第12話


「シロのお嬢さ~ん。きたぜ?」


 トラさんはそう言ってナァ~と鳴く。


 窓の奥から猫さんが現れた。


 白く長い毛並みとしなりとした動きがとてもきれいでかわいい。

 恐らくメインクイーンだろう。

 きっと柔らかなその毛並みは触り心地がいいこと間違いなしだろう。

 そして、とても綺麗な青いおめめが魅力的である。


 シロさんは窓辺にゆっくりと腰かけてこちらを優しく見下ろす。


「おはよう。トラさん。」


「やぁ、お嬢さん。今日の気分はどうだい?」


「ぼちぼちってところかしら。少し日差しがまぶしいわね。」


「だよなぁ~。あのお日様を吹っ飛ばしてしまいたいくらいだよ。」


 トラさんは、にこやかに話しかけている。


「そこまでしなくてもいいのよ。きっとあっという間に隠れてしまうと思うから。」


 そうやって微笑みかける姿はかわいい。


「ねぇ、その子は誰?」


 トラさんとまた違った見惚れ方をしている僕に目線を送って質問をする。


「ああ。紹介が遅れたな。こいつは、アメっていうんだ。」


「どうも、アメって言います。昨日からトラさんのお世話になっています。よろしくお願いします。」


 僕は、シロさんに丁寧にそうあいさつすると笑われてしまった。


「変わった人なのね。面白い人が増えたのね、トラさん。」


「だろ?こいつ面白い奴なんだよ。知り合いのクロさんってのが連れてきたやつだからいい奴に違いはなんだ。かわいがってやってくれよ。」


 そうやってトラさんは微笑む。


 トラさんはいい猫さんだ。

 ここまで面倒見のいい猫さんは恐らくいないだろう。


「シロさんはとてもきれいな猫さんですね。」


「ありがとう。でも、アメさんもとてもきれいな毛並みよ?」


「そんなことないですよ。シロさんに比べたら。」


 僕が謙遜をすると微笑みかけるよにトラさんにも話しかける。


「トラさんは綺麗というよりかっこいいがあってるのかしら?」


「そんなこと言われたら、俺困っちゃうよ。」


 トラさんは照れ臭そうにそう答えるがとても幸せそうだ。

 本当ならこんな会話を聞ける身ではないため、少しだけ自分の存在を消していたくなった。


 シロさんが一瞬後ろに振り向いた。


「トラさん、呼ばれちゃったみたい。また来てくれる?」


「もちろんだとも。」


「今度は、もっとそちらでどんなことがあったのか、たくさん教えてくれると嬉しいかな。」


「たくさん用意しとくよ。楽しみにしててくれよ?またな。」


「またね。」


 そう言ってトラさんは少し大きく寂しそうな鳴き声で返事をする。


 僕は、トラさんの背を見つめるシロさんのおめめが少し悲しそうで、またうれしそうで素敵だと思った。


 トラさんの後を追うようにシロさんに会釈をして僕たちは去った。

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