第23話

 僕たちはのんびりゆったりと、夕焼けとともに歩いて行った。


 あの夕焼けも、寝転んで背を向けた猫さんのようで、かわいく見える。


 僕は、ミケさんに話しかけてみる。


「ミケさん?」


「なんだい?」


「ミケさんは、どのくらいの猫さんと会ったことがあるんですか?」


「ん~そうだねぇ~、数えきれないくらいたくさんかな。」


「どうやってそんなにたくさんの猫さんたちと出会ったんですか?」


「僕は、一度旅をしたことがあるからね。」


「旅ですか。」


「そう。この世界を歩いて回ったんだ。」


「どうでした?」


「楽しかったよ~。かっこいい人に可愛い人、それに面白い人。色々いたよ。アメも生きてるうちに一度はどこか旅をしてみるといいよ。きっと自分も知らない遠くのことを知れて、もっと楽しくなると思うから。」


「もっと楽しくですか…。」


「もしかして、楽しくないの?」


 猫さんになってから精いっぱい楽しんでいるつもりだったが、何か引っかかった。


 きっと、僕の楽しさと、ミケさんの言う楽しさが違うからだろう。


「そんなことないですよ。」


「よかったよ。」


「たくさんの猫さんたちに囲まれてこれ以上ないくらい楽しいです!」


 無理にテンションを上げてみる。


 このまま話が流れてくれれば、もう思い悩むことはない。


「でも、なんだか寂しそうだね。」


「寂しそう?」


「うん、独りぼっちって感じかな。」


「独りぼっち…。」


「ごめん。やっぱなし、僕たちが付いてる限り、アメは一人じゃないよ?」


「ありがとうございます。」


 なんとか、誤魔化せたはずだ。


 猫さんの体は意外と正直だ。


 何とか抑えて、言葉で誤魔化す。


 尻尾や、耳なんかは勝手に動くが構いなしだ。


 僕はこの時、このタイミングが幸せだと思い込むことにした。


 僕は、あまりに我儘なのかもしれないと、頭の隅をよぎる。


 ミケさんはきっと、正直な人だ。


 僕より正直で、そして優しい。


 だから、僕の思いの外から槍を突くことができるのだろう。


「ミケさん、あっという間でしたね。」


「そうだね。いつもあっという間だよ。」


「そうなんですか?」


「寝たかったら寝て、遊びたかったら走り回って、僕たちは楽しくて仕方がないんだ。」


 ミケさんは、目を輝かせながら話す。


 とても猫さんらしい、自由な生き方に憧れを覚えた。


 僕は、まだ自由じゃないのだろうか。


 ミケさんのように手放しで楽しめる、ナニカを見つけれていないようで、辛い。


 僕が見つめるミケさんの背中は、猫さんの体よりも大きな、誇らしげなものに感じた。


 自分のことは自分がよく知ってるといいたいところだが、わからないこともあるみたいだ。


 そうこうして、僕たちはまた、森の中に消えた。

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