第二章 現実世界企業連合創立編 第45話 木魔法


 昼食を食べ終わり、二乃を連れて狩りへと繰り出す。

 あまり大人数で狩りをしても効率が悪いので、今日はハルカ以外の子供は村でお留守番だ。護衛のセリーヌが村で待機してくれているので任せてある。結界も張ってあるので多分大丈夫だろう。


 俺としては正直な話、新しく来たセリーヌにいきなり子供たちを預けるのもどうかと思ったが、カエデの元部下だからな。カエデが信用しているのに、俺が口出すわけにもいかない。

 それに仰々しい国璽が押された出向命令書を見せてくれたので、信用に事足りると判断した。


 まぁ一番の決め手は、俺ではなくカエデに対して敬う気持ちが見られたからだろうか。

 恐らく護衛の二人も、カエデの称号を知ってるはず。『厄災の申し子』という名前だけが忌々しい称号だ。それでも付き従っているんだから、間違いなく信用出来るだろう。

 良いなぁ。互いに信頼出来る仲間が居て。

 俺も同性でそんな関係を持てる人が、この先現れるのだろうか。まぁそんなことはひとまず置いといてと。


 対照的にもう一人の護衛であるテルシアは、今回の狩りに参加してくれるようだ。

 やはりメインはカエデの護衛だからな。魔物如きで後れを取るカエデでは無いが、万が一を考えて控えてくれるらしい。

 対人戦闘の経験がある騎士が居てくれるのは心強いので、俺はその提案を受け入れることにした。


 そうして森を彷徨うこと数十分。

 俺たちはいつものように狩場に向かって歩いている。

 先陣を切るのはテルシアだ。その後ろに二乃とハルカが並列し、最後尾に俺とカエデが付き添うようにして歩く。

 いつものように村奥にある森を抜けた先を通っているが、以前と比べて道が切り開かれている。前は荒れ放題で、草木も多かったのに。目を離した間に、随分と様変わりしたもんだ。


「まさかここまで、道が整備されているとはな……」


 地面にはまだ草が生い茂っているが、このくらいなら自動車でも充分に通れる。

 カエデが風魔法で草木を切り刻んでくれたおかげだろうか。けもの道だったコースが、見事なまでの森林道に変化していた。

 カエデが懐かしむように森を見る。


「元々ここは、今のようにちゃんとした道だったんじゃよ。長年放置されたせいで、いつの間にか通れなくなっておったがな」


「勿体ないな。こんな良い道なのに……」


 確かに木が等間隔に並んでいて、道があった形跡も所々に見られる。整備されて初めて分かったが、昔は一本の道だったんだろう。最近は狩りに付き合うことも久しく無くて分からなかったが、カエデが草刈り機宜しく並に、せっせと頑張ってくれたおかげだろうな。でもなんでこんなところに道があるのか。

 そう思っていると、前方を歩いているテルシアが急に道端で立ち止まった。


 そこには、なぎ倒された一本の木が無造作に置いてある。

 森林道として整備されているのに、そこだけ樹木が倒れているので目立つことこの上ない。

 カエデが近づいて声を掛ける。


「すまんのぅ。小童らが間違って、魔法でその木を切り倒してしまったんじゃ。ルシアよ。直してくれんかえ?」


「はっ! お任せ下さい!」


 念話で形成された声が頭に響く。 

 見るとテルシアが切り株に手を当てているようだが、一体何をしようとしているのか。心無しかさっきより切り株が小さくなっているような気もするけど。

 ……いや、実際に小さくなってるな。なんだこれ?

 俺がマジマジと眺めていると、カエデが隣に並んだ。


「凄いじゃろ? ルシアは木魔法の使い手での。このくらいの木なら、修繕もお手の物なんじゃ」


 カエデが隣でそう補足する。話している間にもみるみる切り株が小さくなっていき、やがて消滅して大きな穴が出来る。その穴を塞ぐようにして地面を均す。

 そうして近くにあった枝をそこにぶっ刺すと、すくすくと枝が伸びて、まもなく一本の木が出来上がった。

 確かに凄いな。どういう原理なんだこれ?

 同じく横で見ている二乃も、目を輝かせている。


「……これが魔法。興味深い!」


「ふふん! そうじゃろ、そうじゃろっ!」


 木がすくすくと育つ光景は見ていて圧巻だ。カエデが自慢したくなるのも分かる。

 となると、この周辺の木って、全部テルシアが植えたんだろうか。確かこの辺りって、昔は何も無い平原だったと聞いたが。勝手にこんなに植林したら怒られるんじゃないか?

 ……うーむ。この二人が揃うと図に乗ってやりすぎそうな気もする。深く考えないようにしよう。



 そのあとも順調に森林道を練り歩き、カエデの魔法講座が続く。二乃もふんふんとメモを真剣に書いたりして耳を傾けている。


「聖樹の森の木は魔素で出来ておっての。ルシアは木魔法で魔素を分解したり、再構築させたり出来るのじゃ。特殊魔法の一種じゃな」


「二乃もいつか、使えるようになる?」


「うーむ。おそらくは無理じゃろうな。木魔法は適性者が少ないゆえ、水都にもほとんどおらん。かなり特殊な部類じゃよ」


「そっか……残念」


「……じゃが、二乃嬢の場合は異界の者ゆえ、特殊な魔法が使える可能性もあるぞえ?」


 言ってカエデがちらりと俺の方向を見る。

 なんだよ。俺を引き合いに出すなって。

 空適性なんて、あまり良いもんじゃ無かったろうに。覚えるのも大変だったし。

 カエデがそのまま言葉を続ける。 


「それを調べるには鑑定札と水晶が必要になるんじゃが、今はちょうど鑑定札を切らしておってのぅ」


「ああ、そういえば俺が使ったのが最後だって言ってたな」


「うむうむ。まぁ次にマコトが来た時には、セリィが水都から戻ってくるじゃろうから、その時に夕華嬢と一緒に判別をしようかえ。鑑定札も買ってくるように伝えようぞ」


「約束……!」


「分かっておる。じゃがその為には魔獣を倒さんと始まらんからの。今日は張り切って頑張るんじゃぞ?」


「レベル上げなら得意。任せて……!」


 威勢の良い言葉を放つ二乃が、手を広げてクルクルと回る。今日はやけに上機嫌だな。

 異世界に来たおかげもあるんだろうが、やはり同世代の子供と触れ合えたのが一番の原因だろうか。隣に並ぶハルカと饒舌に話し合う姿がとても楽しそうに見える。


 食事の時も質問攻めに遭っていたが、早くも二乃は皆に愛される存在になろうとしている。やはりここに連れてきて正解だったな。西園寺の言う通りだ。これなら早すぎることも無かったか。

 森から聞こえる野鳥の群れのハーモニー。俺たちは大自然が織り成す風景を堪能しながら、木漏れ日の差す林道を歩いていった。


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