第36話

「あなたよく来るのね。」


「気にせず、私を撫でなさい。」


「素直じゃないのね。」


 彼女は、太陽のように笑っている。


 その白い猫は、身を委ねるように気持ちよさそうな顔をしている。


「アメって子は見つかったの?」


「まだだけど、貴女との約束は忘れてないわ。」


「義理堅いのね。」


「そこまで自由に生きてないのよ。私たち猫でも。」


「そう。」


 彼女は優しく言葉を落とす。


 白い猫の柔らかな毛並みが、彼女の手によって滑らかに動く。


 きっと彼女は、すぐには見つからないことを分かっているようだ。



 ここは、あの過去の病室の続きだろう。


 彼女は、毎朝、窓を開ける。


 隣の木には、女王さんが当たり前のように待っている。


 窓を開けると同時に彼女の病室に飛び込む。


 女王さんは、彼女が甚く気に入っているようだ。


 優しく撫でるその手が、気持ちいいことに共感を覚える。


 僕は、女王さんを羨ましく思った。


 女王さんは、彼女が検査を受ける際は空気を読み、窓の外へと避難する。



 そんなことを繰り返したある日、気分転換に彼女が病室から戻って来た。


「ねぇ、こんな石見つけたんだけど。どう?」


「変わった石ね。」


「猫さんに見えるでしょ。」


 彼女は、満足げに笑顔になる。


 その掌に置かれた石は、クロさんの命とも言われたあの石だった。


 僕は、また騙されたのだ。

 女王さんの優しさに触れたような気がした。


 僕は、光の粒子となり消えた。


 目を覚ますと、自室のベットの上だった。

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