第35話

 女王さんは、僕が来ることが分かっているかのように、そこにいた。


 女王さんに聞く。


「お母さんに会ってたんですね。」


「みたいだな。」


「忘れてたんですか?」


「いいや。最近まで探してたんだよ。そして、やっとのことで見つけたんだ。お前をな。」


「難しかったですか?」


「当たり前だろ。私たちだって万能じゃないんだ。そして、当の本人は、私と同じく元人間ときた。誰がその選択肢を持てるというんだ。一度、視点を変えてあの女の匂いがする者を見つけることから始めることにした時、お前が見つかったんだ。」


 女王さんは、僕を責めるように話すが、少しだけうれしそうに感じた。


「そうだったんですね。」


「まさか、私が、難問を作っていたとはな。頭が痛いよ。」


「じゃあ、僕を猫にしたあの時には気づいてたんですか?」


「気づいていたというか、気づかされたよ。だが、私の話を聞かなかっただろ?」


「ですね。」


 僕は、苦笑する。


「だから、お前が本当に戻りたくなるのを待ってたんだ。」


「ありがとうございます。」


 僕は、頭を下げる。


「私は何もしてないだろ。感謝するなら命を借りたクロにしときな。」


「クロさん、ありがとうございます!そして、ごめんなさい。我儘を言って…。」


「気にしなくていいよ。僕のミスから始まったことだしね。」


 クロさんは、優しく答える。


「こいつは優しすぎるから断っておく。金輪際、こんなやさしさは無しだ。」


「わかってます。」


 僕は、女王さんのおめめをまっすぐ見つめる。


「さて、改めてお前の答えを聞かせてもらおうか。満月まで、まだ時間はあるが、もういいだろ?」


「はい、もう決まってます。」


「お前の口から聞かせてくれ。どうしたい。」


「女王。僕を人の姿に戻してください。」


 僕は、迷いなくその一言を放った。


 女王さんは、待ちわびていたという表情で僕に答えた。


「いいだろう。クロ。」


 クロさんは、あの石を加えて持ってきた。

 猫の形の石だ。


 女王さんは、石を前足で砕いた。


 驚く間もない。


 砕け散った石は、輝かしい光を放ち、僕を包む。


 まるで、優しく包むようなその光に懐かしさを覚えた。


 僕は目を閉じる。

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