第11話

 おばあさんに撫でられてルンルンのままご飯を食べた。


 猫さんのご飯ははずなのに何の抵抗もなしに、僕はかぶりつく。

 猫さんの体になったおかげだろうか。

 美味しかった。


「トラさん。美味しいですね。」


「だろぉ?ばあさんの飯は上手いだろ。」


 正直言えば、これがご飯と言えるかどうかは疑問だ。

 だが、確かに美味しい。この体になると缶詰一つだけでもありがたみが強く表れている。


 恐らくシーチキンだろう。

 人間のご飯を猫さんたちが食べることは実際、よくないことだろう。

 だが、この匂いが妙にそそられる。

 猫さんの体になったおかげだろうか。

 缶詰から出されただけのこの簡単な料理はとてもおいしそうなご馳走のように映ってよだれがあふれそうだった。

 猫さんの体の僕にとっては、味がいつもより濃く感じた。

 魚の旨味を詰め込みまくったようなそのご馳走は、目を輝かせるには十分なほどだった。


 僕はトラさんと顔を交互に寄せて一つの皿のご飯を食べる。


 隣に水を入れられた皿が置かれる。


 おばあさんは僕のことをよくわかってくれているようで、トラさんが好きになるのも納得がいく。


「トラさんこの後どこか行くんですか?」


 流れるように顔を洗いながら聞く。


「う~ん。散歩かなぁ。」


「ついて行ってもいいですか?」


「ああ。好きにしたらいいよ。」


「んじゃ、ばあさんまたな。」


 トラさんは、にゃあと一声鳴いて脇道をとことこと歩き出す。


「アメはここ、初めてかい?」


「そうですね。こっちのほうは来たことがないかもしれません。」


 気づけばきょろきょろと身の回りを見まわしていた。

 それが伝わったのだろう。


「トラさんは、こっちのほうによく来るんですか?」


「ああ、もちろんだとも。行ってしまえば俺の広いお家みたいなものだぜ?」


「とても広いですね。」


「ああ。だが、ばあさんたちみたいに扉を閉めて閉じこもるお家があったなら楽しいのかもなぁ…。」


「かもしれませんね。」


「今日もうるせえなぁ~。」


「烏ですか?」


「ああ?烏?まぁ、あいつらのことだよ。」


「ですね~。大きな声で鳴いてますもんね。」


「だろ?せめて、シロのお嬢さんみたいにおしとやかにしてほしいもんだ。」


「シロさん?」


「ああ、アメはまだ会ったことないだろうが、もうすぐ見えるあの先のお家の中から綺麗な顔で俺と目を合わせてくれるシロって人がいるんだよ。」


「どんな猫さんなんですか?」


「え~と、ふわふわ~で、キラキラ~って感じかね。なんて言えばいいのかわかんねぇけど、とってもきれいな人なんだよなぁ~。」


「好きなんですか?」


「ああ。そうだな。そうかもしれねぇ。でも、あの壁が俺を近づけさせねぇからいいんだよ。」


「辛いですね。」


「そんなもんだろ?よくある話だぜぇ?」


「そうですか…。」


「あ、そろそろ見えてきたぜ?あのお家だ。」


 僕は、トラさんと噂のシロさんのところにたどり着いたようだ。

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