異世界領都誕生編 第4話 言葉の壁
家から出てきた少女は全員がやせ細っていた。
年齢も十代前半と言ったところか。
顔色も良くないので、まともに食事を取ってないのだろう。
少女五人で全員なのか、他に村人は見当たらない。普通なら外で歩いてそうなもんだが。それともまさか、これで全員だったりしないよな。
男性や老人の姿も見えないし、もしかしてこの村には子供しかいないのか?
様々な疑問が浮かんでくるが、とりあえず腹を空かせている子供たちを優先するか。不安そうな顔で食料をくれるかと待っているし、追及は後回しにしよう。
パン一切れだけじゃ物足りないよな。
車内にはカップラーメンが大量にある。
余ったとしても保存が効くかと思って、異世界まで来る途中に買っておいた物だ。
ただ……お湯を沸かすのに時間が掛かる。
カップラーメンを作っている間に、子供たちが待ってくれるかどうか。
即席麺なんて異世界にはないだろうし、最悪警戒されるかもしれないな。
とすると、もっと手軽に食べられるものって言ったら……缶詰か。
ちょうどスーパーで買った桃缶が三つある。
日持ちするし、持ち運びに便利かと買っておいたが、今なら桃缶こそが最適か。
よしこれにしよう。
車内から桃缶を取り出してプルタブを開ける。と、ここで一つ失敗に気づいた。
そのまま缶でも食べられると思って、皿を用意してこなかったのだ。
しまったな……他の人が食べるのを想定してなかった。
まあ良い。お皿ならジェスチャーで何とかなる。近くにいた赤髪の少女に、丸い輪っかのように円を描いて伝えると、家から持ってきてくれた。
そうそう、これこれ。平べったくて丸い輪っかって……輪投げの道具かこれ?
何でこんなモノが家にあるんだよ。
ポイっと投げ捨ててやると少女がガーンと落ち込んだ表情を見せる。
もうこの子にジェスチャーは期待しないでおこう。
まぁ皿が無くても何とかなるか。
俺は桃缶を三つともそのまま少女たちに手渡した。
人数分、自分を抜いて五人か。
食べにくいだろうけど割り箸を使って何とか食べてくれ。
この世界に割り箸があるのか知らないが、桃にぶっ刺して使ってるのを見るに大丈夫そうだ。
それはそうと、育ち盛りの子供にパンと桃を数切れじゃ、まだちょっと足りないよな。
やっぱりもう一品追加しよう。
少女たちが食べている間に、車からカセットコンロと水が入ったペットボトルを取り出す。あとは鍋を使って当初の予定通りカップラーメンを作ろうかと思ったが……うーむ、はたして桃缶とカップラーメンの組み合わせってどうなんだ?
……まぁこの際、気にしないでおくか。
食べ物と認識してくれただろうし、腹が膨れればそれで良い。
お湯を注いでいる間も、ずっと子供たちがカップラーメンを見ている。
どうやら缶に入った桃は、もう食べ終わったらしい。
缶に入った水分を分けあって飲む姿が微笑ましい。
ちびちび飲みながら、甘さを堪能しているようだ。
その光景を朗らかに眺めると三分経ったので、カップラーメンの蓋を緩やかに開ける。鍋の容量的に、一度に三人前が限界だった。
まずは近くにいる少女三人からにするか。
俺が箸を持ってフゥーっと息で冷ましてから、最初に会った茶髪の少女の口元にそっと麺を持っていく。
ジェスチャーで伝わったのだろうか。最初に会った少女が美味しそうに食べるのを見て、他の少女たちも同じように真似して食べだした。
そうしている間に、残りの少女二人のカップラーメンも作ってやった。
ひとしきり全員がカップラーメンを食べ終えると、雑談したりする子や、カップラーメンの器を持って不思議そうに眺めている子がちらほらと見える。やっと元気が出てきたな。
どうやら全員が満足したようで安心した。いきなり満腹になるまで食べさせるのも良くないし、飢えた身体にはこのくらいで充分だろう。
最後に子供たち全員が立ち上がって、おじぎをしてくる。
恐らく感謝の意を述べているのだろうが、やっぱり言葉が分からないと不便だな。
とりあえず俺も礼をして、ビニール袋を使ってゴミを片付けておいた。
車内にある食料は、あとは飲料とお菓子だけだ。これだけでも数日は持つが、念の為に一度戻って食料をもっと仕入れておくか。
このまま子供たちが飢え死にでもしたら悲しいからな。
幸いにも飲料は二ケース分ある。すぐに戻ってくる予定だが、もし最悪の状況になったとしても飲料さえ確保しておけば何とかなるだろう。
車から余っている飲料とお菓子を取り出して、地面に積み上げる。ペットボトル飲料の飲み方を伝えたが、何となくだが分かったみたいだ。蓋を開けるだけだし簡単か。
お菓子も日持ちするように乾燥したものを選んだので大丈夫だろう。虫に食われないように、建物の中に閉まっておいて欲しいところだ。
飲料とお菓子を五等分にして配り終える。これで俺の役目はとりあえず終了か。
子供たちに持ち帰るように促すが、一向に帰っていく気配がない。
まだ隠し持っていると思われているのだろうか。
もう流石にこれ以上は持ってないと、車の中を見せて主張しておいた。
最初に異世界まで来た目的とは違うが、これも何かの縁だろう。
日本にすぐ戻れる位置に村があるし、これ以上ここに居てもやることが無い。
一旦戻るとするか。
ちょっと用事を済ませてこようと手を振ってこの場を離れようとすると、また子供たちが俺に向かって頭を下げてくる。やはり感謝の意を述べているのだろう。
日本と似たような文化なのかもしれないな。
また数時間後に日本で食料を買い込んでこの村まで戻ってくるつもりだが、それすらも伝えられないのがもどかしい。やはり言葉の問題を解決するのが先決だな。
会話が出来る方法となると色々あるが……どうしようか。俺が言葉を覚える方法もあるが、正直時間が無いし、年齢的にも覚えるのが辛い。それだったら俺が食べ物を提供する代わりに子供たちに日本語を覚えてもらうようにするか。
与えるだけじゃただの偽善だし、最初はギブアンドテイクの関係でいこう。その方が子供たちも安心できるだろう。よし、この方法にするか。
そうして俺は子供たちが見送るのを尻目に、この村をあとにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます