第26話

 僕は朝、目を覚ました。


 トラさんたちはまだ、すやすやと眠るほど、ゆったりとした空気が漂う。


 まだ空は、薄暗い。


 僕は、眠い目をこすりながら、クロさんと来たあの道を辿った。

 一度くらいしか使わなかった道だったが、案外覚えているものだ。

 猫の記憶力のお陰かはわからないが、確実に僕の体に影響を与えていることは間違いないだろう。


 ゆっくりと、朝日と歩くように僕は森を奥へと進んだ。


 今の体では遠い道も、きっと元の体だったならあっという間だっただろう。


 僕は眠たいながらも誘われるように、その道をとぼとぼと歩いた。


 そして、最後の茂みを抜け、あの大きな猫さんの像が現れた。



 僕は周りを見渡しながら、女王さんを呼ぶ。


「女王さん来ましたよ。いないんですか?」


「うるさいよ。そんなに叫ばなくても聞こえてるよ。」


「そこにいたんですか。」


 女王さんは、猫さんの像のてっぺんで寝ていた。


 むくりと起き上がり、軽やかに僕の目の前に着地する。


 今日も艶やかな綺麗なその毛並みと、僕の内面まで見透かしそうなそのおめめが、可愛い。


「よくきたね。でも、早すぎるんじゃないの?」


「すぐにでも行った方がいいと思って、起きてすぐに来ちゃいました。」


「そう。まぁいいわ。」


「クロさんはいないんですね。」


 どこを見渡しても、クロさんのいる気配がしない。


「君があまりにも早すぎるから、まだ来れてないだけよ。」


「すみません。」


「気にしなくていいわ。とりあえず、私についてきてくれる?見せたいものがあるの。」


「わかりました。」


 僕は、よくわからないまま、女王さんの後ろについて行くことにした。


 終始無言の二人だったが、いつの間にか、森の奥に来ていたようで、朝日が出始めたばかりにしても暗すぎる、そんな場所に着いた。


 僕は、クロさんを見つけて、安心した。


 目の前の光景に気づけたのは、それからすぐだった。


 目の前には、何匹も年老いた猫さんたちがいた。


 僕は、普段なら可愛いと思えるその光景が、少し不気味に思ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る