第14話

 マルとマダラはにっこにこの笑顔で塀の上からこちらに飛び降りてきた。


「何食べてるの~?」


「食べてるの~?」


 無邪気さが不気味さを引き立たせることもあるということを自覚した。


 もうそれは原形をとどめていない。


「あぁ、お前らも食うか?」


「「おいしい?」」


「腹減ってんならとりあえず食いな。」


「「ありがと。」」


 これが彼らの日常なのだろう。


 猫さんたちの世界で言うと、これは優しい空間なのだろう。

 ただでさえ、自分のご飯を譲りたがらない野生の環境下で気軽に譲る姿というものは、癒しのはずだ。


 僕は、まだまだ猫になれていないようだ。


 かわいい3匹の猫さんが仲良く命を頂く情景を僕は眺めるだけだった。


 そして何事もなかったかのように食べ終わる。


「上手かったな。」


「「おいしかったぁ~。」」


「お前たちは今まで何してたんだ?」


「「お散歩~。」」


「そうかそうか~。だが、毛並みくらいは整えとけよな。」


 そう言ってトラさんは二人のことを舐める。


 くすぐったそうに2匹は喜んでいる。

 彼らにとってトラさんは家族に違いない。


 そして、彼らの後ろから覗くその骸は恐怖するものがある。


 僕たちは彼らの戯れを微笑ましく思いつつも満足できずにいた。


 ルンルンで進む彼らの歩みを数歩後ろから眺めるのが精いっぱいだった。


 後ろから静かにクロさんが来た。


「どうだ?嫌になったかい?」


「いや、そんなことないです。」


 必死に否定してみる。

 本当は心の中は自分がよく知っている。


「ただ驚いただけですから。大丈夫です。」


「そうかい?まぁ、辛かったらいいなよ。これでも先輩だからね。」


「ありがとうございます。」


 少し、僕の敵と認識しかけたクロさんはやはり優しかった。


「クロさんはすぐになれたんですか?」


「まぁ、もう俺には逃げ道はないし、生きるためだと思ったら案外すんなりね。」


「そうですか。」


 クロさんは割り切るのが得意なようだ。

 まだ、現実を捨てきれていない僕とは大違いだ。


「クロさん」


「ん?なんだい?」


「これからもよろしくお願いします。」


「よろしくね。」


 クロさんは優しく、そう僕に返事を返す。

 そのおめめに若干の悲しみが移ったと思ったのは思い過ごしだろう。


「お、クロさんじゃないかい。いたなら教えてくれよ。」


「ああ、すまない。」


「クロさんは俺たち以上に腕がいいんだから。」


「そんなことないですよ。また対決しますか?」


「いいぜ?いつでも大歓迎だよ。もちろん俺が勝つがな。」


「さて、どうでしょう。」


 2匹は仲がいいようだ。


 2匹の心から喜びを隠せないようなその会話が羨ましかった。

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