第10話

 「あれ? あの鳥って」

 しばらくぼーっと眺めていたら、遠くの空にミミズクらしきシルエットが視界に入る。こげ茶の羽を羽ばたかせ、首に菫色のスカーフを巻いたその鳥は、徐々に近づいてきた。足には荷物を掴んでおり、離宮の前でそれを離すと、こちらには一べつもくれずに飛び去っていく。

 「たぶんミネルヴァ大学の梟便ですね」

 玄関に向かいながら、ジャックは不思議そうに言う。今日は物が届く予定がないのだろう。イアンもいぶかしみながら後をついていく。

 扉を開けた先に落ちていた荷物には、大きく『イアンへ』と書かれていた。

 「この字は……」

 イアンは嫌な予感がしつつも、袋を開ける。中には白い布と一枚の手紙が入っていた。

《これを着てすぐに教授室に来い。あ、すぐじゃなくてもいい。なるべく早くきてくれ。byロイ》

 滑らかな字体で書かれた内容に、眉根を寄せる。

 「まったく。人使いが荒いなぁ」

 「これはきっと大学指定の白衣ですね」

 ジャックの指摘に布を広げてみると、胸と腕には見慣れた腕章が入っていた。

 「はぁ……」

 本日二度目のため息だ。近衛騎士のイアンには逆らう権限はないとしても、もう少し説明が欲しかった。

 (昨日の話の続きもしたかったし、早い時間から会えるのは良いことだ。そうだ、そう思おう)

 イアンはまた出そうになるため息を呑み込む。己の体格よりも少し大きめの白衣に袖を通しながら、大学へと向かった。

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