第21話 華のお料理学年末試験

とある休日の朝、華は家で料理本を見ながら考えていた。


華「何を作ろうかな?」


華は3月の学年末テストで作る料理を考えていた。テーマは日本食らしい。


華「簡単なものはすぐ作れるけど点数はあまり高くならないし、だからと言って難しいものを作っても高い点を取れるとは思えないし・・・・・・」


華は考えたが、なかなかアイデアが浮かばない。すると、電話が。


華「はい、あ、勉?」


勉「今日よかったら、遊びに行かない?」


華「うん、じゃあ買い物付き合ってくれない?」


勉「買い物?」


華「そう、実は勉に頼みたいことがあるから。」


勉「分かった、じゃあ10時に公園集合で。」


華は変装用のウィッグと眼鏡をかけて待ち合わせ場所の公園に向かった。


勉「こっちだ。」


華「ごめん、遅くなっちゃった。」


勉「いいよ、僕もちょうど今着いたところだから。 ところで、相談って何?」


華「実は、料理の献立を考えてほしいの!」


勉「・・・・・・・・・・・・料理!?」


華「うん、次の学年末テストで料理を一品作ることになってね。テーマは日本食なら何でもいいと言われたけど何を作っていいか分からなくてね。」


勉「それで一緒に探してほしいと。」


華「うん。」


勉「分かった、僕も協力するよ。」


華「ありがとう!」


2人は近所の図書館でひたすら日本食の本を見てみた。


勉「うどん、ラーメン、そば、ちゃんぽん・・・・・・」


華「麺料理もいいね。でも、作るの大変そうだね。」


勉「袋麺を使うのはさすがにダメか・・・・・・」


華「さすがにダメでしょ・・・・・・」


勉「じゃあやっぱりお米系の料理にするか?」


華「お寿司とかは考えたけど。」


勉「予算3千円以内だろ。なら、いいもの作れるのじゃないの?」


華「でも種類が多過ぎて何を作ればいいか分からなくて。」


勉「後は肉じゃがとか定番だよな。」


華「肉じゃがか・・・・・・いいかも。」


勉「え?」


華「肉じゃがにしよう!さっそく材料を買いに行こう!」


勉「まあ、決まってよかったよ。」


勉と華は近くのスーパーに買い物に行った。 そこには、仲良さげなカップルが一組。


三八「このジャガイモで作ったほうがおいしいかな?」


練磨「俺はそっちより男爵イモの方が好きだけど。」


勉「あれ、誰かと思えば練磨と三八さんじゃないか。」


練磨「うっす勉。今、三八の期末試験用の食材を買いに来て・・・・・・ところで、隣にいる女性は誰なんだ? お前、まさか浮気とか・・・・・・」


勉「浮気じゃないから!」


華「そうだね、2人にはこの格好で会うのは初めてだよね。」


華はウィッグと眼鏡を外した。


三八「華ちゃん!?」


練磨「百合根さんだったのか。」


華「みんなにばれないように変装しているの。」


華はウィッグと眼鏡を再びつけた。


華「今の私は勉の従妹の真面野美咲ってわけ。」


練磨「お前も大変だな、学園のアイドルと付き合うためにわざわざ彼女に変装させるなんて。」


勉「言っておくけど、この提案を出したのは華だからな。」


三八「華ちゃ・・・・・・じゃなかった。美咲ちゃんは何を作るの?」


華「私は肉じゃがを作ろうと思うの。」


三八「という事は私たちと同じジャガイモ料理だね。私はコロッケを作ろうと思っているの。」


華「コロッケか、その手もあったわね。」


練磨「それで、俺たちどんな種類を使えばいいのか悩んでいてな。」


勉「男爵とかメークインみたいな感じだよな。僕が見た情報だと、コロッケも肉じゃがも男爵イモがいいってさ。」


練磨「さすがだな。」


三八「じゃあこの芋を買えばいいということね。」


三八がジャガイモを掴もうとしたその時


勉「三八さんストップ!」


三八「え!?」


華「勉、どうしたの?」


勉「じゃがいもを選ぶポイントは、皮は薄く表面がなめらかで全体的に形がふっくらとしており、しっかりとしたかたさがあるものであまり大きすぎず中玉くらいのものが良いらしい。」


華「博識だね。」


勉「いや、ただ調べただけだよ。そう書いてあったからね。」


こうしてジャガイモを調べつくして無事に買い物を終えた勉たちは。


練磨「じゃあ俺たちはこっちだから。」


勉「ああ、じゃあね。」


三八「華ちゃん。お互い頑張ろうね。」


華「うん!」


練磨と三八と別れた後、華の家で料理の練習することに。華は家に着くなり純白のエプロンをつけた。


勉「エプロン付けるんだ。」


華「そうだよ。どうかな、私のエプロン姿?」


勉「こうして見るとお母さんみたいだな。このまま「あなた~ご飯よ~」って言ってもおかしくないな。」


華「じゃあ・・・・・・」


華は机の近くに正座すると。


華「あなた、ご飯にします?お風呂にします?それとも・・・・・・」


華は右肩を服から少し出して


華「わ・た・し?」


勉「なんだ、その猿芝居は・・・・・・」


華「え、こうしてやると男の人が喜ぶって団ちゃんが言ってたから。」


勉「あの野郎・・・・・・」


華に肩を出すのをやめるように言うと。


勉「肉じゃが作るんじゃなかったっけ?」


華「そういえば、芝居に夢中で忘れていた。」


華はそういうとさっそくジャガイモの皮をむき始めた。


勉「華、手伝えることないか?」


華「ううん、特にないからラジオでも聞きながら待ってて。」


勉は華に言われたとおりラジオを聞きながら華の様子を見ていた。(ちなみに百合根家にテレビはありません。)ラジオを聞いて数時間・・・・・・ラジオから夕方のラジオドラマが流れている。


勉「(・・・・・・暇だな。勉強道具持ってくればよかった。)」


華「うん、こんな感じかな。完成したよ~味見してみて。」


華は机の上に自分の作った肉じゃがの入った小鉢を置いた。


勉は割り箸を受け取ると


勉「いただきます。」


勉は肉じゃがのじゃがいもを口にした。


勉「{モグモグ・・・・・・・・・・・・}」


華「どう、味は?」


勉「・・・・・・おいしいよ。」


華「そんな分かりやすい評価はいいから本当のことを言って。」


勉「う~ん、美味しいのは美味しいけど・・・・・・普通だな。」


華「普通?」


勉「何というか普通に美味しい肉じゃがって感じだな。」


華は小鉢を取って自分の菜箸でつまんで食べた。


華「・・・・・・普通だ。さっき味見したときよりも美味しくない。」


華は小鉢を台所に置いた。


華「普通じゃダメなのよ・・・・・・もっと美味しいものじゃないと。」


勉「テストまであと10日だから焦らずにがんばってね。」


華「うん・・・・・・」


それから数日、華はひたすら肉じゃが作りに専念した。

この後、2人は最初の肉じゃが試食以来会話をしていない。勉から話しかけようとしたこともあったが話を聞いていないのかスルーしている。


テスト前日、勉は図書室で寝待と練磨、そして失神寸前の赤点ギリギリの寅之助でテストの最後の追込みをしていた。


練磨「あんがとな、勉。お前勉強教えるのうまいな。」


勉「いいよ、勉強は教える方が頭に入りやすいから僕にとってもメリットだから。」


寝待「ほんと、持つべきものは頭のいい友だよな!」


勉「だから、友達じゃなくてただのクラスメイトだろう。」


寝待「とか言いつつテスト勉強会俺も誘ったくせに。」


勉「いつも教えてきて、いきなり教えないとかできるわけないだろう。」


寝待「お前は素直じゃないね~」


練磨「次のテストは進級のかかった大事な試験だし赤点1つでも取ったら留年になるし助かるぜ。」


勉「ああ、それとは別の話で三八さんのテストはどんな感じだ?」


寝待「ぐぬぬ・・・・・・彼女持ちが~!」


勉「果報はそれしか言えないのか?」


練磨「三八なら問題ないぜ。この調子ならテストいけるって言ってたしな。」


勉「そうなんだ・・・・・・」


練磨「勉、元気ないけど大丈夫か?」


勉「大丈夫、それよりもさっきから倒れている脛梶を誰か起こしてくれないか。」


となりの席の寝待が寅之助を思いっ切り揺らし起こした。無理矢理起こされた寅之助は白目を向きながら頭をゆらゆらしていた。まるで某ゲームのゾンビのように・・・・・・


寅之助「あれ、ここは誰?僕ちゃんはどこ?」


勉「頭がだいぶん参っているな・・・・・・脛梶、テスト対策は大丈夫か?」


寅之助「はっ!明日テストだ~!僕ちゃんもう死ぬ~!!」


勉・寝待・練磨「し~!」


寅之助「もうダメだ・・・・・・僕ちゃん留年確定決定だ・・・・・・」


勉「また始まった・・・・・・すぐに諦めるなよ。」


勉はどうにかして寅之助のやる気を上げるために


勉「でも留年したら百合根さんと付き合うことはできなくなるな~」


百合根さんという単語で寅之助は体をピクッと反応した。


勉「だって学校の規則として基本同学年じゃないと付き合うことはできないんじゃなかったか?」


寅之助「そっ、それはいやだ~!!!」


勉「なら頑張るしかないよな!」


寅之助「僕ちゃん頑張るぞ~!!」


その後図書室の受付の方に注意されたのは言うまでもなかった。


図書室の閉館時間がきて、寅之助と寝待は先に帰った。勉は練磨と話があると言い、残した。


練磨「で、話ってなんだ。俺だけ残したってことは百合根さんのことだろう。」


勉「まあね。実はうまく料理が作れないって苦戦しているらしい。」


練磨「そういう事か、確かに今女子生徒は結構カリカリしていることが多いって三八も言っていたよ。」


勉「僕も力になりたいけど料理なんてやったことないしなんてアドバイスできないしどうすればいいのかわからない。」


練磨「・・・・・・何も言わないのが正解だと思う。テストだし料理のことは俺らでも分からねえ。後は百合根さんがどうやってこの壁を乗り越えていくかを彼氏として見守るしかないんじゃないか。」


勉「そうか、見守るしかないってなんかむずがゆいな・・・・・・でもありがとう。」


練磨「うっす、また何かあったらいつでも相談に乗るぜ。」


勉と練磨は学校を出た。

勉が家に帰った。


勉「ただいま・・・・・・あれ、靴が一足多い?」


玄関に母の兼備がやってきた。


兼備「勉おかえり、もうすぐご飯できるから。」


勉「うん。ところでお客さん来ていない?」


兼備「来てるわよ、ビッグゲストが。」


勉「ビッグゲストって・・・・・・有名女優とかか?」


勉は疑問を抱きながら家に上がった。すると、そこにいたのは有名女優・・・・・・ではなく・・・・・・


華「お帰りなさい、おじゃましています。」


華がキッチンで料理を作っていた。


勉「華!?何でウチにいるんだよ。」


兼備「明日の学年末試験に向けて料理の最終チェックですって」


勉「結局、料理は完成できたのか?」


華は首を横にふった。


勉「出来ていないって・・・・・・明日大丈夫なのか?」


華「正直言って最近まで焦っていたの・・・・・・今まであまり話しできなくてごめんね。このままだとテストが赤点になって進級できないかもって思ったから。そこで御母さんに相談したの。」


兼備「そ、今日の肉じゃがは一味違うわよ~」


勉「何か味付けとかを変えたのか?」


兼備「それはできてからのお楽しみよ。華ちゃん。落し蓋を取ってくれるかしら。」


華「はい、分かりました。」


勉は2人の邪魔をしないよう自分の部屋に向かった。部屋で勉強をしていたが、華たちの様子が気になって勉強に身が入らなかった。数十分後、ドアをノックする音が聞こえた。


華「{ドアを開ける}ご飯できたよ~」


勉「お前呑気だな・・・・・・ちゃんと出来たのか?」


華「分からないけど・・・・・・味には自信があるから!」


勉「なら・・・・・・いいけど。」


ちょっとよわよわしい自信だったので心配したが味わってみないとわからないと思い勉は食卓に向かった。食卓には父の優斗が座って待っていた。


勉「(見た目は前と変わっていない。)あとは味か・・・・・・」


勉は肉じゃがのジャガイモを一口口に入れた。すると・・・・・・


勉「!!{美味い!!}」


華「どうかな?」


勉「美味いよ、お世辞なしで!前に食べた肉じゃがに比べると天と地の差だよ。」


兼備「コラ!それって前に食べたのが不味いみたいになるじゃない!」


勉「あ、ゴメン・・・・・・」


兼備「ゴメンね、この子たまにオーバーなこと言うからよく誤解されるのよ。」


華「よくわかります、最初のデートの時私が変装して現れたとき驚きすぎて顎が外れそうになったって言ってましたから。」


勉「やめろ!それはもう忘れてくれ・・・・・・!」


勉はもう一口口に運んだ。


勉「うん、いくらでもいける。どこを改良したのか。」


華「実はね・・・・・・改良は何もしていないの。」


勉「え!?じゃあ食材を変えたのか?それとも味変したのか?」


兼備「勉にはこのトリックがわかるかしら~」


勉「肉も前と変わっていない安い肉だし、ジャガイモも男爵イモ。味変えも変わってないけど食べて幸せになる感じ・・・・・・分からない・・・・・・」


勉の隣で食べていた優斗が食べながらこう呟いた。


悠斗「この肉じゃが美味しいね。何というか作った人への愛情が感じられるよね。」


兼備「さすがアナタ~よく分かるわね。」


勉「ん?どこに答えがあった?」


兼備「やれやれ、勉ちゃんにはまだまだお子ちゃまだから分からないでちゅか~」


勉「やめろ、その言い方誰かに似ているからムカつく。」


兼備「簡単なことよ。その愛情こそが料理が美味しくなる最高の調味料になるのよ♪」


勉「そんな非論理的なことが・・・・・・」


兼備「勉、世の中では常識が通用しないこともあるのよ。いい加減に論理的に考えるのをやめなさい。」


勉「でも、それだけで本当に美味しくなるものか?」


兼備「答えはその舌の上にあるわ。あなた、今天と地の差って言ったわよね。それが答えよ!」


勉「!!」


華「すごい・・・・・・勉が論破された。」


勉「でもその愛情って・・・・・・」


兼備「それは自分で考えなさい。まあ考えなくても答えは出ているけどね。」


勉「・・・・・・・・・・・・。」


食卓の中央に置いてある肉じゃががあっという間になくなってしまった。


次の日、試験当日。勉は玄関で靴を履いていた。


勉「行ってくるね。」


兼備「あ~勉、ちょっと待って!」


兼備は勉に弁当箱を渡した。


勉「あ、お弁当忘れていた。」


兼備「今日は特別なお弁当よ。」


勉「分かった。カツでしょう。試験に勝つというくだらないゲン担ぎとかでしょう。」


兼備「・・・・・・それもあるけど答えは昼に開けてみて!」


勉「ありがとう。」


勉は弁当箱をカバンに入れると学校に向かった。

午前のテストが無事に終了し、お昼休憩の時間がきた。テスト期間中は食堂の使用は禁止されているため各自、自分の机で弁当を食べることになっている。


勉「今日は特別って言っていたけど何が入っているんだろう。」


勉が弁当箱を開けると中には・・・・・・


勉「こ、この料理って・・・・・・」


理解するのがあまりに早かった。それもそのはず、昨日の肉じゃがを筆頭にほうれん草の胡麻和え、卵焼き、ミニチキンカツといったおかずが入っていた。しかも全部、華が作った手作りの愛情弁当だった。昨日は夜中の11時まで真面野家にいたのは今日渡すこのお弁当を作っていたのであった。


勉「いただきます。」


勉は肉じゃがを先に口に運んだ。昨日作ったので暖かくはないが出汁がしみ込んでいるのと同時に華からの愛情が入っていた肉じゃがは今まで食べた中で一番の味だった。他のおかずもどれも美味しくいただき5分でお弁当が、ご飯も一粒残さずすべて空になった。


勉「ごちそうさまでした。」


勉は自分の体が暖かくなるのを感じた。


勉「(華、美味しいお弁当をありがとう。これで午後の試験に臨めるよ。)そうか・・・・・・母さんが言った美味しくなる調味料ってこれのことか・・・・・・」


となりの席の学生「真面野、急にどうした?」


勉「あ、何でもない!午後のテストの復習だよ!」


ついつい本音が漏れてしまい口を覆った。


学年末テストの結果は言うまでもなく・・・・・・勉は全教科平均90点と進級確定した。

そして華は・・・・・・肉じゃがの味が評価され、こちらも進級確定した。


第21話(完)

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