第2話


 かわいい猫さんの鳴き声とともに目を覚ました。

 甘えるような、かわいい鳴き声。僕の目覚まし時計だ。

 6:00丁度、僕の目覚まし時計はいつもこの時間に起こしてくれる。もし、この時計が、他の動物の鳴き声や、電子音、または、人を起こすにふさわしいとされている音楽なんかだったら、起きる気すら起きないだろう。


 昨日は、帰ってみると、あの石像に抱き着いたせいか、服や頬、いたるところが、いろんな汚れで、ぐしょぐしょだった。おそらくこのまま、洗濯機に放り投げてしまったら、とんでもなく大変なことになるだろうから軽く汚れを落とすのに、意外と時間がかかり、お風呂と、空腹を満たすのに、あっという間に、12:00は過ぎていた。

 そうして、今回は、白い猫さんのぬいぐるみを抱きしめて、あの猫さんを思い出した。満足すると、色とりどりのおいしそうな猫さんの柄の布団に包まれて眠った。


 昨夜は、遅く寝たのに、時間通りに起きれたのは、やはり猫さんのおかげという他ない。

 今回は、猫さんに包まれる夢を見たかったが、見れなかったショックで、僕と同じくらいの大きな猫さんのぬいぐるみを抱きしめていると、一階から声がした。


「ごはんだよ~。」


「はぁ~い。」


 お父さんの呼びかけに不機嫌を隠しつつ、面倒くさそうにそう答えた。


 階段を駆け下りると、僕のお気に入りの猫さん柄の食器に食パンがおかれていた。食パンの上には、目玉焼きが乗っていて、まだ白い湯気が浮き出ている。

 僕は、しょうゆを少し垂らして、かぶりつく。猫舌のせいで、少しやけどしそうになりながら、黄身まで到達すると半熟に仕上がっているおかげで、もったいなく垂れ落ちそうになったそれを慌てて口に運ぶ。慌てて食べた分、口の準備が追い付かず、たっぷりと暖められたそれは、じゅわぁ~っと舌先を焼いた。


「あちち……。水、水……。」


「ほら、慌てず食べなさい。」


 お父さんから、水を受け取り、舌の消火をした。


「学校は?」


 そう問いかけられ、かわいい猫さんの、壁掛け時計にぼやんやりと目をやると、そろそろ出ていなくてはならない時間が迫ってきていた。

 机の上にある眼鏡をかけて、机の上の文字盤は、シンプルだが猫さんの肉球柄のベルトのついた腕時計を付けた。

 そそくさと、慣れた手つきで、制服に着替えて、最後にネクタイを付けると猫さんのヘアピンをつけた。


 玄関の扉を開けたら、隣に住んでいる親友が出迎えてくれた。

 彼女は、夕陽(ゆうひ) 夏(なつ)。僕の猫さん好きに多少の理解は示すが、最終的に引くタイプの一人だ。つまり、おかしな人だ。一般的に、ショートカットの似合うかわいいといわれる部類の顔立ちみたいだが、幼稚園からの付き合いのせいか、僕が、猫さんにしか興味がないせいか、僕には、理解ができないでいる。


「おはよ。」


「おっはよ~。」


 彼女の冷たい挨拶に元気に答えてみせた。

 ふと彼女の学生カバンにかかっていた猫さんのぬいぐるみに目が移った。


「猫さんだぁ!!」


「はいはい、昨日ゲーセンで、たまたま取れたから、つけてるだけだけど。かわいい?」


「うん!!めちゃくちゃかわいい!!触ってもいい?」


「いいよ。もし、ほしいなら、いる?」


「いや、大丈夫。なつの物は、なつの。ちゃんと大切にしてあげてね。」


 本当は、もらいたい気持ちを噛みしめながら、そういってみせた。


 今日も他愛ない会話と少しの沈黙を交わしながら、学校に向かった。

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