第20話

 ミケさんが目的地に着くと、一匹の猫がのそのそとやって来た。


「ミケじゃな~い。いらっしゃい。今日も一緒にくつろいでいきましょ。」


「ありがとう。そうさせてもらうよ。」


「あと、さっきからその隣にいる、かわいい子は誰なの?」


 ミケさんと親しくする、白と茶色のマーブル模様の猫さんが聞いてきた。


「アメって言います。よろしくお願いします。」


「アメちゃんよろしく。私は、マーブル。かわいい名前でしょ?」


「はい。とってもマーブルさんにぴったりのお名前ですね。」


 僕は、できるだけの笑顔で答える。


 マーブルさんは満足そうな顔をしている。

 その細めるおめめは可愛い。


 マーブルさんは、少しだけふっくらとした体形をしていて、毛は短く、きっと抱き心地がいいはずだ。


 ミケさんが頼りがいのあるお兄さんだとしたなら、マーブルさんは頼りがいのあるおば様のようなイメージが一番合っている。


「アメちゃんもかわいい名前ね。」


「ありがとうございます。」


「アメちゃんは誰につけてもらったの?」


「僕の名前ですか?」


「そうよ。私の名前は、ミケと同じくさっきのおじさんからつけてもらったのよ。」


 マーブルさんはすごく楽し気に答えている。


 猫さんたちにとっては、名前を付けてもらえることはとても嬉しいことのようだ。


 僕は、猫さんに伝えるほどのエピソードはないため、返答が困る。


「ちょっと忘れちゃったかもしれないです。」


「そうなの?残念ね。アメちゃんってしっかりしてそうで、案外忘れっぽいのね。」


 何とか誤魔化せたようだ。


 僕は少しだけ胸をなでおろす。


「でも、私たちのことは忘れないでよ?」


「それは、絶対ありえないのです!!」


 冗談交じりだったはずの発言に、脊髄反射でそう答えてしまう。


 我に返って少しの反省をしてしまう。


「ありがとう。うれしいわ。」


 マーブルさんは、とても愉快に笑っている。


 そんな姿を見れただけでも、恥ずかしさはあるが、報われる気がした。


「今日は皆、来てるの?」


「もちろん。こんなに気持ちのいいところはないからね。みんな変わらずゆったりよ。」


 ミケさんとマーブルさんのそんな会話を聞くと、女王さんの努力を感じるようだった。


「アメちゃんは、ここ初めてよね?」


「そうですね。」


 学生として来ていたが、おそらくわからないだろう。


「ここは、私やミケが詳しいから、よかったらいっぱい頼るのよ?」


「ありがとうございます。」


「早速なんだけど、アメちゃんは、どんなくつろぎ方をしたいの?」


「くつろぎ方?」


「そう。みんな各々のくつろぎ方があるからね。教えてくれたらもっと案内しやすいと思ってね。」


 猫さんになって間もない僕が、そのようなことを考えたことがないため、返答に困り適当に返してしまう。


「じゃあ、マーブルさんのおすすめを教えてください!」


「それでいいの?」


「はい。」


「わかったわ、それだったら一通り教えるわね。気に入ったところがあったら教えてくれると助かるわ。」


「ありがとうございます。」


 そうして、ゆっくりとマーブルさんは歩き出した。

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