第7話

 「次は紅玉球ルビーキューブを入れてみるのはどうかな? 案外うまく安定してくれるかも」

 「ああ、そうだな」

 相変わらず魔花まか加工の可能性を広げることにしか興味の無いオリヴァーに、ロイはふっと笑みを返す。

 ロイが自己嫌悪の闇に落ちようと、オリヴァーは客観的に諭してくれる。それは研究者として間違った発言はしたくないという理由だったが、彼の言葉は幾度となくロイを闇から引き上げた。本人にそのつもりはなかったとしても。

 「あ、あと、実験について大事な話があって……」

 「大事な話?」

 オリヴァーは言いにくそうに頬をぽりぽりかいた。

 「研究室に誰か入ろうとしたみたいなんだ」

 「結界に痕跡があったか」

 「うん。しかも君の個別研究室に入ろうとしたみたい。第十六位魔法陣の結界が途中で作動したから、何事も無かったみたいだけど」

 王立ミネルヴァ大学の魔花まか加工研究室は、ガーテリアの存亡に関わる重要な資料の宝庫だ。魔法陣を何重にも展開し、強固な結界を張っている。

 ゆえに大抵の侵入者は、三桁魔法陣の間で羽虫のように弾かれて報告にも上がらない。ただ今回は二桁だ。オリヴァーがわざわざ報告するのも頷けた。

 「どうして俺の個別研究室なんだ?」

 「それはわからないけど、狙われたのが『赤い緑柱茎ビキシバイト』かもしれないし……」

 「……そうだな。学長に相談して、研究室の結界レベルを最高にしよう」

 ロイの研究は完成するかも怪しい性転換薬の開発。それよりも金儲けになりそうな研究はいっぱいあるが、狙われた理由が『赤い緑柱茎ビキシバイト』となると——。

 「何だか嫌な予感がするね」

 オリヴァーの言葉にロイは無言で頷く。

 外では黄色に色づく葉が一枚、秋風に晒され落ちていった。

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