第10話
僕は目が覚めると各々が仲良さげに毛づくろいしあったり、自分の毛並みを整えたりしていた。
大きく伸びをする猫さんや、大きなあくびでまだ眠そうな猫さんたちがいるその空間は、まさに天国と言ってもいいほどだった。
そして、僕にとってうれしかったことは、僕もその光景を同じ視点で見れているということだ。あわよくば体をこすりあって、仲を深めることもできる。
マダラと、マルが僕のほうに近寄って顔を擦りつけてくる。
「「お兄さんおはよ。」」
「おはよ。」
僕の満面の笑みをなつにも見せたいくらいだった。
「意外とお寝坊なんだね。アメって。」
ルナさんは、マダラとマルの後ろからてくてくと近づきながら、そう話しかける。
「昨日は疲れてたからかな?」
僕は、笑って見せた。
それを見たルナは笑っていた。
「おかしな人だね、アメって。」
「どうして?」
「疲れてるのなら、昨日みたいにご飯をバクバク食べないだろぉ?」
「そう?」
「そうだよ。疲れてる人は、その場で寝るか、もう目を開けないかのどちらかぐらいしかいないんだから。」
「そっか…。」
僕は、少しだけ悲しくなったが、これが猫さんたちの日常だろ思うと、堪えなくてはならないという気持ちになった。
トラさんが近づいてきた。
「アメ、起きたかい?よく眠れた?」
「うん。おかげさまで。」
「アメは、変わってるんだなぁ。まぁ、いいけど。」
「そうですか?」
僕は、猫さんたちにとって、違和感を覚えるようなことであふれているようだ。
「あぁ。俺たちは、自由に勝手に集まって、勝手にそこらへんで眠ってるだけだろ?なのに、アメときたら、おかげさまでって。」
トラさんは、爆笑している。
「まるで、クロさんがここにやってきた時みたいで面白いくて俺、好きだぜ?そういうタイプ。」
クロさんは、僕と同じく人から猫になったタイプだ。
だから似ているところもあるのだろう。
「アメは腹減ったか?」
「はい、お腹すきました。」
「俺、いいところ知ってんだよ。」
トラさんは自慢げに話を続ける。
「田中のばあさんのとこ。」
「いいですね。」
僕は調子を合わせて返事をした。
「そろそろ時間だからついてきな、案内してやるよ。」
「ありがとうございます。」
トラさんは、軽やかに、走り始めた。
僕もそれに追いつくように昨日覚えたての走りで追い付こうとする。
たくさんの茂みを抜け、そこには少しの田畑と数件の家が建ち並んでいた。
恐らく僕が登ってきた山の反対側だろう。
僕が登ってきた側の雰囲気とがらりと変わったその空間は、のどかという言葉が丁度当てはまるくらいにゆったりとした時間が流れていた。
「なぁ、ばあさん。来たぜ。」
「おや、いらっしゃい。猫ちゃんたち、トラちゃん。今日は、新しいお友達を連れてきたのね。かわいい子だね。」
そう言いながら僕のほうに手を伸ばす。
「ああ、ばあさんこいつは、俺が認めたいいやつなんだ。優しくしてやってくれよ。」
トラは、皿に盛られた形がまだ残る缶詰の魚をむしゃむしゃと頬張りつつ話しかけている。
僕は、おばあさんの優しくシワの多いその手に撫でられた。
僕が撫でられたのは、いつぶりだろうか、少しだけうれしくなった。
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