第22話
僕は芝生の上で寝転がる。
ゆったりとしたそよ風が、気持ちいい。
ほかの猫さんたちも思い思いの楽しみ方をしている。
本当だと、僕のこの手で猫さんたちを思う存分撫でてやりたい気持ちでいっぱいだ。
しかし、僕の手はとっくに人のそれではなく、猫のかわいらしい優しい手になっている。
きっとこの手で撫でるより、僕の舌で優しく毛づくろいしてあげたら喜ぶのだろう。
僕は、頼れるミケさんのとこに近付いて顔を擦りつける。
やはり、お兄さんのような優しさを併せ持つミケさんは僕のことを優しく舐めてくれる。
一通り舐めたと思うと、ミケさんはあくびをして静かに眠ってしまう。
僕は、隣で真似をしてお昼寝をする。
うるさい時もあればゆったりとした静けさがやってくることがある。
そんなこの空間が、僕にはあっていると感じる。
ミケさんやマーブルさん、トラさんたちは人間だったときよりも僕のことを大切にしてくれる家族のような存在だ。
僕がつらい時に頼ればきっと優しくそばにいてくれることだろう。
何より、猫さんたちは暖かく柔らかい。
このクッションのような気持ちの良さとともに眠れている空間というのが、この上なく贅沢に感じる。
僕は時間を忘れて猫さんたちの中で眠り続けた。
途中起きると、何人かの生徒たちが、猫さんたちのことを撫でようとしていた。
お昼休憩だろう。
触られることが嫌な猫さんは、苛立ちを露わにしている。
大人しい猫さんは、黙って撫でられることに許容している。
それを横目に見ていると、僕の番がやって来た。
僕は、同級生やそれに近しい人たちに撫でられるのは、なぜか嫌だった。
そのため、もっと木の根のほうに近付いて、もう一度寝ることにするのだ。
もし、深い眠りの中で、勝手に撫でられていたとしてもお構いなしだ。
眠りたいから、寝続けていたいのだ。
いろんな猫さんたちが気持ちよさそうに、この場に集まっているというこの光景が僕の睡眠を促進させた。
広がってくつろぐ猫さんが一点に集まり、そこで眠れたならと考えると幸せが増幅して止まるところを知らない。
きっと、高級ベットよりも幸せな眠りができること間違いなしだろう。
僕は、この丁度良い暗さの木陰の中で眠った。
特に夢は見なかったが、幸せだった。
夢を見て疲れるくらいなら、見ないほうが楽だ。
僕は、気ままに生きたい。
生きたいようにほどほどの努力で生きていきたい。
そんな中、猫さんの体になれたこの時がありがたい。
もし、この体になれたことが夢だったのなら、それもまたゆっくりと受け止めたい。
一瞬で覚めてしまえば結末なんて綺麗に終わらない、そんな夢の中であっても、今が幸せなら受け入れるだろう。
僕はそれほど猫さんに近いのだ。
僕はゆっくりと目を開ける。
ミケさんが、自身の毛づくろいをしていた。
「ミケさん、おはようございます。」
「おはよう。よく眠れた?」
そう言いながら、ミケさんはあくびをしている。
僕よりもミケさんのほうが眠そうだ。
かわいい。
「少し暗くなりましたね。」
「だね。そろそろ戻ろうか。」
「わかりました。」
「ミケ、帰るのかい?」
「ああ、そろそろ帰ることにするよ。また会おうね。」
「またね。」
そのミケさんとマーブルさんの会話が微笑ましい。
そして僕は、ミケさんの後ろについて行きながら、歩いてゆっくりと帰ることにした。
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