第28話

 僕は数日間トラさんと一緒に近くを散歩した。


 楽しそうに振る舞いはするが、自分の体にもう一人分の命が積み重なっていたことを考えると、楽しめないでいる。


 僕は、頑張って元気そうにしてはいるがトラさんからは、何度も気にかけてもらった。


 そして、初日から一週間が経った。


 トラさんのお陰で、僕は狩りを覚えた。


 ミケさんのように軽々と木登りもできるようになった。


 僕は、トラさんに話しかける。


「トラさん、ありがとうございます。」


「急にどうしたんだよ。」


「トラさんに会ってもう一週間ですね。」


「一週間?」


「たくさん時間が経ちましたね。」


「だな。どうだ?慣れたかい?」


「はい、お陰様で。」


 いろいろと、没頭することができたおかげか、少しは気持ちが楽になった。


「トラさん、今日はプレゼントを持ってきました。」


「なんだい?」


「これです。」


 奥から、大きめのネズミを加えて持っていく。


「おいしそうだなぁ。」


 トラさんは、目を輝かせている。


「でしょ?頑張ったんです。」


 この時のために、朝からネズミを探していた。


 トラさんへの感謝は数えられないほどだった。


「俺にくれるのか?」


 今にもだらしなく、涎を垂らしてしまいそうになりながら、こちらに聞いてくる。


「もちろんです。」


「やったぁ!!」


 トラさんは、思いっきりそのネズミに飛びつく。


 むしゃむしゃとかぶりつく姿は、獣そのものだった。


 それをにこやかに見つめる僕がいた。


 これも慣れだろうか。


 僕の目はなぜか、歪んでしまったように感じた。


「アメも食うか?」


「いいんですか?」


「もちろん!」


 トラさんの満面の笑みが素敵だ。


「ありがとうございます!」


 僕は、トラさんと顔を寄せ合いながら、一匹のネズミを食べた。


 口元に着いた少しの血を舐め取りながら、綺麗に食べていく。

 トラさんは、僕の口元に着いた血を舐めてくれる。


 優しく温かい。


 奥から、マルとマダラが走ってきた。


「何食べてるの?」


「食べてるの?」


 ニコニコでこちらにやって来たマルとマダラは、顔を近づけてくる。


「おう、お前らも食うか?」


「「食べる!!」」


 トラさんは優しく二人を誘う。


 僕は少しの空腹が紛れたため、そこから少し離れてみることにした。


 尻尾をくねらせる姿が可愛らしい。


 その三匹の猫のお尻はできることなら写真を撮りたい。


 そして、彼らは、ご飯を食べ終わる。

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