第4話
陸上部の子は私を気遣い、映画に誘ってくれたりしたのだが、わたしは自分のダサい服を見られるのが嫌で。みんなの誘いを前日になってドタキャンしたりしていた。それでも、彼女らはディズニーのお土産だと言ってメモ帳やシャープペンシルまでくれるのだ。ありがたいことだ。こんなに上手く行く時は行くのにどうして部活は辞めたのか。
二兎を追う者は一兎をも得ず、がわたしのこたえだった。
部活でテニス部でもトンボがけのようなものがある。仲良しは笑い合いながら三本あるトンボのうち綺麗で塗装も少ししか剥げておらず、毛のような枝の揃ったのを当然に、自然に獲れるのだ。しかし孤立していた私は最後のはげちゃびんなトンボを取って、必死に上級生と同級生の前で、コートをトンボがけする。声をかけてくれる先輩もいた。顧問は虐めの事態にしっかり対応してくれた。しかし私の前でカップル女は妙に黒っぽい二重とぱっつんとした前髪にサラサラのストレートな髪で近づきながら言うのである。
「明鏡さんて、バブられてるよね!」
ハブ。ハブにされている。確かに話してくれる部活動仲間の二人は一緒に朝練の待ち合わせにいくのに、わたしには声もかからない。二人だけで待ち合わせし、二人だけで早朝の朝練に向かう。これが自分自身のことだったらどんなに特別か。大人になれば青春と呼べる。しかし、二人の待ち合わせの近くには私の家もあるのだ。声は、かからない。声を掛けるなんて発想もないくらいに二人は当然に散々いうがわたしを朝練通学に誘わない。カップル女の指摘に、よく日焼けしたキツく三つ編みし、高い位置から結った女子が嗤いながらやめなってー。かわいそーじゃーんと、揶揄に揶揄を重ねる。
重なる。
私は半笑いで「えっ?」としか言えないで道化になって笑われるしかない。
一挙手、一投足。嘲笑。それでも夏まで耐えた。短い間だが心強い味方もいた。
唯一嗤われない時間、行為、それが体力作りだった。学校の周りを四周して、ラストスパートを味方と只々たのしくダッシュする。その時だけは実力と体力がものをいい、あるいは他のものは手を抜いていたのか本当に辛いのか一騎打ちだった。ダッシュの味方。彼女は私が部活を去った後も部内の雰囲気に苦しみ、戻ってくれば?と声をかけてくれた。単純に上手い子すら「辞めるの?上手いのに」と生徒の濁流のなか、声をかけてくれた。
この声かけが信じられたら。信じられても、わたしを退部に追い込んだもの。
それは三つ編みの哀しい、強い、孤独を感じさせるものだった。
委員会で部活動に遅れる者が出ると二人一組で行動する部員達の一人は途端に不安になり私にラリーの相手を頼んでくるのだ。快く引き受ける。でも悲しい事実がある。委員会の仕事を終え、意中の部員。バディ、恋人のような友が戻ってくれば、私はなんと手を振られて、ほんとにバイバイされながら一人ラリーの時間残されるのである。三人で器用にラリーできる子はいないのか。私はできた。ネットまで誘ってもらえたら三人でも交互にラリーができるのに。ペアはいない。18人いた新人の脱落者はもう二人。サボりがバレてイジメ抜かれて不登校も一人。もう一人は、机のクレヨンの騎士はなんと運動を続けると膝に水が溜まり、最悪切断せねばならなくなるくらいになって参加すらできていなかった。たった一人、できることは、ある。壁打ちだ。今考えれば上級生に相談すれば良かったことだがそんな事も許されない絶対なる部活内部。水飲み場のネットに向かって一人、相手もいないのに球を打っては、払い、適切な距離で打っては、走って拾いに行った。辛いという感情はなかった。ただそう、
「ねえ、ひー!明鏡さんがサボってるぅー!」
サボる、ことだけは、どんなに、一人でもそう見られるのが耐えられず、三つ編みの大声に一年生が反応する。リーダーのカップル女を呼ばれた。カップル女は来なかった。まわりの一年生も居心地の悪さを普通と受け止めていた。助けたら自分が溺れ死ぬ。善人ではあっても、ヤバくない?!で片付ける。あの時の皆の笑みは加虐とも、嘲笑とも違った。ただ、彼女たちの口角は、上がっていた。
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