第二章 現実世界企業連合創立編 第47話 連絡


 村に戻った俺たちは少し早い夕食を済ませ、二乃をつれて日本へと戻る。


 あまり遅くなると二乃の家族も心配する。

 二乃としては、もうちょっとだけ居たそうな雰囲気を見せていたが、こればっかりはな。

 同世代の子供たちと仲良く出来たので、別れが辛いのも分かるんだが、またいつでも来れるんだ。名残惜しいくらいがちょうど良いだろう。


 そうして俺は、二乃を無事に家まで送り届けた。二乃も若干、眠そうな顔をして降車する。

 歩き疲れたんだろう。無理もない。

 日頃、慣れない道を歩くと神経を使うからな。

 

 二乃も家族と話したあとに、日記を書いてから就寝すると言っていたので、俺もおやすみと告げて二乃の家をあとにした。少し早いが、俺も帰るとしよう。


 帰宅すると、ここ最近は寝不足だったこともあり、泥のように眠ることが出来た。


 

 明くる日の朝。俺は電話の音で目が覚めた。

 ……うるさいな。誰だよ朝っぱらから。

 着信を見ると、西園寺からの電話だった。

 俺は寝ぼけながらも、投げやり気味に電話を取る。


「ごきげんよう、あなた。昨夜は良く眠れたかしら?」


「……どうしたんだ、こんな朝から。モーニングコールを頼んだ覚えはないぞ」


「そんなことはどうでも良いのよ。それよりも……、ねぇねぇ。いくら親しい仲でも事後報告は必要だと思わない? 商売も絡んでると尚更ね」


「なんの話だ? ……って、昨日のことか」


 おそらく俺からの定期連絡が無かったことに苛立ってるんだろう。すっかり忘れていた。

 語気が強く感じるし、これは相当怒ってそうだ。どうやってやり過ごそうかな。

 俺が適当な言い訳を考えていると、スマホから溜息を吐く音が聞こえてきた。


「その様子だと、完全に忘れてたわね?」


「いや……昨日は、思いのほか疲れていたみたいでな」


「言い訳になってないっ! どれだけ私が心配したと思ってるのよ!」


「……悪かったよ。でも俺じゃなくても、二乃からでも直接聞けただろ?」


「もちろん、二乃ちゃんとも話したわよ? でも二乃ちゃん、『突き放した』とか『ゴール寸前』とか、さんざん意味深なことを吐いて、挙句の果てに寝ちゃうんですもの。お陰でこっちが寝不足よっ!」


「ああ、二乃は結構、自分の世界に入りやすいところがあるからな……」


 突き放したってカーチェイスゲームでもやってたんだろうか。二乃の場合、自分だけが伝わる言葉を平気で使う癖があるんだよな。もうちょっと分かりやすく喋って欲しいものだ。二乃に魔法を見せたのは俺だけど、ここまで我の強い子だとは思わなかったよ。

 まぁいずれにせよ、二人で連絡を取りあってると聞いて俺は安心した。仲違いでもしたら俺の気が休まらないからな。


 そうして俺は、昨日あったことを思い出しながら話した。出勤前の何気ない会話だ。農作物の成長記録も撮ってあったので送ってやった。

 かいつまんで話してやったが、経営しようとしてるからか、西園寺も真剣に話を聞いてくれた。


 と、もうこんな時間か。西園寺と話すと結局は長電話になる。もう溜飲も下がっただろうし、ここで切り上げてシャワーでも浴びるか。そろそろ支度をしないと仕事に間に合わない。


「話しは変わるけど、西園寺は今日出掛ける予定とかってあるのか?」


「なによ、急に改まって」


「いや、タクシーでも利用しないかなと……」


 岐阜までタクシーで移動する仕事は、結構体力的にも楽だったんだよな。あれと同じことがもう一度あったりしないかと期待したんだが。


「あいにくと、事務仕事が溜まってるから今日は乗らないわよ。指名して欲しかったの?」


「……馬鹿言え。よけいなことを考える手間が省けただけだ。そろそろ出勤時間だから切るぞ」


 まぁ無いよな。そんな都合よくいかないか。

 自力でタクシーの売上をあげるとしよう。


 そうして西園寺との電話を切ると、今度はポコペンとスマホから音が鳴った。これは……NAINの通知音か。なんだろうと思って画面を見る。


 相手は二乃からのチャットだった。

 写真が送られてきたようだが……これは二乃の部屋か。ベットの横に掛けてある布が、青白く光っている写真だ。

 描かれてある魔法陣に反応したんだろうか。二乃の小さな手のひらとセットにして写っている。


『光った』


 すかさず二乃からのチャットがくる。既読が付いたからか、スタンプまで送られてくる。

 アニメキャラだろうか。眼帯をつけた三白眼の少女がブイサインをしているスタンプだ。『ぶい』と書いてあるけどなんのキャラだよこれは。ブイじゃないんだよブイじゃ。何で二乃の部屋にある魔法陣が光るんだよ。


 確か本屋で購入した怪しげな本に描かれてある魔法陣を、適当に布に描写しただけだと言っていたはずだ。それが何故光る。二乃が魔力を持ったからか?

 まさか本当に異世界の魔法書だったりしないよな?

 頼むから仕事前に、次から次へと問題を起こさないでくれよ。


 ……もう良い。考えるのはよそう。今日と明日。この二日間はしっかり働いて、問題を先送りにするか。そのあとに連休が来るからな。

 どうせ次の連休は、西園寺と二乃も一緒に異世界まで連れていく予定だ。その時に全部考えれば良いだろう。結論は先延ばしにするに限る。答えが出ないことをいくら考えても疲れるだけだ。


 それよりも直近の問題を考えないとな。

 日数と距離的に、もうすぐ行商人が孤児を連れて村までくるんじゃないかとカエデが言っていた。だからその事も考えないといけない。


 そういえばルルーナは元気にしているだろうか。俺が眼鏡を渡した少女だ。

 孤児を連れてくる時に現状を知ってる子が居た方が良いからと、ルルーナも行商人と一緒に旅に同行していった。

 村から離れるのを嫌そうにしていたと聞いたがこればっかりは仕方ない。行商人の娘なんだからな。親に逆らってまで村に居る必要も無い。


 それに行商人と一緒に、正式に移り住むと聞いているからな。まだ会ったことがない行商人だが、どんな人なのか楽しみだ。

 みんなに聞いても『会ってからのお楽しみ』と言われて教えてくれないんだよな……。


 漫画だと行商人と言えば、ふくよかな男性のイメージが強いんだが。旅をするくらいだから恐らくは男性だろうけど、親しくなれるんだろうか。

 今のところ村人が全員女性だからか、ちょっと肩身が狭いんだよな。この気苦労を分け合えるような友人になってくれれば良いんだけど。

 そんなことを期待しつつ、俺はスーツに着替えて会社に向けて出勤するのであった。

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