第4話

 「はぁ、なんでこんなに階段が多いんだ」

 尖頭アーチが優美な大学構内の天井を見上げながら、イアンはベータの頃より落ちた体力を恨んだ。

 二年前から体つきも変わってしまった。筋肉はつきにくくなり、鎧やロングソードは重くて持てない。そのくせ元がベータだからか、オメガ特有の中性的で可憐な見た目になることは無く、子宮もできなかった。

 まさにベータとオメガの悪いとこ取り。

 家族も仲間も世間の目も、みんながイアンを憐れんだ。オメガになったことを『かわいそう』だと言って。

 その度に、イアンは疑問に思う。

 ——日陰に咲く紺瑠璃花ネイビー・ラピスラズリはかわいそうだろうか? 

 ——置かれた場所を嘆く暇があるのなら、凛と美しく咲くわ。

 ラピスラズリのように煌めきながら空を見上げる儚い姿は、今でもかわいそうには思えない。幼心に影響を与えた彼女は、いつもイアンを支えてきた。

 (半端者でもいいじゃないか。悲しみに暮れて、短い人生を終わらせる方が嫌だ。ちょっとでも楽しく。少しでも明るい方へ。ベータの頃には知り得なかった幸せをつかみたい)

 惨めだと思ったことが無いと言ったらそれは嘘だ。首を絞める撫で方は、あの日から癖になっている。

 それでもイアンは自分の性を受け入れて、前向きに生きていくことを決めた。

 日陰に咲く、あの魔花まかのように。

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