第6話
僕は夢から覚めた。
とても幸せで複雑な夢。
僕はある一つの決心をしてペンを執った。
書いたのは、親への感謝、親友への感謝。そして、謝罪。
僕は、石を握り、その日の放課後あの場所に、向かった。
山の麓の神社の鳥居をくぐり、神社の社を横切った。
裏手にいるはずの猫さんたちも今日はいない。
歩く。少しこぎれいな、端には猫の毛が所々引っかかった制服を着て。
進む。少し茶髪よりの寝ぐせのついた髪で風を感じながら。
160センチに少し足らないほどの身長で、木々の隙間を通り過ぎる。
そして、あの開けた場所に着いた。
そこには、待ってましたと言わんばかりの、安堵も織り交ぜたような涼しげな表情の真っ白い猫さんがいた。
猫さんは、僕が近づくのを待っているようだった。
少しずつ猫さんに近づく。
遠くでカラスや、他の猫さんの鳴き声が聞こえる気がする。
日ももう落ちようとしていた。
涼しいはずの風に汗をさらわれる。
「猫さん、持ってきましたよ。この石。」
ポケットから例の石を取り出す。
石の目に当たる部分が光ってるような気がした。
「猫さん、この石を渡す条件を言ってもいいですか?」
「何を言っているの?」
そう訴えているような気がした。
「僕は、あまりにこの日常が詰まらないんです。だから、僕は、手紙を置いてきました。別れの手紙を…。猫さんにはこの本気伝わりますか?」
真っ白の猫さんは勘弁してくれと言いたげな顔で、僕を見つめる。
「猫さん、僕を猫にしてください。もう、未練なんてありません。僕の幸せは、猫さんと一緒にいることなんです。お願いできませんか?」
真っ白の猫さんは、ため息を吐くようにがくりと首を落とす。
そして、真っ白の猫さんが、僕に飛びかかった。
僕が驚き倒れ、目を覚ますと目線が明らかに低くなっていた。
夢の中で聞いたようなきれいな声がする。
「君がどうしてもというから猫にしてあげた。でも、条件がある。次の満月までに、このまま猫でいていいのか答えを出しなさい。」
「満月まで…。」
今日は恐らく新月だ。約15日後ということになる。
僕にとっては、答えが覆ることなどないはずだ。
「わかりました。その時までに猫さんが満足いく理由を並べられたらいいんですね。」
「好きにしなさい。もし満月の日にまで、そのあやふやな感情のままなら、人として、返すからね。」
「あやふや…。」
僕は、猫のようになりたかった。だから、猫になることに悔いなど残らないはずだ。
まるで、僕にもわからない一面を覗かれているようなその言葉に少しの不安感が心に悪戯をする。
そして僕は、猫になった。
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