異世界領都誕生編 第15話 電力施設
村長になったら、やらなければいけないことって何だろう。
仕事中、俺はずっと考えていた。
税金の管理と言っても、村には収入が無い。食料だって全部俺が持ってくる状況だ。これでさらに税金まで払う必要は……まぁ無いか。どうせ廃村扱いだろうから放置しておこう。
それなら農業をしてみるかと言っても、俺はタクシー運転手だ。農業なんて分かるわけがない。
じゃあ日本ならどうだろう。村長とか市長は一体どういった仕事を行うのか。
タクシーの仕事で市長を乗せることもあったが、やってることは他の政治家の選挙応援をしたり、小学校に行って子供の頭を撫でたりしただけだった。実に簡単なお仕事のように思えた。
要はセレモニーで、顔役として必要なんだろう。対外的な仕事なんてそんなもんだ。
そういえばアニメでも村長って、人と会うくらいしかしてなかったような。他の役割をネットで調べても、予算や任命権、あとは仕事を割り振るくらいしか出てこない。うーむ、何か違うんだよな。俺のやりたい村長のイメージはそうじゃない。
ならば……ゲームならヒントがあるんじゃないか?
そう思って試しにスマホゲームで『市長』と検索してみる。そうすると、出るわ出るわ、関連したゲームがわんさか出た。
中でも一番有名な、都市を作るゲームをインストールしてみる。シムシティ。やっぱり世代的にこれだよな。昔の放置ゲーの代表格だ。
最初は人口を増やそうと行政施設を作ったり。施設が出来れば放置していくだけで勝手に都市が発展したりと、実に単純なゲームだった記憶がある。
ちょっとだけ休憩中に触れてみるも、やはり昔とほぼ変わらない。他に村長系のゲームを検索してみたが一緒のようだ。
……なるほど施設か。これは盲点だった。確かにこの村には行政施設が少ない。まずはインフラから整えるべきか。そう思ってインフラについて詳しく調べてみることにした。
インフラで代表サービスと言うと電気、ガス、水道がある。
ガスはコンロがあれば代用出来るし、ライターがあれば火種なんて簡単に作れる。木もたくさんあるからな。ガスはひとまず置いておこう。
次に水道か。水道は井戸があるからな。
村の奥にも大きな川があるようだが、素人が下手に生活用水を作ろうとしても自然を破壊するだけだ。
ここは改良したいところだが、もうちょっと後にしよう。飲み水はあるんだし、水道は今のところ問題無いだろう。
だとすれば、あとは電力か。これが中途半端に難しい。そもそも異世界に電力が必要なのかって話しになってくる。今まで無くても生活が出来たんだからな。
けれども現代日本人の俺が管理しようとする村だ。いずれは必要になる。この村に永住するわけでは無いが、手元に電力があるに越したことはない。既に電子機器を持ち込んでいるので今更だろう。
毎回バッテリーを持ち帰って充電するのも大変だから、この際だし本気で電力施設を作ってみるか。下水道を作るよりは楽だろう。
というわけで仕事中に通販サイトで、電化製品やら電力施設に関する商品を色々と買ってみることにした。
世間はゴールデンウィークも終わって自動車税を払う頃。こういう時はタクシーの利用も減って、いささか暇になる。
お金が無くてどこかを削らなきゃいけない時に、真っ先に削られるのがタクシー代なんだろう。必然と娯楽や病院のためにタクシーを利用する人も少なくなる。
まぁこういう時は、休める時間が出来たと思うしかない。こんな日が無いと、しっかりと買い物すら出来なかったからな。
そう思いつつ、金貨で得た利益を全部使うくらいの勢いで商品を購入していった。
注文した商品は二日後に届いた。
荷物を積んで、異世界に持っていこうとするが相当重たい。
一人で持つのは大変な量だったが、何とか自家用車まで運ぶことが出来た。そのまま家を出て、異世界に向かう。
無事に高速に乗ってカエデの里に着いてからが今日の本番だ。子供たちに見守られる中で、電力施設の作業にとりかかる。
今回の発電方法をどうするか悩んだが、結果的には太陽光発電を選ばせてもらった。蓄電池にソーラーパネルを繋ぐだけの簡単な発電方法だ。
水力発電も考えたが、個人でやるには設備的に限界がある。風力なら個人でも出来るが、音がうるさいので除外した。
あとは地熱発電、植物発電なども色々考えたが、全て労力に見合わないように思えたので遠慮させてもらった。
やはり太陽光発電がコスト面において、最強の発電方法になるようだ。時間があったから、色々と調べられて助かった。
非常用にガソリン発電機でも置いておこうかと思ったが、蓄電機とソーラーパネルの並列接続で、今の消費電力なら充分にまかなえるので買わないことにした。
電気が溜まった蓄電機から給電すれば、液晶機器くらいなら楽勝で動くだろう。
ただ問題は日照時間だ。
現在この村の広さは市営球場よりちょっと広いくらい。
焼畑農業で村を作ったのか円形になっており、周りが木に囲まれた状態だ。村の端だと木陰で日光が当たらないので、ソーラーパネルを置く場所も限られてくる。
村の中心にある空き家の屋根が、一番ソーラーパネルの設置に適した環境だろうか。それでも太陽が真上まで来ないと日陰になりやすいのだが。
どうしたものかと悩んでいると、カエデが外から帰ってきたらしい。作業をする俺に向かって、トコトコと歩いてくる。
「おかえり。二日ぶりだな。予定では朝に帰ってくると聞いたが、なんかあったのか? マキナたちが心配してたぞ?」
「なーに。ちょっと引越し作業に手間取っただけじゃ。それにおぬしを村長にする手続きもしておいたゆえ。これでおぬしも晴れて村長じゃから、好きにするが良いわ」
「ああ、そういうことか。悪いな俺のために苦労かけて」
「良い良い。必要じゃったからな。それよりなんじゃこれは。また面妖なものを持ってきおって。これはいったい、どういうものなんじゃ?」
「これは太陽光発電、と言っても分からないか。どう説明しようかな……。あの上空に見える光を使って、暮らしを豊かにする装置って言えば分かるか? あっちの世界では、あの光を太陽って言うんだけどな」
言いながら俺は、上空で光り輝いている物体を指差した。今日も快晴だからか空が見えやすい。日光もあるし実験するには持ってこいの環境だろう。
ポータブル蓄電池は大容量の物を買ってきた。ソーラーパネルと並列接続すれば順調にいけば数時間で充電が出来るはず。あとは設置場所をどこにするかだ。
「確かにあれは、こちらでも太陽で通じるぞ。念話で翻訳できる言葉は、共通認識のものしか伝わらんからの。じゃが光力を使うのかえ。それならこういうのはどうじゃ?」
カエデがそう言うと、指先から小さな光球を発現させて俺に見せつけてきた。全くもって眩しいが、言わんとすることは分かった。どうやら俺は日本の常識に囚われすぎたようだ。
「……なるほど、光魔法か。そういやここは異世界だったな」
「原理としては同じようなもんじゃし、通用するかもしれんじゃろ?」
「ああ、試しにそれで発電できるか見てみるか」
確か蛍光灯や懐中電灯でも、光力が強ければ発電出来たはずだ。試してみよう。
まずはソーラーパネルで光球を囲むように配置してと。次に持ってきた電力計をソーラーパネルに差し込んで、発電量を確認してみた。
「うーん、微弱ではあるが……発電には成功したか。この魔法って長時間維持したりも出来るのか?」
「魔力を込めれば良いだけじゃし、造作も無いわ。もっと光力を強くも出来るぞえ」
「なるほど、それなら別に日光に頼らなくても良いわけか。わざわさ屋根に取り付けるくらいなら、いっそのこと室内にソーラーパネルを付けた方が良いかもな……」
ソーラーパネルと光魔法。
この二つさえあれば、真夜中でも発電が出来る。これなら日照時間に左右されずに、魔力をそのまま電力に変えることも可能になるのか。光魔法って便利だな。
あとはこれをどうやって運用するかだが……。まさかカエデが光魔法をずっと唱えるわけにもいかないし。
「うーん。でもこの方法って、カエデが居ないと使えないんじゃないか?」
「この魔法は初級魔法じゃから、他の者が覚えられんことも無いがの。それに魔石と魔法陣を使えば代用できるゆえ心配いらん。ちょうど照明用にと思って複数持ってきとるからの」
言ってカエデが収納魔法を唱えると、スっと両手を突っ込んだ。そして中から出てきたものは、かなり大きい台座と石のような塊……多分魔石か。台座の上に魔石が乗っかった状態で姿を現した。
魔石には魔法陣というか文字が書いてあって、何と言うかタクシーの行灯のように見える。あれが光るんだろうか。ってかこんなもん個人で利用して良い大きさじゃないだろ。
「……おいおい、その魔石を使うのか? 結構高かったりするだろそれ?」
「これは照明用じゃから、別に気にする値段でも無いわ。大きいものはそれこそ青天井じゃがな。これなら光力としても問題ないはずじゃろ?」
「確かにそれなら、充分な発電量は見込めそうだけど……」
「悩まんとも良い。どうせ明かりは必要ゆえ。もう一度魔力を込めれば再利用出来るんじゃし、おぬしが気に病む必要も無いわ。これは村長就任祝いとして、おぬしにやるから好きに使ってみると良い」
「……じゃあ遠慮無く、村のために使わせてもらうぞ。よーし、予定を変更するかー」
そう言って俺は、屋根に取り付けようとしたソーラーパネルを、そのまま玄関から室内まで運びだす。
この家は元々空き家だったし、村の中央に面するから蓄電池を置く場所としては最適だ。これが成功すれば、今度から日本でモバイルバッテリーを充電する必要もなくなって手間が省ける。
いやはやカエデから良い話を聞けた。やはりこういう時は自分だけで考えて行動するもんじゃないな。
ややあって、部屋の室内をとり囲むようにしてソーラーパネルを設置する。木窓の内側には魔石が取り付けてある。これで室外からでも魔力が注入出来るという寸法だ。あとは給電コードを別の部屋にある蓄電池に繋いで、準備は完了と。
「じゃあカエデ。光魔法を頼んでいいか」
「あいあい、分かったのじゃー」
家屋の外から子供たちと見守る中、カエデが魔石に魔力を込める。結構強い光量を発しているのか、家の隙間から光がこもれる。かなり塞いだように思ったが、まだまだだったか。夜になると眩しいし、あとでもっと塞いでおかないとな。
電力計を見ると、ソーラーパネルの最大発電量付近まで上がっている。かなり強い魔法のようだが申し分無い。大成功と言えるだろう。
こうして数時間かけた作業も完了し、カエデの里に新しく電力施設が出来たのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます