第11話

早足で進もう。

どうせさかのぼって追記できるのだから。

わたしは、濡れるということを二十四、五まで知らなかったと信じたい。大人になってからそれを愛液と呼ぶことを知り。それが英語ならLove juiceと表されることを知る。そんなことはとっくに思春期の男子なら国語の辞書片手に、あるいは世が世なら電子辞書、スマホ片手に調べているだろうが。なんせわたしはあの3.11で知り合った男性からメールアドレスをもらったことがあることくらいしか浮いたも沈んだもなかったのである。

あの災害を語ることもしない。たいせつな物語が二〇二二年に、紡がれるからである。

そう。

わたしの名前は明鏡止水。三十一歳。処女である。

喪女という言葉が流行った時期もあった。さらに遡れば干物女。あれから綾瀬はるかは人気者で化粧品のCMでうつくしくエスケイツーしている。

気付かぬ間にわたしだって恋をした。

恋に恋してる状態で恋を味わった。世間様の、娘達はこうなのだと二十八まで、いやそれよりも短かったが。

仮初。そう、かりそめ。

恋をしたんでしょう?なんて面と向かって言われれば違うと答える。素直や事実なんて関係ない。かりそめでも素敵じゃないか。

告白なんかいらない。

ただいつもと違う髪形に、髪を結う自分がいればいい。

その人の家に行きたいか?

行きたくない。乗り物恐怖症だし飲み会の帰りすらみんなとバイバイして歩きなのだ。

それでもわたしは、とある場所でアルバイトを二つ経験できた。一つ目は厚顔無恥で、お客様を見下す京女と。こいつの指示に従うと痛い目を見るし声が父に似ていて大嫌いだ、話し方も気持ちが悪い、と思う男に会った。それだけではなかったが。これから転々とする職場と人生の中でこの二人は、たとえ当人達がアップデートされたとしてもわたしの魂が許容を、拒絶する。そんな二人になる。

二ヶ所目ではあまりの空気の緩さに怒りが湧き、なぜかわたしは無責任ギャルと化してしまった。もっと責任があるはずなのに、店長は店員の粗相を閉店後まで放っていた。もっと書いてしまいたいがこれからの人生、このカクヨムで、わたし明鏡止水は三十二までの人生と、幻覚と妄想の中で起きた残酷で残忍で、しかしいっぺんも存在しない物語を書かなくてはならない。ひとまず、二十四歳でスマートフォンデビューを果たしたわたしは、やっと今時の若者達に追いつき、二ヶ所目のアルバイト先でもおかしなパワーハラスメントを受けていた。しかし、問題なのは一ヶ所目。厚顔無恥のべったりと顔に脂肪のついた馬鹿な女による行為だった。気に入らないことや自身がやりたくない仕事があると、ターゲットを定めそのものにどかどかと仕事を後から後から振り続けるのである。仕事を振られた新人や、上も下もないにも関わらず、立場の下の者は。ただその怒涛の追撃を受け切り、一分、二分でも安息を得るために仕事をこなし続ける。憂さ晴らしだ。もしくは新人いびりだ。そして時がくればではなく、当人の気が晴れればこういうのだ。


まあ、これくらいでゆるしてやるか!

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