第3話

母は言った。

「お母さん、もっとおてつだいする子がほしかった」

言われた時はなんとも思わない。それでもそれは残酷な言葉だった。テニス部に絶対入れたかったのも母だった。止水にはね、ボールを追いかけて動体視力を鍛えて、活発になって欲しいの。

わたしは吹奏楽部へ入部しようとしていた。昔から音符は読めても、何分の一がどうとか何拍子だとか、全く分からず。自分の脳には音楽を司る器官が小さくできていて、それでいてよくできないのだと思って信じたいくらいだった。中学校ではわたしが風邪で休むと、わたしの机はカップル男の腰パンに押され教室をじゅくじゅくと進む机列車となった。またある時移動教室では半分がAチーム、もう半分がBチームとなり教室をかえてそれぞれで授業を受ければ。わたしの机の左側には、当時はまだ浸透していなかったエリンギに似た、しかし先端に丸みを帯びた図が飴色の机の、表面に、白い線となってガリガリと描いてあったのだ。たまに遊びに誘ってくれる優しい陸上部の子が小声でおしえてくれるのである。

移動教室で明鏡さんがいない時にカップル男達がにやにやコンパスでなにかやっていたと。

今のわたしに思考をスライドさせれば、それは屹立したペニスを模した物だ。そんなのをあの幼稚なカップル男腰パンはただ天パでダサく、テニス部を辞めたわたしの机に刻むわけである。美術の授業もまともに受けないくせに。

わたしはとてもダサかった。二回目だが言おう。しかしクラスの男子になぜ、男性器を中学の一年から机に刻まれなければならないのか、とんとわからない。

覚えているのは、5人いたうちの優しい友が、傷を消せるクレヨンを翌日持ってくるよ、と言ってくれたこと。しかし、傷隠しクレヨンは彼女が忘れてしまい、なんの絵だかわからぬものにはわからぬ、下ネタが私の心に刻まれた。

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