2年生編第23話(第49話)運命の告白時間(タイム)
修学旅行3日目。今日は一日、長野の町観光をすることになっている。勉の班は駅に着いた。
勉「まずは、松本城に向かうけどみんな切符を忘れて無いか?」
寝待「大丈夫だ。」
乱麻「脛梶が一番心配だけど。」
寅之助「失礼な。ボクちゃんは胸ポケットにしっかり入れているぞ。」
乱麻「珍しく気合い入っているじゃねえか。」
寅之助「当然だ。今日はボクちゃんにとって運命の日なんだからな。」
乱麻「あ、そうか。今日、告白するんだっけか。」
勉「ん?告白ってどういうこ・・・・・・」
練磨「みんな揃っているしもう行くぞ!」
練磨は勉の背中を押しながら駅に入った。
勉「何で押すんだよ。」
練磨「こっちの話。お前には関係ないから。」
勉「そう言われると逆に気になるじゃないか。」
練磨「じゃあ言うけど……今日の夜、脛梶が百合根さんに告白するって」
勉は茫然としていた。
練磨「まあ百合根さんなら断るだろうけど、その後、勉と付き合っていることがバレたらアイツのことだからなにしでかすか分からないぞ。」
勉「確かにそうだな。そうだ練磨、午後からのことなんだけど……」
勉は練磨に午後からのことを話した。
練磨「⁉︎ 大丈夫なのか?」
勉「華から許可はもらっているから。」
練磨「まさか中泥さんと一緒に周ることになるとは……」
勉「僕の行動のせいで中泥さんを傷つけてしまったからね。その罪滅ぼしさ。」
練磨「うっす、午後からは俺がコイツらを引っ張っていくからお前は中泥さんと行ってこい。」
勉「ありがとう、後でお礼するから。」
こうして勉の班は松本城に向かうために電車に乗った。電車に揺られ約数分。松本城近くの北松本駅に到着した。歩いて松本城に到着し、一行は初めての城に大興奮していた。
寅之助「すっげー本物の城だ!!」
寝待「興味なかったやつが一番興奮しているな。」
勉「写真撮るなら城の西側から撮った方がいいらしいぞ。」
寅之助「そうなのか!?すぐ行こう!」
寅之助は城の西側に向かって走り出した。
勉「脛梶っていつもあんななのか?」
点睛「今日はいつもよりテンションが高いな・・・・・・寅之助様、足元に気を付けてください!」
しかし点睛の言葉も届かず、足がもつれて寅之助は転んだ。その後、城の写真を撮り終え、松本城の中に入ることに。
寅之助「ゼエゼエ・・・・・・階段急すぎないか。」
乱麻「普段運動してないからだろ。」
寅之助「そういう真面野は何で疲れてないんだよ!」
勉「これくらいの階段で何で疲れるんだ?」
寅之助「一番運動ができなそうな見た目して・・・・・・」
練磨「勉は運動できる方だろ。野球だって長打打ったし。」
乱麻「練磨の剛速球捕れるんだから苦手ではないだろ。」
寅之助「ぐぬぬ・・・・・・完璧超人め・・・・・・」
寝待「おい見て見ろよ。この景色絶景だぞ!」
勉・練磨・乱麻・寅之助・点睛「お~」
松本城からの眺めを堪能した勉たちは、次の上田城跡公園に到着した。
寝待「上田城ってどんな場所だっけ?」
勉「真田幸村の父、真田昌幸によって築かれた城で、徳川軍を二度に渡って撃退した難攻不落の城って言われてるんだ。まあ城跡だからお城自体は見れないけどな。」
寝待「さすが勉。物知りだな。」
勉「別に、これくらい常識だよ。」
乱麻「いや、名前は聞くけどそこまで細かくは俺たちも知らないから。」
練磨「俺は知ってるけどな。スマホで今日行くところをずっと見ていてそれで覚えたんだろ。」
勉「バレたか・・・・・・」
上田城跡公園に寄った後、名物のアップルパイを食べに売店に寄ると・・・・・・女子高生のグループが。
華「あれ、勉くんたちだ。」
勉「華さん!?」
寅之助「な!?ゆっ、百合根じょ・・・・・・百合根さん。」
寝待「百合根さんがここにいるということは・・・・・・」
団子「あれ~なんでみんながここにいるの?」
寝待「やっぱりお前がいるか・・・・・・」
団子「なに?なんでがっかりしてるの~?」
寝待「別に、こういうお店にいるだろうなとは思ったけどさ。」
寅之助は魚のように口をパクパクしてしていた。目の前に華がいるのか緊張していた。
華「脛梶くん、大丈夫?」
寝待「ダメだ、聞いちゃいない・・・・・・」
点睛「寅之助様!」
寅之助「はっ!?」
点睛の声で我に返った寅之助。そこで華がある提案を出した。
華「そうだ、せっかくここで会ったわけだし一緒に行動しない?」
寅之助「え!?ホンマですか!?」
なぜ関西弁になったかは知らないが・・・・・・勉がその提案に乗ることになった。
勉「じゃあ僕、別の用事があるから。」
寝待「おい、なんだよ用事って。」
練磨「うっす、後は俺たちに任せろ。」
寝待「おい急蒲、それってどういう・・・・・・」
その異変に気付いた団子が寝待の腕を引っ張った。
寝待「だ、団ちゃん何してんの?」
団子「いいから、ほら次の店行くよ!」
寝待「おい、ちょっ!」
団子は寝待の背中を押しながら勉に向かってウインクをした。
勉「(まあ団ちゃんにはバレるか。)」
勉は団体から離れ、蓮乃の待ち合わせ場所に向かった。それを見ていた華は自分のガラケーで蓮乃にメールを送信した。
華「よし、なら私たちも長野観光楽しみましょう!」
勉は集合場所である駅近くに着いた。
蓮乃「あ、真面野くん!」
勉「中泥さん、待ったか?」
蓮乃「ううん、ほぼ同じ時間だったよ。」
勉「じゃあ・・・・・・行こうか。」
蓮乃「あ、あのさ・・・・・・私のこと、蓮乃って下の名前で呼んでよ。」
勉「え、なんで?」
蓮乃は頬をぷくーと膨らませていた。
蓮乃「前から思ってたんだけど、頭いいのにこういうところが抜けているよね・・・・・・」
勉「抜けてる?僕が?」
蓮乃「分かった、今日一日私を下の名前で呼んで。」
勉「いや、だからなん・・・・・・」
蓮乃「いい!?」
勉「う、うん・・・・・・」
蓮乃の気迫に押され、勉は返事をしてしまった。
勉「じゃあ行こうか・・・・・・蓮乃さん。」
蓮乃「うん、行こ!」
蓮乃は満面の笑みで答えた。その後勉の腕を組んだ。
勉「(!?柔らかい・・・・・・華にはない何かが・・・・・・)」
その時、華たちの班では華が顔をしかめていた。隣にいた能美が異変に気付いた。
能美「百合根さん、何で顔をしかめてるの?」
華「いや、なんか失礼なことを言われたような気がしてイラッて・・・・・・」
能美「何それ・・・・・・」
華「ところで、そのキーホルダー家族へのお土産?」
能美「これは・・・・・・一騎「いっき」くんへのお土産。」
華「へ?一騎くん?」
乱麻「「当仙一騎(とうせん いっき)」D組のサッカー部のキャプテンだよ。ルックスも良くて誰に対しても優しい、おまけに運動神経もいいんだよ。ムカつくけど。」
点睛「詳しいな、お前。」
乱麻「一騎とは中学同じなんだよ。そういえば夏休み中に彼女ができたって言ってたけどもしかしてそれって鷹爪さんか?」
能美は静かに頷いた。
団子「A組の中でも当仙くん狙っていた子多かったんだけどね~」
寝待「へ~意外だn・・・・・・イデッ!」
団子は失礼なことを言った寝待の左足を思い切り踏んづけた。
寝待「何すんだ!」
団子「ほんと失礼なこと言う人でごめんなさいね~」
一方その頃、勉たちは昼ご飯を食べに食堂に寄った。
勉「ところで、どこに行こうか?まったく決めてないんだけど。」
蓮乃「それなんだけど!ちょっと遠いけど長野で有名なパワースポットがあるの!」
蓮乃はスマホで「戸隠神社」のホームページを見せた。
勉「そこ、僕も気になっていたんだ。」
蓮乃「ホント!?じゃあご飯食べ終わったら行こうよ!」
勉「そうだな・・・・・・」
勉はまたしても蓮乃の気迫に押されてしまった。その時、勉の目線の先には・・・・・・
勉「あれ、アイツら・・・・・・」
蓮乃「あっ、百合根さんたちだ!」
華たちが同じ店に入ってきた。
華「あっ、中泥さん、勉くん。」
寅之助「お前、用事でどっか行ったと思ったら中泥さんといたのか!?」
寅之助は勉と蓮乃の顔を交互に見た。
寅之助「そうか、お前ら付き合っていたのか!?」
勉「いや違うって。」
勉は冷静に返答を返した。蓮乃は嬉しそうにしていた。
華「むっ・・・・・・」
華は勉を冷ややかな目で見ていた。
勉「(いや、分かっているだろう・・・・・・付き合っているわけじゃないって)」
華と付き合っているのを知っている団子はニヤニヤしながら勉を見ていた。三八は練磨に事情を聞いているので特に変わった様子はない。メアリーとミミは浮気をしている人を見るような目で見ていた。
華「みんな行こ、二人の邪魔しちゃ悪いしね~」
と、華は寅之助の背中を押した。
寅之助「(ゆっ!百合根嬢に背中を押された!)」
寅之助は顔を真っ赤にして遠くの席に移動した。
勉「(何でこんなことに・・・・・・)」
勉はテーブルに突っ伏していた。
ご飯を食べ終わった勉と蓮乃はバスで戸隠神社に向かっていた。
蓮乃「名物の山賊焼き定食、美味しかったね~」
勉「うん・・・・・・」
勉の暗い表情に蓮乃の表情もこわばった。
蓮乃「・・・・・・あのさ。もしかして私のこと嫌い?」
勉「え、やっ!そんなのじゃなくて!」
蓮乃「昨日からそうだけどなんか私のこと避けてるような気がしてさ・・・・・・」
勉「それは違うよ!僕は蓮乃さんのこと嫌っていることなんてそんなことはない!」
蓮乃「本当?」
勉「本当だよ!」
蓮乃はホッと息をはいた。
蓮乃「(よかった・・・・・・私の考えすぎだったかもしれないわ。)」
2人の乗せたバスは戸隠神社近くのバス停に到着した。
蓮乃「でも意外、勉くんこういう非現実的なもの信じないと思っていたけど。」
勉「最初はそう思っていたけど、世の中、数字では表せないこともあるからな。」
蓮乃「その言い方、実際に経験があるみたいな言い方ね。」
勉「え、そうだな。経験あるからかな。なかったらこんなこと言わないかも。」
2人が戸隠神社に到着し、賽銭を賽銭箱に入れた。
蓮乃「(今日の告白成功しますように・・・・・・)」
勉「(・・・・・・。)」
勉も手を合わせてお願いしていた。終わった後、二人は階段を下りていた。
蓮乃「勉くんは何をお願いしたの?」
勉「僕?こういうのは言わない方が叶うって聞いたことあるけど。」
蓮乃「そうだね。じゃあ私も言わないわ。」
勉「時間もないしそろそろ帰ろうか。」
蓮乃「そうだね・・・・・・」
蓮乃は小声で、本当はもっと一緒にいたかったな・・・・・・と漏らしていた。
バスに揺られ旅館に戻って来た二人。降りた直後、蓮乃が口を開いた。
蓮乃「勉くん!」
勉「何?」
蓮乃「午後9時、旅館の蔵の近くに来てくれない?あなたに大事な話があるの!」
勉「・・・・・・分かった。」
蓮乃の話の内容は勉には理解できていた。・・・・・・告白だ。蓮乃はルンルンと旅館に戻っていった。
華「中泥さんとのデートは楽しかったですか・・・・・・」
後ろからの声に勉は驚いた。
勉「のわっ!華驚かすなよ!」
華「もしかして中泥さんに裏に来いって言われた。」
勉「まあな、断るけど。」
華「私も、脛梶くんに呼ばれたの。場所は旅館の裏。」
勉「そっか、僕は蔵の近くに呼び出された。」
華「・・・・・・でも心苦しいね。断ること前提の告白を受けるの。」
勉「・・・・・・だな。今まで告白を断ったことはあるけどここまで苦しいことは無かったよ。」
華「・・・・・・じゃあ、後で。」
勉「うん、後で。」
2人は旅館に戻って行った。夕食と入浴が終わり、約束の午後9時になった。華は旅館裏の人気のないところに、勉は蔵の近くにそれぞれ相手を待っていた。
寅之助「ゆ、百合根さん。お待たせ・・・・・・」
華「脛梶くん・・・・・・」
蔵の方でも勉と蓮乃が合流した。
勉「蓮乃さん・・・・・・」
蓮乃「勉くん、待ってくれてありがとう。」
勉「う、うん・・・・・・」
蓮乃「今日は、ありがとう一緒に行ってくれて。とても楽しかった。」
勉「ならよかった。僕、実は修学旅行初めてだったんだ。」
蓮乃「初めて!?小中学の時行かなかったの?体調崩したとか?」
勉「自分から行かなかったんだよ。勉強の妨げになるし、クラスメイトのなれ合いは無意味だと思ったんだ。」
蓮乃「そうだったの・・・・・・」
勉「でも、この学校に入って変わったんだ。色々な人たちと会って僕の考えも変わった。この学校に、生徒に救われたんだ。」
蓮乃「そうなんだ。」
勉は蓮乃に頭を下げた。
勉「蓮乃さんごめん、君に嘘をついたことがあるんだ。」
蓮乃「え?」
勉「実は一昨日、蓮乃さんの会話を聞いたんだ。」
蓮乃「!? もしかして勉くんの話をした時の会話?」
勉「エレベーターが使えなくて、階段も前に生徒がいて上れなかったから、非常階段を使ったんだよ。」
勉は非常階段を使うための嘘を数秒で考えて口に出した。
蓮乃「その・・・・・・じゃあここに勉くんを誘った理由、分かるよね。」
勉「・・・・・・告白だよね。」
蓮乃「うん、演劇の頃から・・・・・・いや、それ以前からあなたのことが好きでした。私と付き合ってくれないでしょうか!」
蓮乃は頭を下げて右手を差し出した。
勉は下唇を嚙みしめていた。
勉「・・・・・・ごめん。蓮乃さんの気持ちに答えるはできない。」
蓮乃「・・・・・・それって、付き合えないってこと?」
勉「その・・・・・・嘘ついていたって言っただろ。実はね、もう付き合っている人がいるんだ。」
蓮乃は顔を上げた。
蓮乃「え、誰と!?」
勉「・・・・・・百合根さんと。」
蓮乃「・・・・・・嘘、はついていないよね。謝っているのに嘘で上塗りするわけないしね。」
勉「ごめん・・・・・・」
蓮乃「でも百合根さん、一言もそんなこと言ってないけど。」
勉「訳あって付き合っていることを隠しているんだ。」
蓮乃「まあそうだよね。他に隠す理由ないだろうし。」
勉「だから、華さんのことは責めないでくれ。こうなったとは全部僕のせいなんだ。」
蓮乃「もしかして、学園のアイドルと付き合っているからクラスで居づらくなるからとか?」
勉「・・・・・・そんなところかな。」
蓮乃「でも、そういうところだと思った。」
勉「エスパーだからか?」
蓮乃「・・・・・・それは嘘。私、そんな能力無いよ。」
勉「え!?」
蓮乃「まさかずっと信じていたの?そういうの全然信用していないと思っていたけど。」
勉「だって僕の考えていること、当ててるから。」
蓮乃「それは、勉くん分かりやすいから。クールそうに見えて表情豊かだよね。」
勉「そうなのか・・・・・・」
蓮乃「これでお相子。だからもうこの話はおしまい。ゴメンね、ほんとは百合根さんと行きたかったよね・・・・・・」
勉「・・・・・・そうだね。」
勉「でも、今日が楽しかったのは嘘じゃない!」
蓮乃「勉くん・・・・・・」
勉「振ったやつがこんなこと言うのはおかしいけど、とても楽しかった。」
蓮乃「・・・・・・それ、百合根さんの前で絶対言ったらだめだからね。」
勉「そうだね。」
蓮乃「そろそろ戻ろう。最後の日ぐらい百合根さんと一緒にいなよ。」
勉「・・・・・・うん。蓮乃さん、本当にゴメン。」
勉は駆け足で去っていった。そして華と寅之助も
華「ごめんなさい。」
寅之助「・・・・・・何でか説明してくれないか?」
華「私、今好きな人がいるの。」
寅之助「好きな人!?」
華「うん。だから、脛梶くんの気持ちに答えることはできない。」
寅之助「それってボクちゃんの知っている人?」
華「・・・・・・ないしょ。」
寅之助「絶対言わないから。」
華「しつこい男は嫌われるよ。」
寅之助「ぐっ・・・・・・それはそうだね。」
寅之助はどうしても諦めたくないのか更に聞いてみることに
寅之助「ボクちゃん、どうしても諦められないんだ。もし、その人に断られたらボクちゃんが・・・・・・」
華「脛梶くん。君ならもっといい人がいるよ。私は、君が思っているほどいい人ではないよ。性格も、容姿も。」
寅之助「そんな・・・・・・でも・・・・・・」
寅之助はその言葉を最後に口を開かなくなった。
華「ごめん、脛梶くんのことは嫌いではないけど。私を追いかけ続けても脛梶くんを苦しめるだけになるの。この学校は彼女をつくらないと卒業できないし、もし私に彼氏ができたら脛梶くんはどうなるの?ダメだったことを考えないと脛梶くんのためにならないと思うの。本当にゴメンね。こんな事しか言えなくて。」
寅之助はその言葉を聞いて静かに口を開いた。
寅之助「・・・・・・そうか、そんなにその男が好きなんだな。だったら無理強いはできないよ。百合根さんもボクちゃんのことを嫌いと言って突っぱねても全然よかったのにそれをしなかった。やっぱり優しい人だよ。」
華「脛梶くん。」
寅之助「・・・・・・ボクちゃん。次の恋を探してみるよ。こんな情けないボクちゃんを好きになってくれる人がいればだけどね。」
華「うん、きっと見つかるって信じてるよ。」
華は寅之助に頭を下げてその場を去った。華がいなくなった後。
寅之助「そっか~やっぱり百合根嬢に好きな人ができたのか!今日の自由行動で楽しくやっていたけど迷惑かけたな~」
寅之助は頭をポリポリ掻いていた。
寅之助「でもスッキリした。次につながるようボクちゃんも頑張らないと。」
寅之助が旅館の中に戻ろうとした時、女性のすすり泣く声が聞こえた。
寅之助「蔵に誰かいるのか?」
寅之助が蔵の裏側に進むと体育座りで泣いている蓮乃の姿があった。
寅之助「中泥・・・・・・だよな。どうしたんだよこんなところで。」
蓮乃「グスッ・・・・・・脛梶くん・・・・・・どうして・・・・・・」
寅之助は蔵にすがりながら蓮乃の話を聞いていた。
寅之助「真面野に振られた!?」
蓮乃「うん・・・・・・」
寅之助「アイツ、こんなかわいい女の子振りやがって。」
蓮乃「・・・・・・脛梶くん。」
蓮乃は寅之助にかわいいと言われ少しドキドキした。
寅之助「実はボクちゃんも百合根さんに告白して振られたんだ。他に好きな人がいるからって。」
蓮乃「え?」
蓮乃は付き合っていることを寅之助に伝えていないことを疑問に思い、そしてややこしくならないよう華の話に乗ることにした。
蓮乃「真面野くん。勉強に集中したいからって・・・・・・今は誰とも付き合う気はないって。」
寅之助「それで振られたのか?真面野、アイツ本当に人の気持ちがわかっていないやつだな。でも、お揃いだな。ボクちゃんたち振られた者同士だね。」
蓮乃「そうだね・・・・・・」
寅之助「ボクちゃんはね、親が金持ちだから欲しいものは何でも買ってもらえたし、双子沢も入りたいがために日本でもトップクラスの家庭教師に勉強を教えてくれて何とか合格できたんだよ。だから初めて会った百合根さんに一目ぼれして何度も遊びに誘ったり誕生日プレゼントも渡したりやることはやったんだ。でも、初めて欲しいのが手に入らなかった。相手の嫌がることはするなって両親に教え込まれたからあれ以上突っ込むわけにはいかなかった。次、どうしたらいいんだろ。」
その直後、寅之助の右目から雫がツーっと落ちた。
蓮乃「脛梶くん・・・・・・泣いてるの?」
寅之助「あ、あれ?なんで泣いているんだ?」
左目からも涙がこぼれて寅之助は手で涙を拭った。蓮乃は自分のハンカチを寅之助に渡した。
寅之助「ありがと・・・・・・」
蓮乃「振られる人ってこういう気持ちなんだね。ドラマとかでよく見るけど体験するとこんなに悔しいんだね。」
寅之助「うん・・・・・・」
蓮乃は立ち上がろうとしたが急に立ち上がろうとしたのでよろけてしまった。
寅之助「危ない!」
寅之助が蓮乃を支えようとしたが踏ん張りがきかず2人そろって地面に倒れた。
寅之助「いでで・・・・・・!」
地面に倒れた二人はお互いに顔を向き合って距離が近く互いの心臓がバクバク跳ねていた。
寅之助・蓮乃「!!」
互いに顔を背けゆっくりと立ち上がった。沈黙が続いていたが寅之助が口を開いた。
寅之助「あのさ・・・・・・今から変なこと言っていい?」
蓮乃「何?」
寅之助「中泥さんがよければだけど・・・・・・ボクちゃんたち付き合わない?」
蓮乃「え?」
互いに背を向けているので表情は見えてないが蓮乃の間の抜けた声が聞こえた。
寅之助「その・・・・・・勢いじゃなくて、中泥さんかわいいし、人の気持ちを分かってくれるしどうかなって思って。」
しかし蓮乃からの返事は無い。
寅之助「・・・・・・さすがに嫌か。ごめん、やっぱ今の忘れ・・・・・・」
寅之助が振り返ると唇に柔らかい感触が・・・・・・目の前には蓮乃が自分の唇を寅之助の唇に重ねていた。
寅之助「!?」
突然の蓮乃の行動にびっくりした寅之助だが、蓮乃は自分の唇を指で触りながら
蓮乃「これ、私からの返事なんだけど・・・・・・」
蓮乃の頬が真っ赤に染まっていた。
寅之助「え・・・・・・つまりどういう?」
蓮乃「・・・・・・これからよろしくお願いします。寅之助くん。」
寅之助「やっ・・・・・・やった・・・・・・告白成功しちゃった・・・・・・」
こうして振られた者同士の新しいカップルが誕生したのだった。一方その頃、勉と華は非常階段のドアの奥にいた。
勉「・・・・・・すごい罪悪感。」
華「私も・・・・・・」
勉「ごめんね。華。こんなことをさせて。」
華「いいって、初めからこうなることは分かってたじゃない。」
勉「・・・・・・いつか話さないといけないけど。」
華「勉・・・・・・。」
勉は罪悪感を抱えながら自分の部屋に戻ったが部屋の中が騒がしい。
勉「どうしたんだ?」
寝待「勉・・・・・・脛梶に彼女ができたって。」
勉「はあ!?」
寅之助「よお独り身さんよ~ボクちゃんめでたく蓮乃とお付き合いをすることになったのだ~!」
勉「そっか・・・・・・よかったな。」
寅之助「何で安堵しているんだ!?」
こうして4日間の修学旅行が終わった。次の日、帰りの新幹線の中で華は窓を見ながら考えていた。
華「私も変わらないと・・・・・・」
第49話(完)
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