第三十三話 精鋭4人で討伐へ

「すみません、遅くなりました」


 ヒイラギは傭兵会本部の2階にある防音部屋へと入室する。

 そこにはオニキスのほか、顔を知らない2名の傭兵が言葉を発さずに座っていた。

 なんとも重々しい雰囲気にヒイラギは気を引き締めなおした。


 ヒイラギがここに来た理由は、スクイフのところで何かを勘違いした傭兵に話を聞いたからだった。

 曰く、傭兵会が緊急でヒイラギを呼んでいるとのことだった。

 ヒイラギは受付のイルの元へ急ぐと、今から緊急会議が行われるため参加してほしいと言われたのだった。


「ああ、気にすることはない。緊急の呼び立てに応じてもらってすまない」


 大きな机の上に両肘をついた目つきの鋭い男がヒイラギを労う。

 

 その言葉に丁寧にお辞儀すると、ヒイラギは空いている席へと座った。


「改めて、急な呼び出しにも関わらず快く参集してもらったこと感謝する。今回は傭兵会本部から君たちへ直接、指名依頼するために集まってもらった」


 各々の席にはその依頼内容が書かれている紙が重しの下に置かれていた。

 ヒイラギは簡単に目を通し、そして眉をひそめた。


「私は傭兵会会長兼本部長のオルドウスだ。君たちの活躍はいつも耳にしている」


 睨んでいるかのような眼光のまま淡々と自己紹介を終えた。

 そして自分の手元にある依頼書へと目を落とす。


「さっそく依頼内容だが、傭兵失踪しっそうの元凶を探し出し討伐すること。これが君たちへの依頼だ」


 依頼書には傭兵の失踪は事故などではなく、意図的に誰かもしくは団体が傭兵を狙っていると書かれていた。

 以前、調査隊を組んで調べた際に、王国南側の森を担当した隊が丸ごと戻ってこなかったとのことだった。

 10人で1つの隊を全滅させたとあれば、並々ならぬ脅威であり、傭兵会としてはこれ以上傭兵を失うわけにはいかないという判断の元、指名依頼が出されたらしい。


 だが、ヒイラギはそこではなく、おそらく自分が呼ばれた理由であろう一文から目が離せなかった。


「また、最近はもっと奇妙なことも起きている。それは、死体が消えているということだ」


 いくつかの場所で死体が跡形もなく消えていることが書かれていたが、そのうちの1つにダリーの名前があった。

 ダリーは確かにヒイラギの目の前で頭を自身の銃で撃ち、様々なものが飛び散って死んだはずだった。

 しかしそこには何かがあったような形成は一切なく、獣などに食い荒らされた様子もないと書かれていた。


「この2つに関連性があるのか疑問に思う者もいるだろうが、何かが起きているときに起きる奇妙なことは十中八九関連性があるものだ。もし関係がなかったとしても、そのような異常なものを相手にしているという心で臨んでほしい」


 ここでヒイラギは依頼の内容を整理した。

 傭兵を失踪させている元凶を探し出して倒すこと。

 その者もしくは団体は、跡形もなく死体を消し去っている異常なものの可能性が高い。

 大きくまとめるとそのような内容だった。


「それで、今回はなぜこの4人なんだ」


 無精ひげを生やした白髪交じりの男が、落ち着いた声で疑問を口にした。


「1人ずつ簡単に指名理由を説明しよう。まずは”白銀の守護者”ヒイラギ・アクロくん」


 ヒイラギは名前を呼ばれただけで背筋が伸びた。

 射抜くような視線を受けて、思わず目を反らしてしまった。


「彼は一番最近に消失したダリーの死を目の前で見ている者であり、敵味方関係なしに命を守る優れた傭兵だ。ダリーの現場を見て何かに気付く可能性、および討伐にも必ず力になると考えて指名した」


 ヒイラギはダリーの現場の確認のためだけに呼ばれたのかと考えていた。

 しかし、本部長のオルドウスはヒイラギの今までの短い期間に積み上げた功績と信頼を評価していた。

 そのことを率直な言葉で伝えられ、ヒイラギは体に力が湧く感覚を覚えた。


「”天駆る暗殺者”コロッガ・オニキスくん。彼の機動力はみな知っている通りだ。上空からの偵察及び伝令役、戦闘の際の奇襲を期待して指名した」


 ”武器狩り”のときに助けてもらって以降、ヒイラギはオニキスと言葉を交わしておらず、若干気まずい思いをヒイラギは抱いていた。

 当の本人は何も気にしていないのか、ヒイラギを見ても何の変化も見せなかった。


「”堅固爆砕”ジョン・プロローズくん。現、護衛部門第一位の彼がいればどのような相手であろうとも戦い抜けると見込んだ」


 過大な評価にも動じず、無精ひげをなでるだけのジョン。

 彼はヒイラギを見て、ほう、と小さく口にした。

 そして何かが腑に落ちたのか本部長オルドウスに視線を移した。


「”ディープ・ダウン”コン・カルーグくん。傭兵部門第三位の実力者だ。正面を切った戦闘においてはスリークくんも一目置くほどだ」

「一目置かれた覚えはないっすが、精一杯力になろうと思うっすよ」


 白い歯を見せながら、重々しい雰囲気を意に介さずひょうひょうと答えたのは、通り名”ディープ・ダウン”のコンだった。

 この会議の場においても上裸であることからも、彼の自分を貫く姿勢がうかがえる。


「あとはそのスリークくんにも声はかけているが、来られるかはわからない。つまりこの場の4名が少数精鋭。この事態に私が最適だと指名した者たちだ。君たちの健闘と無事を祈る」


 本部長のオルドウスの言葉に背中を押され部屋を出たヒイラギは、やる気と力にみなぎっていた。

 

 そのヒイラギに案内されて、4人は最初にダリーが死んだ場所を見に行くことにした。

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