第8話
僕がなんとか暗闇の中で、目の前にいるクロさんに追いついていたのは、この猫さんのおめめのおかげだろう。
うっすらとある明かりの中でもぼんやりと見えていた。
遠くで、猫さんの鳴き声が聞こえる。
実際には、猫さんの耳のほうが人間のより、幾分も性能がいいため、もっと遠いはずだ。
「少し走るよ?」
そう言うとクロさんは、僕を置いて行くように駆け足になり、遠ざかっていく。
彼なりの優しさなのかもしれない。
僕は、慣れない足で、何とか走って追い付こうとした。
たまに絡まりそうな足を何とか動かし、自分に出せる全力で走って見せた。
恐らく傍から見れば、ぎこちなさは言うまでもないだろう。
時々飛び出す木の根に躓きそうになるがそれでも走った。
たまに飛びつく木の枝の高さを見誤ってしまうことが何度かあった。それでも走った。
僕の歩みは、みるみるうちにスムーズになる。きっと慣れてきたのだろう。
まるで羽が生えたように体が思うように動く。
僕はまるでクラシック音楽に合わせて踊るように軽やかに、そしてしなやかに、森の中を突き進む。
もう、僕はどこにも躓くことはなかった。あの木の枝にも軽やかに飛びつくことができた。
僕が苦戦していると、クロさんは優しく少し先で待っていてくれたようですぐに追いつくことができた。
クロさんは、それを知られないようにしているようだが、僕には何となくわかっていた。
クロさんの優しさに少しの好意を寄せて後を追い続けた。
猫さんたちの鳴き声がより一層近づいた。
クロさんに続いて、僕も目の前の茂みを通り抜ける。
そこに広がっていたのは、猫さんの楽園と言ってもいいほどの猫さんたちの集会がそこにあった。
猫さんの体になったためだろう、とても素敵な美人猫さんやイケメン猫さん、かわいいブサ猫さんたちがそこにいて僕は、その空間でお腹が満たされる思いだった。
その中で一匹の茶トラ猫さんが僕のほうに近づいてきた。
「なぁ、クロさんこいつはなんだ?」
「ああ、この人は女王の紹介で、ここにお邪魔させてもらうことになった新しい仲間ですよ。」
「そうかい。で、こいつの名は?俺の名はトラっていうんだ。田中のばあさんにつけてもらったんだ。いい名前だろ。」
「とてもいい名前ですね、トラさん。是非お友達になってくれませんか!?」
「お、おう…。グイグイ来るな~。元気なのはいいことだ。今は、機嫌がいいから、今日の飯少し分けてやるよ。特別だぞ?」
トラさんはとても上機嫌に答えた。
にんまりとした笑顔がとてもかわいく、かっこよかった。
全身の縞模様は、まるで虎そのものをそのまま小さくしたような風格を感じる。おめめは黄色で、少し硬そうな毛並みは、撫でがいがありそうだった。
「紹介が遅れましたが、僕は、アメって言います。」
僕の本名、雨宮(あめのみや) 勝(まさる)。そこから雨の部分をとって名乗って見せた。
「アメっていうのか。いい名前じゃねぇか!確か、暗くなった時に降るあの水のことをいうんだろ?誰がつけてくれたんだ?」
「それは……。」
「まぁ、誰にでも話せないことはあるよな。」
そう言って適当につけた名前の理由に言い渋っていると、何かを察してくれた。
「まぁ、こいつでも食えよ。」
最初、トラさんの体に隠れて見えていなかった紐状のそれは、蛇だった。
何匹か猫さんが食べた後だろう。所々に猫さんの歯形があった。かわいい。
少しの抵抗はあったため、目を瞑って思いっきりかぶりついた。
猫さんの姿になったおかげか、意外にもおいしいと感じてしまった。恐らく、お腹がすいていたのも相まったのだろう。
口を少し赤く染めて僕は満足した。
「トラさん、ありがとうございます!」
「いい食いっぷりだったじゃねぇか!?より、気に入っちまったよ。これから仲間のことを紹介するよ。」
そういうと、トラさんは、猫さんたちを集めた。
「おい、お前たち、新入りだぞ、仲良くしてあげろよ。」
嫌な顔をする猫もいるが、すべての猫がここにそろった。
トラさんは、ここの顔役のようなものなのだろう。
そして僕は多くの猫さんたちに紹介されることとなった。
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