第6話

結論ではないが、わたしは高校生になり、そしてなりきれなかった。それどころか普通の人の倍、六年を高校生として過ごしたのだ。

病気だった。貧血でもあった。母には言われた。一人で点滴行ける?と。私は行けない。行動することに躊躇する人間になってしまっていたから。病気の原因はわからず、採血、寝て起きた時の脈の違い、レントゲンそれだけで三万円は飛んだのだ。

部活を辞めた時、部費は返ってくるのか聞いてきた母と当時の家計の火の車状態では。母の決断、わたしへの言い渡しはこうだった。

「止水ちゃんだけ特別扱いできない」

毎日が吐き気と眩暈で水を飲むのも薬を飲むのも立ちくらみと吐き気がした。それも冬だけに。

身体が限界だったのか、心が限界だったのか。

私は今でも身体が先だと思いたい。耐えた私に栄養が足りなかった。自律神経がやられたのだと。当時は聞きなれない単語だったが、子供向けの新聞に規律性調節障害というものがあり、酷似している面があった。父は一生懸命に兼業をしていたが、母からしてみれば足りない足りない足りないのだ。私ですらいうだろう。ふと、思考を現代に戻す。子供医療費の負担があの時のただでさえあれば、自分も吐き気と震えと喉の詰まりのなか、点滴に行き、元気に普通生の高校生になれたのではと。

三日までは平気なふりをして通えたのだ。新しい携帯電話にちょっと個性のある通学鞄。いとこのいる高校と同じ、悪くない、むしろいい。ただ、駅のホームで。電車内で。体育館で。廊下で。教室で。帰路で。ずっと思っていた。気持ちが悪い。今吐いたらどうしよう、と。クレヨンの君が布教してくれたローゼンメイデンという漫画がある。それを意識したわけではない。ただそう。いつも貧血で吐きそうだった。わたしは、一年学校に通えず、辛いならとせっかく受かった学校なのに達には退学させられそうになったり、とにかく父を恨んだ。父母のようにはなりたくないと、卒業の手紙には書いた。結婚して彩美二号が生まれるのも嫌なくらいあなたたちが憎く大嫌いだと。なぜか。金だ。金がなかった。小学生くらいまでは自分がバリバリと稼いで、いつかママだけ助けてあげると言っていた。だが、中学卒業の頃には家庭内は荒れに荒れていた。荒んだ奴らが自分の中学校の、卒業式に体調不良もあったけど頑張ったねみたいな顔でスーツなどを着て座っているのだろう。だが、わたしは卒業式、それどころではなかった。入場した際の割らんばかりの拍手に寒さ、体温はいつまでたっても上がってくれない。わたしは吐き気で卒業式に倒れた。

保健室で少しだけ水が飲め、そんな食事のできない娘を母は病院には連れて行かない。警備に夜勤と仕事の掛け持ちをしている父は金のことで責められる以外家族の体調など知らない。

つめたいね、と母はわたしの手をつつみながらいった。

あの卒業式から高校入学、一年、何度か教師とのやりとりもあった。真摯なものと慣れているから雑な者。二人いた。

ちなみに卒業式の手紙は、書き直しておいた。

自分は母のように力強さや気の強さを以てこれからに挑みたい。父の忍耐力と継続力を見習い二人のように生きたい。

屈辱だった。

どんなやりとりがあってそうなったかではない。今風に、今の風を吹かせて仕舞えば毒親で、アダルトチルドレンだった。しかし捕まるほどじゃない。

高校一年生のまま留年し、二年目も行けなかった。なぜか夏だけは元気に動けたが、また冬になると毎日が吐き気で、これは何年続くの?いつ終わるの?そうずっと一人で捉え続けるしかなかった。

この手記に読む価値はないかもしれない。

わたしは幸福な幼少時代を過ごしたけれど、誰かに知ってほしい思いがある。ちなみにセイバーは私が二年留年している間家を訪ねたり、プリンをくれたり、相談にのってくれたりしていた。

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