第16話

 朝目を覚ますと昨日からの出来事は、やはり僕の夢などではない、現実だった。


 猫さんの体に、多くの猫さんたちに囲まれたこの空間。


 昨日思い返してみるが、慣れていないことの多いこの体で体験した多くのことは、夢だったと思い込みたいことも少しはあったが、僕の現実の一種だったようだ。


 僕は、眠い体をふらつかせながら、トラさんのところに近寄った。


「トラさん。」


「お、起きたかい?俺も今から起きるからな。」


 そう言って大きなあくびをして、伸びをするトラさんはやはりかわいい。


 この距離で猫さんのことを見ていられるということが、幸せだと思った。


 僕は、耳のあたりが痒くなって気づけば後ろ足で掻いていた。


 手を舐め、顔を擦る。

 顔を水で洗えない代わりと言えば、とても満足した気分になれる。

 自分の体を舐める。

 人間の体だったら、届かなかったところに舌が届く。


 朝の日課とするにはとても気持ちの良い習慣になりそうだ。


「アメはいい夢でも見れたかい?」


 トラさんはそう問いかけながら僕の届かない頭の上あたりを舐めてくれる。


 慣れていないことのはずなのに、嫌な気分はしない。


「いい夢ですか?」


「ああ。俺は、ばあさんやじいさんが俺に目一杯の美味しいご飯をくれる夢を見たんだよ。これでもかってくらいのご飯をくれて、もう狩りに行かずに済んじまうくらいでさ。お腹いっぱい過ぎて動けなかったんだぜ?考えらるか?」


「よかったですね。」


 トラさんの喜ぶ姿がとても微笑ましい。


「そんでよ、ばあさんたちが俺のことを優しくなでてくれるんだよ。お家がある仲間はあんな感じなのかと思うと羨ましくて仕方がねぇよ。」


 おばあさんから撫でられたあの手は、少し暖かくて優しかった。

 トラさんが、夢で見ることも納得だ。


 トラさんは、朝から元気いっぱいで羨ましい。

 僕は眠くて仕方がない。


「そんで、アメはどんな夢見たんだよ。」


 見た夢をそのまま伝えてもいいが、伝えるべきではない気がして僕はやめた。


「何も見てないですよ。」


「そりゃぁ残念だったな。アメも腹いっぱいご飯食べたいよな。」


「ほんと残念です。トラさんみたいに幸せな夢を見たいですね。」


 トラさんに調子を合わせる。


「アメを困らせすぎだよ。トラ。」


 ルナがやって来た。

 僕たちと同じ猫さんだが、木漏れ日のお陰か、もっと可愛く綺麗に映る。


 微笑みのために細めるそのおめめが一番可愛かった。


「なんだよぉ~。ご飯を食べれることが一番だろ?」


「それはトラが食いしん坊なだけだろう?」


 そうやって話し合う姿がとても微笑ましい。


「アメはどんな夢を見るのが幸せ?私は、精一杯遊んだ後に綺麗になる夢かな。楽しんだ後にはやっぱり綺麗にならないとね。」


「僕は…。」


 僕が本当に望んでいたことを考えたら、上手く言葉にできない。


 猫さんと一緒にいる夢は幸せでいいのだが、おそらくそれとはまた違う気がした。


「ねぇ、何の話?」


「話?」


 マルとマダラが起きたようだ。


「どんな夢が見たいかって話。」


 ルナさんは、そう言いながら二匹のことを優しく舐めてあげる。


「ルナねぇはどんな夢見たいの?」


「見たいの?」


 マルとマダラは、眠そうに興味に惹かれたおめめで聞く。


「綺麗な夢だよ。」


 先ほどとは違う回答をする。


 ルナさんなりのわかりやすい伝え方というやつなのだろう。


 二匹とも満足そうに納得する。

 まだ眠そうだ。


「この子たちがまだ眠そうみたいだから、話の続きはまた後でね。ほら、トラも手伝って。」


 そう言ってルナさんはトラさんと共にマルとマダラを連れて遠くに行ってしまった。

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