でねじ伏せるドーム!

 この中から一体だれが優勝をつかむのか!

 準決勝、第一試合はまもなく開始いたします!」


 

 4人になった天幕の中で次の対戦相手について考えていると、大きな男が声をかけてきた。


「よお。おめえがヒイラギだよな。俺はドームって名前だ。

 決勝戦は俺とデッパフとの戦いになるかと思ったいたら、デッパフを倒して別のやつが天幕にいて驚いたぜ。

 だからどんなやつかと思って、一回戦を見てたんだが。おめえ……」


 大きな手のひらをヒイラギの机に叩きつける。


「いい感じじゃねえか! 一歩も引かずに攻撃を受け切って、そこから反撃して仕留めるったあ!

 俺の戦い方のぉ、テクニック版みてえなやつ!

 俺はおめえと決勝で戦いてえ! だから負けんじゃねえぞ!」


 それだけを大きな声で言うと、ヒイラギの返事を待たずに、今度はメカクレ青年のマフィスの元へ向かった。


「ってことでよお! おめえに勝つつもりでいる俺に、何か言うことねえか?」

「……特にない。俺は優勝してスリーク・ドライと戦えと言われている。それ以外は別になんでもいい」

「言われてるって、おめえは誰かの言いなりになって動いてんのか? まあそれでもいいさ!

 俺はおめえのことも嫌いじゃねえからな。強いやつはいい!」


 豪快に笑いながら残ったもう一人のソジュにも話しかける。


 突然の交流に驚いたが、一度冷静になるために、残っている3人の試合を思い出す。

 まずはドームが戦った第四試合。

 互いに大木剣を持ってのノーガードでの叩き合い。

 単純にタフさと力で優ったドームを倒すのは、なかなか骨が折れそうだった。


 続いて、マフィスの戦いを思い出す。

 本当に一瞬のうちに的確な場所を、適した攻撃で叩く。

 相手の武器に自分の剣を沿わせる独特な接近方法で、たやすく懐に入り込む。

 あの速度についていけなければ、他の傭兵同様に一瞬で仕留められるだろう。

 最も警戒すべきかもしれない。


 次の対戦相手のソジュは、攻撃自体は単純だが、その嵐のような攻撃は終わることがない。

 無尽蔵なスタミナと降り注ぐ攻撃をどう対処するべきか。

 準決勝の段階で負けるわけにはいかない。


 こうして対策を考えている間に、準決勝、第一試合の時間となった。

 第一試合は、マフィス対ドームの戦いである。


 

「この戦いの勝敗の予想がつく人はいるのでしょうか!

 圧倒的な速さと圧倒的な力の対決です!

 今までの試合のように一瞬で沈めるのか!

 それとも持ち前のタフネスで長期戦に持ち込むのか!

 色々な部分が対極な両者の対決です!」


 司会者が大きく息を吸い込む。


「それでは! 準決勝、第一試合! 開始です!」


 開始の鐘と共に、観客たちの声援がどっとあふれる。

 準決勝になり、さらに人数が増えたようだ。

 

 いきなり仕掛けたのはドームだった。

 両手で大木剣を強く握り、無防備になるのもお構いなしに大きく振りかぶる。

 そんな隙だらけな姿を見ても、マフィスは先手を取ることをせず、いつもの構えを取った。


「うおおおおおらああああああ!!!」

 

 気合の入った雄たけびと共に、すさまじい勢いで大木剣が振り下ろされた。

 普通に考えれば受け止めることは絶対にせず、かわすしかないと考える強烈な一撃である。


 しかし、その一撃にさえも、マフィスは剣を沿わせる。

 そしてあっという間に懐に入ると、大木剣を握っている両手、両肘、左ひざの順に連撃し、ドームの背後まで走り抜けた。


 ステージに大木剣が接触し、大轟音を響かせる。


 観客からしてみれば、大きな音が鳴った時にはすでにマフィスがドームの背後で背を向けている状況である。

 今回もよくわからないまま試合が終わってしまったのか。

 そう思う観客が出始めたとき、ドームの笑い声が観客の目を引いた。


「だーっはっはっはっは!!

 素早いくせに、なんとも強い攻撃をしてくるやろうだ!

 これが真剣だったら、とっくに俺は殺されてたわ!!」


 打ち下ろしていた大木剣を肩に担ぐと、マフィスの方を振り返る。


「だが、今は新参大会でおめえの武器も木剣だ。

 まだまだやれるってことだなあ!!」


 頭の上で大木剣をまっすぐ構える。

 一歩の大きな踏み込みでマフィスを捉えると、再びステージに大木剣が叩きつけられた。

 

 やはりその刹那に、マフィスは手や関節に攻撃をしているが、ドームはダメージを負っている様子がない。


「とはいえよお。こっちの攻撃が当たらねえってなると、じり貧だよな!

 しかも、これから傭兵としてやっていくってのに、苦手な相手がいるって宣伝してるようじゃあダメだよなあ!」


 頭をかきながら、考えていることを全て言葉に出しているようだ。


 ここにきて、二度の攻撃の機会を得ておきながら、仕留めきれなかったマフィスの構えに変化があった。

 今までの両手で包み込む剣の握り方はそのままに、姿勢をやや前に倒し、足を曲げてタメを作ったのだ。


「おめえも本気ってわけだ。いいぜ!! 俺も出し惜しみはしねえ!」


 先ほどまでの大きな振りかぶりではなく、脇を締めて小さく振りかぶる。

 締められた腕の筋肉は、今までよりもひとまわり大きくなった。

 

 見ていた誰もが理解した。

 

 次の一撃で決着がつく。


「しゃあ行くぜ!!!!!」


 ドームの声を合図に、両者が同時に突っ込む。

 コンパクトに振られた大木剣が、残像を残しながらマフィスの木剣とぶつかる。

 それにすらもマフィスは木剣を沿わしたが、その瞬間に、ドームが手首をひねり、ついにマフィスの木剣を弾いた。

 だが、手から飛んでいくのをかろうじて防いだマフィスは、弾かれた勢いを利用して回転し、三度、両手、両肘、左ひざに叩き込んだ。

 

「んぐ……!」


 同じか所を今まで以上の力で攻撃され、さすがに武器を落とし片膝をつく。


 その隙をついたマフィスの攻撃が、ドームの後頭部に直撃する。

 

 その時、マフィスの前髪がふわりと浮き、ようやく両目がはっきりと見えた。

 

 殺意。

 

 そのほかの感情は一切ない。


 

 ドームは後頭部に受けてもなお立ち上がろうとしたが、体を少し起こしたところで、意識を失った。


「試合終了! 準決勝、第一試合! 勝者はマフィス・グネット!!」


 うわああああああああああああ!!!


 今回は観客からの大歓声に包まれる。

 ただ、マフィスの双眸を見てしまった一部の者たちは、歓声に呑まれることしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る