2年生編第7話(第32話)「運命の野球対決」

スポーツ大会当日。全生徒が体育館での開会式が終了し、野球を選んだ勉たちは野球グラウンドにいた。


勉「ラスト1球。」


勉はキャッチャーマスクを被り、グラブを前に構えた。


練磨「うっす。」


練磨は振りかぶって決め球の横の高速スライダーを投げた。球は勉の構えたグラブに入った。それを見ていた野球部部員で同じクラスの「快刀 乱麻「かいとう らんま」」がその様子を見ていた。


乱麻「まさか練磨の決め球を取れるほどになるとは。」


練磨「こいつは特別だよ。普通だと何カ月かかかるって。」


乱麻「真面野って一体何者なんだ?」


練磨「いい意味で石頭かな?」


乱麻「石頭って悪口にしか聞こえないが・・・・・・」


練磨「いい意味って言っただろ。あいつは真面目過ぎるけどちゃんと筋の通った回答をしているからな。」


勉はキャッチャーマスクを外しながら練磨たちのもとへ向かった。


勉「ピッチングは問題なさそうだな。」


練磨「うっす、これなら本番でも全開で投げられる。」


乱麻「2人とも、たかがスポーツ大会で本気になりすぎているだろう?」


?「そうだぞ、公式試合じゃないんだからもっと楽しまないと」


練磨と乱麻の背後から女性の声が聞こえた。


練磨・乱麻「ぎゃあ!!」


勉「あ、三八さん。」


勉はちょうど真正面なので三八の姿は見えていた。


練磨「三八、驚かすなよ・・・・・・」


三八「ゴメンね2人とも。ちょっと勉くん借りていくね。」


三八は勉の手を掴んで人気の少ないところに移動した。


勉「どうした?こんなところで。バドミントンは第2体育館だろう?」


三八「えっと、華ちゃんから伝言を任されていたの。」


勉「華から?」


三八「うん。「勉、賭けのことは気にしないで思いっきり楽しんで。私たちも優勝目指して楽しんで頑張るから」って。」


勉「華・・・・・・」


華は勉に自分のことを気にせずチームメイトと楽しんでプレイしようという言葉を三八に伝えていたのであった。


勉「でも、やはり洗井に勝たなければ華はまたいじめに遭うことになる。勝たなくてはいけない気持ちは変わらないよ。」


三八「そっか・・・・・・」


勉「まあ、華の言葉のおかげで少し緊張が取れたよ。伝達ありがとう、三八さん。」


三八「うん。あ、そろそろ時間だ。じゃあね。時間があったら私たちの試合見に来てよね。」


勉「がんばれよ。」


三八は体育館に向かって速足で向かっていった。勉も野球グラウンドに戻り、2年B組キャプテンの乱麻に打順とポジションを伝えられた。


勉「僕が2番?」


乱麻「そう、前に練習でバントのやり方を練磨に教えてもらっただろう。真面野はそのバントを使って1塁ランナーを次のベースに進めるのが仕事だ。」


勉「そんな重要な仕事僕に任せても大丈夫か?」


乱麻「そうすればチャンスになるし、次の俺か練磨でヒットを打てば1点を取れるって作戦よ。」


勉「そうか、やってみるよ。」


こうして野球大会が始まった。対戦形式はトーナメント方式の3イニング制。9組参加し、血潮たちのいる1年F組は別ブロックにいた。直接対決になるには決勝まで行かなくてはならない。


練磨「俺たちはシードか。まあ経験者が多いからしょうがないか。」


勉「1年F組は1回戦からか。もし負けたらこの賭けは勝ちになるけど。」


練磨「時間もあるし、三八たちのいる体育館に行ってみるか。」


勉「そうだな、三八さんたちも今頃試合しているだろうし。」


2人が彼女を応援するために第二体育館に向かおうとした時、乱麻に呼び止められた。


乱麻「おーい、俺も体育館に行くよ。」


勉「いいけど誰かの応援に行くのか?」


乱麻「バドミントンに百合根さんが出ているからその応援だよ。それに、練磨の彼女である桃垣さんもな。」


勉「その言い方、三八さんはおまけみたいな言い方だな。」


練磨「実はな、乱麻も三八のことが好きだったんだよ。でも俺に取られたから・・・・・・」


乱麻「情けは無用だ!悔しくなんかないもんね!」


勉「(快刀・・・・・・ドンマイ・・・・・・)」


勉は心の中で謝罪した。勉が三八とくっつけたので少し申し訳なさがあったのだった。


第二体育館では女子のバドミントンの試合が行われていた。応援席には華と三八の応援団で埋め尽くされていた。


勉「すごい数の観客だな。」


練磨「みんな百合根さん目的で来ているんだろう。」


勉「三八さん。プレッシャー感じていなければいいけど。」


練磨「それは大丈夫だろ。2人とも頑張ってきたんだ。プレッシャーなんて跳ね返せるよ。」


こうして、はなみコンビの試合が始まった。最初のサーブは華からだった。


華「えい!」


サーブは相手コートに入った。鋭いサーブが相手選手のラケットに当たり、山なりのシャトルが帰ってきた。


華「三八ちゃんお願い!」


三八「OK、任せて。」


三八はシャトルに向かってジャンピングスマッシュを放った。相手選手が気づいたころにはシャトルはコートに落ちていた。


華「ナイス!」


三八「まず一点!」


応援席からざわめきが起こった。


男子生徒A「桃垣さんすごいな。」


男子生徒B「俺、ジャンピングスマッシュ生で見るの初めてだよ。」


乱麻「桃垣さんあそこまで運動神経よかったのか・・・・・・」


練磨「もともと運動神経いい方だし、左利きだからスマッシュを打つまでラケットが見えないから反応するまで時間がかかるからな。」


勉「これも練習の成果だよね。」


次は華が山なりに帰ってきたシャトルをスマッシュで返そうとラケットを振りかぶった。が、それはフェイクで相手コートギリギリに入るように軽く返した。スマッシュが来ると思った相手チームは前に滑り込んだが間に合わなかった。


乱麻「今のはフェイント!?」


勉「(上手い!)」


今度は応援席から大歓声が起こった。


男子生徒A「ナイスプレー!」


男子生徒B「百合根さんいいぞー!」


その後も2人のプレーが光り、無事に1ゲーム目を取った。


勉「2ゲーム目もこの調子ならいけそうだな。」


勉の予言通り2ゲーム目も絶好調のままでストレート勝ちを収めた。


勉「いい試合だったね。このままいけば上位の成績までいけるんじゃないか?」


勉たちは次の野球の試合に向けてグラウンドに戻ろうとした時、第一体育館から寝待が出てきた。


勉「あれ、寝待。体育館にいたんだ。」


寝待「え・・・・・・あぁ、同じ部活の子がバスケしててな、その応援に。」


勉「そうか。」


練磨「女子バレーの方はどうだった。」


すると寝待は即答で


寝待「あっちの方はストレートで勝ったよ。」


乱麻「饒舌だな。もしかして目的は女子バレーの方じゃないのか?」


寝待「そうじゃないからな!」


乱麻「そこまでムキにならなくてもいいじゃないか、冗談なのに・・・・・・。」


そんな話をしながら4人は野球場グラウンドに向かった。するとグラウンドではざわめきが。


乱麻「何があったんだ?」


男子生徒A「何もかんもないよ!1年F組のピッチャーがとんでもない剛速球投げているんだよ!」


勉「F組って洗井のいるチームだよな。」


男子生徒A「そう、その洗井ってピッチャーだよ!」


勉たちは試合を見に行った。3年D組対1年F組の試合は0対4でF組がリードしていた。マウンドで投げていたのは洗井血潮だった。


練磨「今のところストレートしか投げていないけどここから見ても速い。打席に立つともっと速く感じるかも。」


勉「練磨と同じストレートで押し切るタイプのピッチャーか。」


乱麻「攻略するのは難しいぞこれは・・・・・・」


試合が終わり1年F組が準々決勝に進出した。次の2年B組はこの試合に負ければ引き分けになるが、恐らく向こうは決勝まで行きそうなので負けるわけにはいかない。

次の試合はシードの2年B組対1回戦を勝ち抜いた2年F組となった。

整列、礼をして、後攻のB組が各守備についた。


審判「プレイボール!」


勉はストレートのサインを出して少し高めにミットを構えた。


練磨「{頷く}うっす。」


練磨は振りかぶって投げた。練磨の剛速球が勉の指示通りミットに収まった。


審判「ストライク!」


打者「・・・・・・・・・・・・。」


打者はあまりの速さに目がキョトンとしていた。


その後、練磨は全球ストレートで3人を打ち取った。


攻守交代。B組の1番は陸上部の生徒。投げた球がバットに当たりセンター前に落ちた。ノーアウト1塁でバッターは勉。


乱麻「頼んだぞ。」


勉「任せて。」


勉が右打席に入った。相手投手が投げようとした瞬間勉はバントの構えをした。


相手投手と捕手「!!」


ボールはバットに当たりライン上をコロコロと転がった。サードの選手は


サードの選手「これはファールだ。ラインから出る!」


しかしボールはライン上でピタリと止まった。


サードの選手「ここで止まるのか!?」


サードの選手が慌ててボールを取りファーストに投げようとするも勉はすでにベースを踏んでいた。


3番はキャプテンの乱麻。練磨と同じく1年生からファーストとしてレギュラーで活躍している彼はもちろん初心者の球などすぐにホームランになった。


B組の生徒「おー!!」


練磨「さすが主砲。」


乱麻の先制のスリーランホームランを決め、その後この3点を守り抜き、準決勝へとコマを進めた。


寝待「楽勝だったな。俺、ライトだったけど全然球来なかったよ。」


乱麻「ほとんどの球は内野手の奴らで処理できたし、意外に運動できる生徒が多くて助かるよ。それに真面野がキャッチャーをやることによって練磨がピッチャーできることができたから。」


勉「僕は優勝するために力を貸しているだけだよ。」


乱麻「真面野ってこんな性格だっけ?」


寝待「でも負けず嫌いなところはあるかもな。」


勉「確かに負けるのは嫌いかもな。」


寝待「この調子で準決勝も勝っていこうぜ!」


練磨「うっす。勉、次の試合は横スラ使うか。」


勉「う~ん。おそらく次は3年B組だと思うけどスライダーは使わないでおこう。」


練磨「何でだ?」


勉「まだ投げる場面ではないと思ってな。」


練磨「うっす、お前がそういうなら信頼するよ。」


乱麻「ほんとうにお前らバッテリーみたいだな・・・・・・」


勉たちは休憩も兼ねて今度はテニスコートで応援に行くことに。


メアリー「勉くん~!応援に来てくれてありがとうデ~ス。」


勉「うん、試合頑張ってね。」


メアリー「OK!」


乱麻「アイツは?」


練磨「去年の10月に転入してきた障司メアリーさんだ。」


乱麻「ああ、噂の転入生か。」


勉「見に行くけど万が一ラケットが飛んできたら避けてくれよ。」


練磨「ラ、ラケットが飛んでくる?」


乱麻「まさか、そんな漫画みたいな話あるわけが・・・・・・」


そんな話をしている最中・・・・・・スマッシュを打ったメアリーが


メアリー「あ、ラケットが!」


勉の予言通りラケットが乱麻めがけて飛んできた。


勉「快刀、危ない!!」


しかし、乱麻は顔色一つ変えずに左手でラケットをキャッチした。


メアリー「すみませ~ん、ケガしてませんデスか?」


乱麻「俺は大丈夫。しっかりグリップを握りしめていたほうがいいぞ。」


乱麻はラケットをメアリーに返した。


練磨「さすがファースト、反応が早い。」


勉「ケガは大丈夫?」


乱麻「大丈夫。こんなことでケガするほどやわな体じゃねえよ。」


テニスの結果はパートナーのミミのサポートがあり何とか勝利することができた。勝利してはしゃぐメアリーたちを見た勉たちは野球場に戻ろうとしたが。


勉「ごめん、僕お手洗い行ってくるから先に戻って。」


練磨「うっす、先行ってるわ。」


勉はトイレ・・・・・・ではなく学校の裏側の人気のないところにやってきた。


華「あ、ごめん遅くなっちゃった。」


華が遅れてやってきた。


勉「いいよ。僕も今来たところだから。」


勉たちは10時ごろにここに集合しようと約束をしていたのだ。


華「私たちベスト16までいったよ。次、準々決勝戦なんだ。」


勉「すごいな、最初は2人とも初心者だったのに。」


華「これも勉たちの特訓の成果だね。」


勉「僕は練習を手伝っただけだよ。これは2人の努力の証だよ。」


華「勉たちはどうなったの?」


勉「次が準決勝。勝てば次はおそらく洗井のいるF組とあたると思う。」


華「そっか・・・・・・頑張ってね。」


笑顔でコールをしていたが腕が少し震えているのが見える。


勉「(三八さんにはあんなこと言っていたけど、やっぱり昔のトラウマが蘇ってくるんだな。)」


勉は震える華の両手をギュっと握った。


華「!?」


勉「大丈夫、華は自分のことだけに集中してくれ。洗井との試合は必ず勝ってみせる。あいつのすきにはさせない。彼氏としてな!」


華「勉・・・・・・。」


華の目から涙がこぼれていた。


華「うん。私、信じているから!」


華は涙をハンカチで拭いて気持ちを切り替え、体育館に戻っていった。


勉「さて、僕も戻るとするk・・・・・・」


?「そうか、お前が百合根の彼氏だったのか。」


突然の声に勉は声のした方に目線を向け険しい表情をした。


勉「盗み聞きしていたとはな・・・・・・洗井。」


血潮は勉の前に姿を現した。


血潮「盗み聞きとは人聞きが悪いな。でも、これで次の試合ますます負けるわけにはいかなくなったな。」


勉「くっ、この事をバラすつもりか・・・・・・」


血潮「さ~て、次の試合勝ってあんたらをボコボコにしてやる。完膚なきまでにな!!」


血潮はそう言い残し静かに去っていった。


勉「(ますます負けられないか。こっちだって同じだ。)」


準決勝戦は両チームのエースの活躍もあり決勝は2年B組対1年F組との試合となった。


両チーム「お願いします!!」


じゃんけんの結果勉たちは後攻となった。

練磨はいつも通りストレート1本で相手打者を3人でアウトにした。


勉「ナイスボール!」


練磨「うっす。」


後攻、相手のピッチャーは血潮。振りかぶって投げるとするどいスピードでキャッチャーミットに吸い込まれた。


練磨「心なしか前より球速くなってないか?」


乱麻「確かに、まるで憎しみというか嫉妬がこもっているような。」


2人の言った通り、剛速球は前よりも速くなっており1番打者を三振にした。


勉「(打てるか分からないけどやってみるか。)」


次の打者である勉が右打席に立つとサードとファーストが前かがみになった。


勉「(やっぱりバント警戒か・・・・・・)」


勉は今までの打撃成績はすべてバント。準決勝ではそれを逆手にとってプッシュバントをして相手のエラーを誘ったりしていたがそれも対策済みでベースの近くで構えていた。


洗井「悪いがこれ以上お前のペースに合わせるわけにはいかないからな。」


血潮は振りかぶって投げた。勉は一か八かとバットをスイングしたがタイミングが合わずに空振りをした。


勉「(練磨より球が速い!)」


2球目も同じくストレートで空振りをした。


勉「(当たらない。タイミングが掴めない!)」


タイミングがつかめず3球目はバントをしたものの球が球威におされ後ろに反れ、バント失敗。勉はアウトになった。


乱麻「どんな球だった。」


勉「分からない。まるで球が暴れているような感じがする。」


練磨「まさかムービングボール?」


寝待「なんだそりゃ?」


乱麻「球が揺れるように飛んでくるボールで打ちにくくなる。それに球速もあるからバットに当たるかもわからない。」


寝待「完全に魔球じゃねえか!」


次の打者の乱麻は辛うじてバットに当てたものショートフライに終わった。


勉「経験者でも打てないか・・・・・・」


練磨「これは・・・・・・1点も取らせるわけにはいかないな・・・・・・」


勉「投手戦になるかもな・・・・・・よし、スライダー解禁しよう。この試合勝つためにもな。」


練磨「うっす。頼むぜ、相棒。」


2回表、バッターは血潮。


勉「(まずは外側にストレート)」


練磨「うっす。」


練磨はコース通りアウトコースのストレートを投げた。しかし血潮はそれを打ち返した。


練磨・勉「!!」


しかし球は反れてファールとなった。


勉「(今のボール球をフェンス越えさせるとは・・・・・・)」


勉は今度は低めにボールを投げるようサインをした。今度は冷静に見送られボールとなった。


勉「(やみくもに打ってはこないか。その方がやりやすいが・・・・・・)」


勉はもう一度低めにサインを出した。今度はストライクゾーンに入るように。


血潮「(もらった!)」


血潮はその球を流すように打った。球は寝待のいるライトの方に向かった。


寝待「よし、ボールをよく見て・・・・・・」


しかし、ちょうど太陽の光とボールが同化し、眩しくボールは手前にポトンと落ちた。


セカンドの選手「果報、こっちにボールを投げてこい!!」


寝待は急いでボールを拾ってセカンドに返したが、血潮はすでに2塁のベースを踏んでいた。


寝待「悪い!俺のせいで」


練磨「どんまい、今のは仕方ない。」


勉「(でも、ストライクを狙った球をライトまで飛ばすなんて力があるんだな。)」


次のバッターはバントの構えをした。


勉「(簡単にバントはさせないぞ。)」


勉はわざとボールにするウエストを指示した。しかし、その時2塁の血潮が3塁ベースに向かって走り出した。


勉「嘘だろ!」


勉が慌てて取った球をサードに投げたが球が大きく反れて暴投をしてしまった。


勉「しまった!」


すぐさまレフトの選手がボールを取りホームベースに向かって投げたが血潮がホームに帰りF組が先制点となった。


勉「(クソっ、僕の送球ミスのせいで1点取られてしまった。)」


練磨「落ち込むんじゃねえ!!」


勉「!!」


練磨の怒号に勉はうつむいた顔をマウンドに見直した。


練磨「まだ1点だ。いつでも逆転できる!」


勉「そうだ、まだ負けたわけじゃない!」


練磨はここからは決め球のスライダーを使い三振に取った。


F組バッター「何だ今のスライダー・・・・・・」


2回表は味方のエラーもあったが9番バッターで何とか交代することとなった。


練磨「一時はどうなるかと思ったけど何とか1点で抑えられて良かったな。」


勉「洗井だけじゃない。F組は運動神経がいいやつが多い。練磨の球をここまで打たれるとはな。」


何とか1点をと次のバッターの練磨はセンター前のヒットを打つことができた。


乱麻「いいぞ、このまま続け!」


しかし、後続が3人連続三振でこの回も無得点で終わった。


B組の選手たち「・・・・・・・・・・・・。」


B組の雰囲気は重苦しくなっていた。


そして華たちはというと


華「惜しかったね・・・・・・」


三八「結構接戦だったから余計に悔しいわね。」


準決勝で惜しくも敗退。試合を終えた2人は勉たちの応援のために野球場に向かっていた。


華・三八「!?」


重苦しい雰囲気のB組のベンチを目にした。三八が様子を見にベンチに向かった。


三八「みんなどうしたの?」


練磨「あ、三八か。今負けそうな状況でテンションが下がってんだ。」


三八「そう、私たちも試合終わってB組の応援に来たんだけど。」


B組生徒A「私たちってもしかして百合根さんもいるのか!?」


三八「うん、華も全力で応援するから頑張ってねって。」


三八の一言でB組のやる気のボルテージがMAXになった。


B組の選手たち「うお~!!やるぞ~!」


そんなテンションの上がったメンバーの後ろで勉たちは


勉「三八さん、雰囲気を変えてあげてありがとう。」


三八「うん。でも、勉くんも負けられない試合なんでしょう?彼女の前で恥ずかしいところ見せられないよね。」


勉「分かった。気持ちを切り替えるよ。」


練磨「おいおい、俺には何もなしかよ!」


三八「う~ん。そうね・・・・・・」


三八は練磨からボールを取ると目を閉じ、両手でグッとボールを握った。


三八「はい、ボールに気を入れたから。これで負けたら許さないからね♥」


練磨「・・・・・・う・・・・・・うっす。」


B組生徒A「クソー!羨ましいぞ急蒲!!」


B組生徒B「こんなところでいちゃつきやがって!」


練磨「なんで俺だけこんなに当たりが強いんだよ!」


勉「モテる男はつらいな」


練磨「味方が誰もいない!!」


こうして気持ちを切り替えたB組は守備についた。


華「みんな~頑張って~」


B組の選手たち「ウオー!」


F組のバッター「なんだ、この熱気は」


練磨は剛速球を駆使して2人を連続三振にした。次のバッターはフォアボールになり、血潮がバッターボックスに立った。


血潮「これで終わりにしてやる。」


勉「それはどうかな。今の練磨は誰にも止められないと思うぞ。」


血潮「なに?」


勉はど真ん中に投げるようにミットを構えた。


練磨は振りかぶって投げた。


血潮「(ど真ん中、もらったぜ!)」


しかし、その球はバットをかすり勉のミットに収まった。


血潮「!!」


2球目も同じど真ん中のストレート。分かっていても球は同じく空振りをした。


血潮「(嘘だろ、同じコース同じストレートなのに!?)」


3球目、練磨が振りかぶってボールを投げた。またしてもど真ん中の球だった。


血潮「(同じ球に何度も空振りしてたまるかよ!)」


しかし、その球は打ちにいく瞬間、反対方向に曲がっていった。


血潮「(ストレートと見せかけての、スライダー・・・・・・!!)」


血潮を見事三振にした。


練磨「しゃあ!!!」


三振にした瞬間練磨は渾身のガッツポーズをした。


血潮「クソが!!」


血潮はバットを地面にたたきつけ悔しさを表した。


血潮「でも、この回無得点で終わらせれば俺の勝ちだ。」


血潮は勉を睨み付けながらF組のベンチに戻って行った。


勉「(そうだ、1点取らないと賭けは僕の負けになる。)」


3回裏、8番バッターは空振り三振に終わった。9番バッターは寝待だった。


寝待「くっ、このままアイツの好き勝手させるかよ。」


勉「頼むぞ、寝待。」


寝待「でもぶっちゃけあの球どうやって打てばいいか分からないけど。」


乱麻「なら、こうするか。」


乱麻は寝待に耳打ちをした。


寝待「・・・・・・そんなことでいいのか?」


寝待は右打ちにも関わらず左打席に立った。


血潮「(コイツ、スイッチヒッターか? でも左だからって打てるわけねえだろ!!)」


寝待は血潮が振りかぶった瞬間バントの構えをした。


血潮「(ここでセーフティバント!!)」


寝待はボールをバットに当てて転がした。しかし、サードの選手の球の処理が早くこのままではアウトになってしまう。


練磨「果報、走れ!!」


寝待は全速力で1塁ベースまで走る。


寝待「くそ、間に合え~!!!」


寝待はベースに飛び込むようにヘッドスライディングをした。


乱麻「どうだ・・・・・・?左打席だと少し塁に近くなるからワンチャンスあると思うが・・・・・・?」


判定は・・・・・・セーフだった。


寝待「ペッペッ!砂が口に入った。」


寝待は泥まみれになりながらなんとかヒットを打った。


乱麻「よし、同点のランナーが出たぞ!」


血潮「ちっ、まあいい。逆にこの方が俺にとっては好都合だぜ!!」


血潮は変わらぬ剛速球で1番打者を三振にした。


勉「この場面で僕がバッターは僕か・・・・・・」


練磨「何とか乱麻まで繋いでくれ。」


勉「分かった。僕はフォアボールか最悪デッドボールで進塁させるよ。」


勉は右打席に立った。


血潮「お前が最後の打者だ。」


勉「悪いが、最後になるわけにはいかない。勝たなくちゃならないからな。」


血潮「外野!前進守備だ!!」


血潮の一言で守備は完全は前進守備になった。


勉「(これじゃあバントもヒットも打てない。完全に僕で終わらせようとしているな)」


勉はバットを構えた。第1球、ストレートはキャッチャーミットに入ってストライクとなった。


勉「(また前より速くなってないか!?)」


勉は今度はわざとデッドボールになろうとして血潮が投げる瞬間、左足をキャッチャーミットの近くに動かした。


乱麻「ダメだ!ストライクに当たってもデッドボールにはならないぞ!」


勉「何!?」


勉はすぐさまスイングに戻したが、バランスを崩してしりもちをついてしまった。


勉「イテテテ・・・・・・」


B組の選手B「真面野、あと1球で終わりだぞ!」


血潮「これで、お前の人生は終わりだ!!」


血潮の渾身の1球はものすごい勢いで迫ってきた。


勉「なら、これでどうだ!」


勉はボールに当てたが後ろに反れた。ファールだ。


血潮「悪運の強いやつだ。だけど追い込まれていることに変わりはない!」


この対決は数十球も続いた。血潮が鋭い真っ直ぐを投げ、勉がそれをカット打ちでファールを繰り返した。しかも少しずつタイミングも合ってきた。


血潮「ハアハアハアハア・・・・・・」


勉「ハア・・・・・・ハア・・・・・・まだまだ・・・・・・」


乱麻「今何球目だ?」


練磨「もう数えてないぞ・・・・・・」


血潮が投げようとした時、1塁にいた寝待が盗塁をし始めた。それに動揺した血潮は山なりの甘い球を投げてしまった。


血潮「しまっ!!」


勉「この球なら・・・・・・打てる。」


B組の選手たち「いっけ~!!」


思わず華も大声で


華「勉!!打て~!!!」


勉が甘い球をジャストミートした。ボールはそのまま柵を超えて草むらに入っていった。


勉「入った・・・・・・」


練磨「逆転サヨナラホームラン・・・・・・」


B組のベンチから歓喜の声が上がった。


華・三八「勝った~!!」


華と三八は手をつないでぴょんぴょんしながら喜びを爆発させていた。

勉がホームベースに帰るとB組の選手たちで胴上げが行われた。


血潮「クソが!!!」


血潮は悔しさのあまりグローブを地面にたたきつけた。


血潮「ぜってぇ諦めないからな・・・・・・。」


血潮の目線は胴上げされて戸惑っている勉に目を向いていた。


第32話(完)

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