第7話
猫になった瞬間、慣れない体のバランスに体をよろけさせた。
何とか四本足で立つことには成功した。
勝手にバランスをとってくれるこの尻尾のおかげだった。
ぎこちない歩みで、大きな猫の石のほうに体を向ける。
そこで、待っていた真っ白の猫が、毛づくろいをしながら語りかけてくる。
「ねぇ、これで満足?猫の体なんて、君にとっては使いにくいでしょ?ねぇ、もうやめときなさい。」
「な、なんでですか?せっかく猫さんと同じ体になれたのに、これからもっと慣れますよ。きっと…。だから、まだ僕は諦めません。」
「そう、好きにすればいいわ。ねぇ、クロ。」
そう言われると大きな岩からぬっと大きな黒猫さんが出てきた。
恐らくあの場で出会ったのがこの黒猫であるはずだ。僕が小さくなったおかげで、より大きく感じる。
「貴方は、この子のことどう思う?」
「俺ですか?こいつが望むのなら好きにすればいいんじゃないですかね?」
「貴方がそんなだからあの石を落とすのよ。あの石を無くしたら……。」
「いいんですよ。」
真っ白の猫さんの言葉を遮るように黒い猫さんがそういった。
僕には、その会話が引っ掛かった。
でも、それを聞くことは、僕には無理な気がした。
「ねぇ、君はこれからどう生きていくつもり?」
「どうって、家に帰って……」
僕には、当たり前に帰る家などもうなかった。
こんな姿で僕の本来の姿を想像して扱ってくれる人などないはずだ。
「困っているのなら、貴方が面倒見てあげなさい。」
「いいんですか?」
「何か困ることが?」
「いや、女王がそれでいいのなら従うだけです。」
「それでいいのよ。」
真っ白の猫さんはやはり特別な存在のようだ。
「ねぇ、猫さん。」
「あと、言っておくけど、その呼び方私は嫌よ。ここでは、私のことを女王とでも呼びなさい?」
「わかりました。女王さん。」
僕は、認められているかのような気になってルンルンに答えた。
「女王さんに質問いいですか?」
「なに?聞いてあげるよ。」
「お腹すいたんですけど、どこで食べれますか?」
女王さんは、ガクッと肩を落として言う。
「早速仕事みたいだよ。クロ。連れていきな。」
クロさんは僕にやさしく、おいでと示してくれた。
そして、僕は、暗闇の中で、見失わないように真っ黒の背中を追って茂みの中に消えた。
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