第25話

 僕は夢を見た。


 草原の真ん中に、真っ白の猫さんがそこにいた。


 僕に哀愁漂う背中を見せていた。



「ここに来たんだな。」


「自発的に来てるわけじゃないので、気づくとここに立っていただけですけどね。」


 僕は、その真剣なまなざしを誤魔化すかのように笑ってみせる。


「そう。ならいいわ。クロ。」


 呼ばれると、クロさんは女王さんの影の中から煙のごとく湧き出る。


「猫になれて、楽しかった?」


 クロさんは、元の大きな姿で僕の頭の上から優しく問いかける。


「はい、今日はミケさんと仲良くお昼寝できてうれしかったです。」


「それはよかったよ。じゃあ、そろそろ戻ってもいいんじゃないの?」


「戻る?」


「ああ、人間にだよ。」


「僕は、人間になるより、この猫さんの姿のほうが幸せなんです。戻ってもいいことなんてありませんし…。」


「そうか…。まだ時間はあるし、ゆっくり決めてくれるとありがたいよ。」


「わかりました。」


 少し腑に落ちない気持ちで、そう答える。


 自分の人生は、自分で決めたいという気持ちは自然なもののはずだ。

 特に、僕以外に迷惑は掛からないはずだ。


「クロさんは、最近は何してたんですか?」


「女王のところでお手伝いを少しね。」


「そうですか。」


「ねぇ、クロそうじゃないでしょ?」


 女王さんが間に入る。


「そうですね。ごめんけど、明日はあの岩のある所まで来てくれるかい?」


「何かあったんですか?」


「そこで会ってから、詳しくは伝えるようにするよ。」


「わかりました。」


 ナニカ、嫌な予感を漂わせながら告げられる。


「あなた、確かここではアメって名乗ってるんでしょ?」


「そうですね。本名だと違和感があるかと思って…。ダメでした?」


「構わないわ。猫は自由だもの。アメって名乗ってるのなら、私たちもそう呼ばしてもらうよ。」


「わかりました。これからもよろしくお願いします。」


「私的には、これからっていうのは面倒だからやめてほしいけどね。」


 女王さんは、少し冷たくそう答える。


 そして、女王さんは奥のほうに歩いて消えていった。


 続くように、クロさんは飛んでどこかに行ってしまった。


 僕は、じっとそれを見つめて、自身も靄の中に包まれて消えてしまう。


 そして、朝の雀の鳴き声とともに、目が覚める。

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