第19話 春が来る

大晦日、勉は鳥取市にある「宇倍神社(うべじんじゃ)」に家族全員で初詣にやってきた。勉は電話をしながら宇倍神社に来た。電話の相手は今、東京の祖父母の家にいる華である。


華「あともう少しで今年も終わりだね。」


勉「華は今家にいるのか?」


華「うん、コタツで温まっていま~す。」


勉「東京だと朝の初詣はかなり混むけどいいのか?」


華「私は実家に帰るときに同じ宇倍神社で初詣しようと思うの。」


勉「まあいいか。今すぐ行かなくてはいけないわけではないしな。」


華「あ、そろそろ12時になるよ。」


宇倍神社にいる人たちは年明け10秒前のカウントダウンを始めた。


「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・ハッピーニューイヤー!!」


華「明けましておめでとう。」


勉「うん、今年もよろしく。」


勉の隣にいる兼備は甘酒を飲んでテンションがハイになっていた。兼備は勉のスマホを取り上げた。


勉「母さん!?」


兼備「あ~華ちゃ~ん~あけましておめれろ~」


華「え、呂律回ってないですが!」


勉は兼備からスマホを取り返すと華になぜ酔っているのか説明した。


勉「甘酒飲んでこのざまよ・・・・・・」


華「お酒でもないのに酔っているんだ・・・・・・」


勉「まあ酒粕だし酔う成分は入っているんだろう。」


華「勉は甘酒飲まないの?」


勉「僕、苦手なんだよ。一回飲んだら意識を失って・・・・・・」


華「分かった、勉お酒弱いんだ。」


勉は黙り込んだ。


華「ふふふ~勉の弱点一つ見つけちゃった~お土産にウイスキーボンボンのチョコレート買って帰るね~」


勉「おい!」


華はそのまま電話を切った。


勉「・・・・・・本当に買って帰ったら説教してやる。」


?「あれ、勉くん?」


遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると白の牡丹がデザインされている赤い振袖を着た三八と黒のダウンジャケットを着ている三八のおばあちゃんがいた。


勉「三八さん、それにお婆さま。明けましておめでとうございます。」


三八「うんおめでとう。」


三八婆「明けましておめでとうございます。」


3人は同時に頭を下げた。


勉「三八さんたちも初詣か?」


三八「うん、おじいちゃんは寒いから行かんって言ってたけどね。」


優斗「勉、誰と話しているんだ?」


勉「ああ、紹介するよ。こちら同じ双子沢生徒会会計の桃垣三八さんとお婆さま。」


三八「初めまして、桃垣三八です。」


優斗「初めまして、勉の父の真面野優斗です。」


三八婆「あなたは、もしかして真面野内科の院長さんですか?」


優斗「ああ、桃垣 栗子(ももがき くりこ)さん。お久しぶりです。」


勉「知り合い!?」

{同時に言う}

三八「内科!?」


三八「勉くんて病院の息子さんだったんだ。」


勉「あれ、言ってなかったっけ?(なんか華の時も同じくだりやったよな・・・・・・)」


三八「初めて聞いた!!」


栗子「そうですか真面野院長の息子さんだったんですね。」


三八「そうだ、これも何かの縁ですし一緒に初詣しましょうよ。」


勉「いいね、同じ列だしいっしょにやろう。」


優斗「私は後にするよ。兼備の介護に行かないといけないから。」


勉「そういえば甘酒で酔っていて今どこに行ったか分からなくなったな。」


優斗「そういうわけだから勉、先に行っててくれ。」


優斗は兼備を探しに行った。


三八「じゃあ私たちは先に行こうか。」


勉「だな。」


勉・三八・栗子の三人は賽銭箱前に着いた。3人は五円玉を入れ、合掌した。


降りているとき勉は三八に聞いた。


勉「何てお願いした。」


三八「それはね、勉くんよりカッコいい彼氏ができますようにって。」


勉「うっ・・・・・・そうか・・・・・・」


三八「いいよ、気にしないで。私も華ちゃんみたいに早く進みたいなと思ってね。」


勉「そうか・・・・・・叶うといいな。」


勉たちは店にあるおみくじを引きに行った。


勉「・・・・・・・・・・・・。」


三八「やった!大吉だ。」


勉「あの・・・・・・さ。」


三八「ん?」


勉「末吉っていいのか、それとも悪いのか?」


三八「確かに微妙よね・・・・・・」


勉「まあ今年は悪くてもいいか。大学受験は2年後だしその時まで運を貯めておこう。」


三八「そうね。」


三八のおみくじには「恋愛:好きになる人が現れるかも」と書いていた。


時は経ち1月8日。双子沢学園は新学期が始まった。教室にて、嬉しそうな顔をしながら寝待が勉に話しかけてきた。


寝待「よお真面野、あけましておめでとう。」


勉「ああ、果報。あけましておめでとう。」


寝待「なあなあ、今日登校中に百合根さん見てさ。もうテンション上がりまくりだよ!」


勉「ニコニコしているからそうだろうとは思ったよ。」


寝待「お前はどうだよ。」


勉「僕はいつも通りに今年1年頑張るだけだよ。」


寝待「お~い、忘れてないか? 彼女出来ないと卒業できないんだぞ。」


勉「・・・・・・分かっているよ。(そろそろ言わないといけないかもしれないかもな・・・・・・でも・・・・・・)」


勉たちが話していると一人の男子生徒が勉たちに話しかけてきた。その男子生徒はスポーツ刈りにつり目、ガタイのいいところから、まるでTHE野球男児のような人だった。


?「真面野、ちょっといいか?」


勉「ああ、別にいいけど。」


2人は教室を後にした。


寝待「珍しいな。真面野に話しかける人がいるなんて。」


勉とその男子学生は人気のいない場所に行った。


練磨「そういえばちゃんと話すのは初めてだよな。同じクラスの「急蒲練磨(いそかばれんま)」だ。部活は硬式野球部に所属している。」


勉「ああ、君が1年生ながらレギュラーを取って活躍している急蒲くんか。」


練磨「まあピッチャーだから登板がなければ補欠みたいなものだからな。」


勉「ところで話ってなんだ?」


練磨「うっす。お前確か生徒会役員だったよな。」


勉「その誰かに用があると。」


練磨「うっす。さすが学年トップ、話が早いな。桃垣三八さんっているよな。」


勉「ああ、三八さんのことか。」


練磨「じつは・・・・・・その・・・・・・お前に・・・・・・」


勉「何だ?」


練磨「真面野、お前に俺たちの恋のキューピットになってくれないか!?」


勉「は!?」


練磨「実は俺、入学初日から桃垣さんのことが好きになったんだ。まあ、ひとめぼれってやつだな。でも桃垣さんは男嫌いって噂だし、近づく事すらできない状況なんだ。そこで彼女が生徒会役員ということを知って、クラスに生徒会役員といえば真面野しかいないんだ。」


勉「なるほど。でも、成功するとは限らないぞ?それでもいいのか?」


練磨「うっす。もしそれでだめなら諦めはつくさ。だから頼む!」


勉「まあ、やってみるけど・・・・・・」


練磨「ありがとう真面野!」


練磨は勉の手を強く握った。


勉「イデデデデ!!」


練磨「あ、すまん・・・・・・」


練磨は勉の手を離した。勉は手の痛みを和らげながら。


勉「・・・・・・じゃあ何かあった時のことを考えて電話番号を交換しておくか。」


練磨「うっす。じゃあ俺から言うな。電話番号は・・・・・・・・・・・・」


こうして勉と錬磨は電話番号を交換した。


練磨「じゃあな、真面野。後のことは頼んだぞ。」


練磨は走りながら教室に戻った。


勉「・・・・・・つい勢いで受けちゃったけど、三八さん理解してくれるかな・・・・・・」


勉は昼休みに三八を呼び出した。


三八「勉くん。こんなところに呼び出してどうしたの?」


勉「ああ、ちょっと話があってな。実はお前のことを気になっているやつがいてさ。」


三八「え?」


勉「名前は急蒲練磨。硬式野球部に所属している1年生だ。」


三八「ああ、その子なら知っている。結構評判いいのよ。スポーツもできて頭もいいから。」


勉「へ~それは意外。」


三八「だってなかなか運動できる学生っていないでしょう?」


勉「だからさ、放課後会ってみるだけでいいからいいかな?」


三八「まあ、私はいいけど。」


勉「よかった・・・・・・じゃあ時間が分かり次第連絡するから。」


三八「うん。」


勉はそのあと、2人に時間と場所を教えた。

そして放課後、練磨は勉に言われた通り校舎裏にある小さな喫茶店の前で待っていた。


練磨「(ここで待ち合わせって真面野が言っていたけど本当に来てくれるのか?)」


数分後、三八が喫茶店の前にやってきた。


三八「えっと、急蒲くんってあなたですか?」


練磨「うっす・・・・・・って桃垣さん!?」


三八「ごめん、なんか驚かせてしまって。」


練磨「いえ・・・・・・その・・・・・・大丈夫っすよ!」


三八「あらためまして、桃垣三八です。生徒会役員をしています。」


練磨「急蒲練磨っす。硬式野球部に入っています。」


三八「その、ここで話すのもあれなので、中に入りませんか?」


練磨「うっす。では行きましょう・・・・・・」


練磨はぎこちない足取りで喫茶店に入った。一方勉と華は遠くの木の幹に隠れていた。


勉「急蒲たち、大丈夫かな・・・・・・」


華「勉、そんな遠くで見なくても・・・・・・」


勉「バレないように後をつけないと。」


華「なんか私たち探偵みたいな気分ね。」


喫茶店に着いた練磨と三八は席に座った。


ウエーター「ご注文は?」


三八「ブレンドコーヒーをお願いします。」


練磨「俺はオレンジジュースで。」


ウエーター「かしこまりました。」


三八「急蒲くんオレンジジュース飲むの?ここのおすすめ「自家製ブレンドコーヒー」なのに?」


練磨「お恥ずかしい話・・・・・・俺、コーヒー飲めないんすよ。」


三八「フフッ、意外ね、そんなところがあるなんて。」


練磨「(あれ、普通に喋れてる?男嫌いって嘘だったのか?)」


一方、勉と華は遠くの席で2人の様子で観察していた。


勉「ここだと2人の会話があまり聞こえないな・・・・・・」


華「このフルーツケーキおいし~」


勉「フルーツケーキ?」


華「ほら、勉も食べてみてよ。おいしいよ。」


勉はフォークを受け取るとケーキを口に運んだ。


勉「ん!? うまい・・・・・・」


華「でしょ~(あ、今のって、間接キス・・・・・・)」


そのころ、練磨と三八は世間話をしていた。


練磨「でも大変そうっすよね、生徒会って。」


三八「そんなことないですよ。ほかの役員たちが助けてくれますし、先輩も同級生もいい人ばかりなので。」


練磨「そうなんすね。俺の部活はレギュラー争いが激しくて、毎日大変なんすよ。」


三八「でも、そんな中でレギュラーになれているんですよね。すごいですよ。


練磨「でもピッチャーなので出れない時もありますけどね・・・・・・」


三八「いつか試合見に行ってもいいかな?」


練磨「うっす!もちろんですよ! そうだ、桃垣さんに聞きたいことがあるんですけど。」


三八「何かな?」


練磨「その、男嫌いっていう噂があったのですがあれって嘘だったのかなって・・・・・・」


三八「あぁ・・・・・・そういうことか。」


練磨「すんません! 急にそんなことを言われても困りますよね。」


三八「ううん。別にいいわ。男嫌いなのは本当のことだから。」


練磨「え!?」


三八「私、昔男性に暴力を振るわれてね。そのせいで男性のことが嫌いになったの。」


練磨「そんな・・・・・・女性に暴力をふるうなんて!絶対に許せない!」


三八「ありがとう、急蒲くん。でもね、今はもう怖くないの。急蒲くん優しいし君なら信頼できると思っているの。」


練磨「そんな、俺なんてまだまだひよっこで・・・・・・」


三八「そんなことないって、もっと自分に自信を持ちなさい。(あれ、このセリフ勉くんにも同じことを言っていたような・・・・・・)」


そんな話を続け・・・・・・2人は帰ることに。


三八「その、ごめんね。全部出してもらって。」


練磨「いいっすよ。じゃあまた明日。」


三八「うん。」


練磨は帰っていった。


練磨「告白はまだ早いよな・・・・・・」


三八「暗くなったわね。早く帰らないと。」


三八は誰かとぶつかった。


三八「痛っ!」


男性A「てめえ!どこ見て歩いているんだ!」


三八「ごめんなさい!」


男性B「君、よく見るとかわいいね。俺らと遊ばない?」


三八「あの・・・・・・私今急いでいて・・・・・・」


男性A「ぶつかっておいて詫びもなしかよ!」


三八「その・・・・・・あの・・・・・・{泣く}」


三八は恐怖のあまり足を震わせていた。


男性B「いいから一緒に行こうぜ。」


三八「(助けて・・・・・・急蒲くん!!)」


男性Bが三八の腕をつかもうとした瞬間。


男性B「イデデデ!」


男性の腕を思いっきり握った人がいた。


練磨「ハアハア、大丈夫かい桃垣さん!」


三八「急蒲くん・・・・・・」


男性A「てめえダチに何しやがる!」


男性は練磨に殴りかかったが練磨はつかんだ腕を放して男性の拳を受け止めた。そしてそのまま地面にたたきつけた。


男性A「痛で!」


練磨「これ以上この子に手出しをするな!」


男性B「やるのかてめぇ!」


練磨「{男性Bをにらみつける。}やるか?」


男性B「ひっ!」


男性A「にっ逃げろ~!」


男性2人組はどこかへ逃げて行った。


練磨「大丈夫すか?桃垣さんが絡まれていたところを見て飛び出してきました・・・・・・が!」


三八は練磨に抱きついた。


練磨「桃垣さん!?」


三八「怖かった・・・・・・怖かったよ・・・・・・」


練磨「そうすか。飛び出してきてよかったっす。」


三八「うん・・・・・・ありがとう・・・・・・」


練磨「あの・・・・・・桃垣さん・・・・・・そろそろ離してもらえませんすか。」


三八「?」


練磨「その・・・・・・当たってる・・・・・・」


三八「あ、ごめん!」


三八は慌てて離した。


練磨「(柔らかかった・・・・・・)」


三八「その・・・・・・いろいろと迷惑かけてごめんね。」


練磨「いや、別に俺は大丈夫っすよ。」


三八「ありがとう、やっぱり優しいね・・・・・・」


練磨「(・・・・・・今ならいけるか?)あの・・・・・・こんな状況で言うのもなんだけど。」


三八「どうしたの?」


練磨「俺と・・・・・・俺と・・・・・・付き合ってくれないか!?」


三八「え!?」


そのころ勉たちは会計を済ませ店を出た。


勉「しまった・・・・・・ケーキに夢中で2人のことを見失って・・・・・・」


華「あれ?」


三八「えっと・・・・・・その・・・・・・」


練磨「(しまった!つい勢いで告白してしまった! 状況を考えろよ俺!)」


三八「お、お願いします・・・・・・」


練磨「え!?」


三八は顔を赤らめながら


三八「同じことを何回も言わせないで・・・・・・」


練磨「いいのか、本当に?」


三八「うん・・・・・・」


勉「え? 告白!?」


華「おめでとう!」


練磨「え、真面野に百合根さん!?」


三八「2人ともいつの間に!?」


華「ごめん、後つけてきちゃった。{舌を出す}」


三八「そうだったの・・・・・・」


華「でもよかった、三八ちゃんも彼氏ができて」


練磨「も?」


勉・三八「な!」


華「あ・・・・・・ごめん。」


練磨「真面野、どういうことだ?」


勉「その・・・・・・まだ言ってないんだけど。」


勉は練磨に華と付き合っていることを話した。


練磨「なるほど、つまりこのことを話したらいろいろとややこしいことになるから他の奴には言ってないと。」


勉「ああ。」


練磨「分かったよ。他の奴には言わない。それにお前には感謝してんだよ。こうして桃垣さんと付き合うことができたのは真面野のおかげだって。」


三八「ごめんね、勉くん。臨海学校のことを全部急蒲くんに話しちゃって。」


勉「そうだったのか・・・・・・」


練磨「でもよかった。真面野にも彼女がいたと知って嬉しかったよ。」


勉「じゃあこれでキューピットは終わりだな。」


練磨「待て待て、まだ終わってないぞ。」


勉「え、まだあるの?」


練磨「これからはキューピットじゃなくて友達だろ?」


勉「友達・・・・・・つまり友人ってこと?」


練磨「そうだよ、これからよろしくな。勉。」


勉「・・・・・・よろしく。」


こうして練磨と三八は恋人同士になり、勉と錬磨は友達となった。


次の日。B組の教室では練磨と三八が付き合っているという話題で大騒ぎになった。


男子生徒たち「え~!」


寝待「急蒲、桃垣さんと付き合うことになったって!?」


練磨「まあな。」


男子生徒A「何で急蒲が・・・・・・」


男子生徒B「桃垣さん狙っていたのに・・・・・・」


寝待「いったいどうやって付き合いだしたんだよ?」


練磨「それは。 キューピットのおかげかな?」


寝待「キューピット?」


勉「くしゅん!」


勉はトイレで一人くしゃみをしていた。


第19話(完)

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