第21話
マーブルさんは、ゆっくりとした歩みで自分の世界を解説してくれる。
「アメちゃん、ここが一番涼しいところよ。たまに寒くなっちゃうから要注意ね。その代わり疲れて暑い時は、ここが一番よ。」
木の木陰を指示して、そう教えてくれる。
今度は、木陰からすぐ近くの丁度良い芝生の日向に向かって行く。
「ここは、ポカポカに暖かくて気持ちのいいところよ。たまに涼しい風が吹いたときは完璧ね。でも暑いときは、あそこで涼んだ方が一番ね。」
「教えてくれてありがとうございます。」
僕が感謝をすると、マーブルさんは少女のような可愛らしい笑顔で答えてくれる。
僕の言葉一つで、ここまで反応してくれる人がいることが、うれしい。
「あとは、ここが一番気持ちいいのよ?」
そこは、いつも僕が座っていた椅子だ。
「たまに優しく撫でてくれる人が来るんだけどね。みんなその人が好きなのよ。」
「そうなんですか。よかったらどんな人か教えてもらってもいいですか?」
僕は、少し浮かれた気分で聞いてみた。
「そうね。何といっても撫でる手が優しいのよ。強すぎず、弱すぎず、ちょうどいいの。あとは、私たちの撫でてほしいところを分かってるみたいですごいのよ。気づくとついつい寝ちゃってるのよ。彼から不思議な匂いがするのは残念だけどね。」
「不思議な匂い?」
僕のことを褒めるだけかと思ったマーブルさんは、不思議なことを言う。
「そう、あの子からたくさんの仲間の匂いがするのはわかるんだけど、ちょっと暗い匂い?がするのよ。」
「暗い匂いですか?」
「そうよ。仲間が寝て起きなくなる時にする匂いに似てるんだけど、不思議だわ。」
「変わった匂いの方がいるんですね。」
マーブルさんの発言に驚いてしまう。
恐らくその匂いがする人物は、僕で間違いないはずだ。
猫さんが亡くなるときと同じ匂いということは、いわゆる死臭に近いものだろう。
「マーブルは鼻がいいんだ。」
ミケさんが芝生に体をくねらせながら教えてくれる。
「マーブルは俺達でもわかんない匂いを嗅げるんだよ。不思議だよな。」
「ですね。」
「でも、私もよくわかんないのよね。最近、そんな匂いが分かるようになったのよ。」
「面白い鼻ですね。」
僕の知らない所でこういう不思議なことが起こっていると少しワクワクする気持ちがある。
だが、突然そういうことを感じるようになると、きまってよくないことが起こるのではないのかという不安感がある。
「そういえば、うっすらだけどアメちゃんから、あの子の匂いがするのよね。」
「たくさんの猫さんの匂いですか?」
「それだったら、私たちも似たようなものでしょ?そうじゃなくて、暗い匂いがするの?」
「え?」
「うっすらだからあんまりわからないけど、そんな感じがするの。もしかして、近くで寝て起きなくなった仲間を最近見たの?」
「そんなことないと思いますけど。」
「そう、きをつけるのよ?」
「ありがとうございます。」
マーブルさんは、どこか人間味がある感じだ。
野性的ではないといった方が近いだろうか。
トラさんは、仲間の死にあまり関心がないようだったが、マーブルさんのような猫さんもいるとわかると安心するものがある。
「たぶん、今日あの子に会えるから私の気持ちわかってくれたらうれしいわ。」
「マーブル残念だけど、その人は今日、来てないみたいだったよ。」
「そうなの。残念ね。」
本当に残念そうにするマーブルさんに対して申し訳ない気持ちになる。
そして僕は、ミケさんや、マーブルさんとともに暖かい日差しと、涼しい木陰に癒されてその日を送ることにした。
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