第24話

 僕たちは、森の茂みの中に消え、その先でまた猫さんたちの集まりに混ざる。


 夜空に浮かぶ月は、じんわりと光を増している。


 そこが返るべき家のように、僕は猫さんが集まっているその光景に微笑ましさと、安心感を織り交ぜる。


「トラさん帰ってきました!」


 トラさんを見つけては、そう呼び止めた。


「おう。おかえり。アメは本当に不思議な奴だな。」


「どこがですか?」


「ここなんて、俺たちが勝手に集まってるだけのたまり場だろ?」


「はい。」


「それなのに、そうやって嬉しそうにここに戻ってくるなんて、皆とは違ってて不思議だってだけだよ。」


 そう言って、トラさんは笑っている。


「ダメだったですか?」


「ダメじゃねぇよ。ありがとな。」


 太陽のような、かわいいらしい微笑みが眩しい。


「ありがとう?」


「こんなところをお家のように扱ってくれて。」


「みんな、家族みたいで僕好きですよ。」


「俺も好きだぞ。そういう素直な奴は。」


 少し照れるが、皆素直に僕のことを見てくれる。


 トラさんは僕の体にやさしく自身の体を擦りつけ、舐めてくれた。


 本当の体だったら、トラさんの毛並みをゆっくりと優しく撫でていただろう。


 少しだけ、もどかしい気持ちになる。


「ミケもありがとうな。」


「僕も好きにいつも通りしていただけだから、気にしなくていいよ。」


 トラさんは、ミケさんにさりげなく感謝の気持ちを伝える。


 人間のような恥じらいというものは、あまり感じないようだ。


「アメだ~。」


「アメだ~。」


 奥から軽い足音を鳴らしながら二匹の猫が走ってきた。

 マルとマダラだ。


「ただいま。」


「「おかえりぃ~!!」」


 二匹が僕を挟むように、頭を擦りつけてくる。


 慣れないこの体で、二人の頭を舐めてあげる。


 おめめを細めて、気持ちよさそうだ。


「おう、あんたが、アメかい?」


 暗闇からよたよたと一匹の猫が現れた。


「ダイフクの爺さん。今日は起きてるんだな。」


 トラさんがそう呼ぶ猫さんは、老猫さんのようだ。


「ああ、今日は元気が出て動けてるんじゃ。」


「そりゃあ、よかった。」


「初めまして、最近お世話になってるアメです。」


「アメ。よろしくなぁ。私はダイフクっていうんじゃ。最近はあまり目が覚めないから、会うことは少ないだろうがよろしくなぁ。」


 ダイフクさんは、あまり開かないおめめで僕のことを見ようとしている。


 おめめには、目ヤニが付いていて少し辛そうだ。

 鼻水も少し垂れている。


「また、眠くなってきたからそろそろいくのぉ~。」


 そう言ってダイフクさんは、猫さんたちの集まりの奥の闇の中へと消えていった。


 僕は少し心配になっていたが、僕以外に心配をする猫さんはいないようだった。


 僕たちは、少しの虫の音と、フクロウたちの囁きの聞こえる森の中で、また眠る。


 寝息を立てる猫さん。

 綺麗な顔で眠る猫さん。

 面白い顔で寝る猫さん。


 見渡す限りの癒しの中で落ち着き、眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る