第二章 現実世界企業連合創立編 第37話 プロローグ


「会社を立ち上げるー?!」


 タクシーの車内で、俺は素っ頓狂な声を上げた。

 思わず「本気で言ってるのか」と西園寺に問い返してしまった。冗談にしてもタチが悪い。


「そうよ。あなたが社長で、私が副社長。これは決定事項よ。カエデ姉にも話しておいたから」


「決定事項って……なんで俺が居ない時に、話がいつも進むんだよ」


「これはね、戦争なの。相手が仕掛けてきたんだから、こちらも仕掛けるのが当然よ」


 説明にもなってねぇし。

 完全に自分の世界に入ってやがるな。

 まったく、西園寺ときたら。一週間、海外に行ってくると言って、帰ってきたらこれだ。危険な思想の国にでも、行ったんじゃないだろうな。


 だいたい俺は、ただのタクシー運転手であって、会社を立ち上げるような人間じゃない。

 それに戦争って。一般人と子供だけで戦争なんて出来るわけないだろうが。


「まずは順を追って話そうか。なんで会社を設立する必要があるんだ?」


 異世界と俺たちの世界を結ぶために必要だとは言うが、そんなの個人で資産管理をすれば良い話だろうに。なんで会社まで立ち上げる必要があるんだ。


「あら、カエデ姉にもちゃんと言われたじゃないの? 帳簿を付けとけって」


「……確かに言ってたような気もするが。でも、それがどうかしたのか?」


「個人で帳簿なんかつけても、何も信用力なんて無いわ。会計士や監査法人をつけて、やっと信用が足りえる帳簿を付けたってことにならないかしら?」


「いやいや、カエデも多分そこまで考えて言ったわけじゃないと思うが……」


 まぁ良いや。こうなると西園寺に何を言っても無駄だからな。任せるとするか。


「それで、戦争って言うのは?」


「決まってるじゃないの。メデス帝国に戦争を仕掛けるのよ!」


「その前提が、まずおかしいんだよな……」


 冗談にもなってない。そりゃ子供たちの両親が、もし生きているのなら救出してやりたい気持ちもあるが、むやみやたらにクビを突っ込んでいい問題じゃない。俺たちは戦争の当事者じゃないんだ。

 今はまだ下火だが、戦争が本格化したりヘイトが村まで来るようになったら、いよいよ逃げ出さなきゃ行けなくなる。

 まぁその程度のことなら、カエデとも十分話し合ってると思うが。


「あくまで第三国を通して、経済で戦争しようって話しよ。なにも血を流すだけが戦争じゃないわ。支援と制裁。そのくらいならカエデ姉も協力してくれると言ってくれたわ。その為には、どうしても会社が必要なのよ」


「支援と制裁ねぇ……」


 適当に相槌を打って返すと、西園寺がタクシーの後部座席から助手席のヘッドレストに体を持たれかけてくる。


「名付けて『壊せぬなら、滅亡させてしまえ、メデス帝国』大作戦よ! もちろんあなたも協力してくれるわよね?」


 タクシーの防犯ボードをバンバンと叩いてくる西園寺。直で振動が来るんだからやめろって。

 聞いた内容が、物騒なこと極まりない。

 俺はこんな女性を異世界に連れていってしまったのかと少し後悔した。


 話しはつい先日、西園寺が海外から帰ってきた時までさかのぼる――

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