第18話

 ミケさんは、森を抜けた後、振り向いて僕の方を見る。


「僕の顔に何かついてますか?」


「いいや、ちゃんとついてこれているのかを確認しただけだよ。」


 ミケさんのおめめは、優しさに満ち溢れていた。


 ふんわりと細めるそのおめめが、頼れるお兄さんという感じだ。

 優しい風が吹き、柔らかなミケさんの毛並みが、少し揺れている。


「じゃあ、こっちについてきてくれるかな?」


 そう言いなが、ミケさんはゆっくりと歩き始めた。


 目線が変わっていてすぐには気付けなかったが、ここはあの神社の裏だ。

 今日はここには集まっていないようだ。


 ミケさんは、ゆっくり歩きながら教えてくれる。


「ここにもたまに集まるんだけど、まだそんな時じゃないからね。」


「ここに集まって何するんですか?」


「ここに集まると、おじいさんが、ご飯をくれるんだよ。」


 きっと、ここの神社の管理をしてるおじいさんのことだろう。


 僕が前、ここに来たときは会えなかったが、そんな理由を聞くと納得だ。


「あとここは、タイミングがよかったらポカポカで気持ちいいんだよ。」


 すごく優しい笑顔を見せてくれるので、つられて笑顔になってしまう。


「これからどのくらい歩くんですか?」


「アメはやっぱり変わってるね。」


「そうですか?」


「うん。だって、そんなこと聞かれたのは初めてだよ?」


「じゃぁ、さっきの質問なしで…。」


 そういって、自分の失敗を隠すようになかったことにしようとした。


「大丈夫だよ。大体、ここからゆっくり歩いていくだけだから、もし退屈だったら教えてね。」


「退屈だなんて、そんなこと思うわけないじゃないですか!」


「そうかい?」


「はい!こんなに素敵な猫さんにお供できるなんてこれ以上ないくらい幸せです。」


「そこまで言ってくれると嬉しいよ。」


 そう言って優しく笑ってくれた。


 僕があまりにも熱が入りすぎていたと思ったときには、もう遅い。


 だが、ミケさんは優しくそんな僕のことを受け入れてくれる。


 少し落ち込んでると、近づいて僕のことを舐めてくれた。


「どうしたの?どこか痛い?」


「そんなことないですよ。」


 僕は、余りにも隠せていなかったことを反省しつつ、笑顔を見せる。


「危ないから、こっちに行こうか。」


 そういうと軽々と塀の上へと上ってしまう。


 トラさんとはまた違った、キレのある動きだ。


 今まで通っていた道は、車一台分ほどの細さの道になっていたため、人が通るときでも危なかっただろう。


 ミケさんの経験か、女王さんが猫さんたちに教えたおかげか、危機回避の方法を覚えているミケさんに、また好意を寄せてしまう。


 ミケさんは、遅れて上った僕をしっかりと塀の少し先で待ってから歩き出した。


 建ち並ぶ家々の塀を伝い、ミケさんは軽々と先を行く。


 そうこうして、恐らく目的地だというところにたどり着く。


「ここだよ。」


 ミケさんは立ち止まって教えてくれる。


 そこは、僕が毎日飽きるほど通う学校だった。

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