2年生編第10話(第35話)「二人の決断」

無事に期末試験を終えて、今日から夏休み。華は行きつけの美容院に行っている。お店に入るなり40代の女店員が迎えてくれた。


店員「あら、華ちゃんいらっしゃい。」


華「こんにちは。」


華を散髪専用の椅子に座らせた。


店員「今日もいつもどおりの長さでいいかしら」


華「あの、お願いしたいことがあるのですが。」


店員「どうぞ、華ちゃんの頼みなら何でも聞いてあげるわ。」


華「では・・・・・・」


数時間後、鳥取市内のカラオケ店前で華を待っている勉。


華「お待たせ~」


華はいつもの通り伊達眼鏡とショートボブのウィッグで変装している。


勉「時間ぴったりだな。よし入ろう。」


勉たちは受付を済ませて個室に入っていった。


勉「僕、カラオケボックス入るの初めてなんだ。」


華「そうなのか~」


勉「カラオケに行こうと言い出したのは華だよな。」


華「実はさ、本当の目的は歌うことじゃないの。」


勉「え、カラオケって歌う目的じゃないの?」


華「本当は、これを見てほしかったの・・・・・・」


そういうと華は、眼鏡を外してウィッグとネットを取り始めた。


勉「華!?」


ウィッグを外すと。ショートヘアの髪が現れた。


華「どう、似合うかな?」


勉「華・・・・・・お前・・・・・・ ・・・・・・2個目のウィッグを買ったのか?」


華「・・・・・・・・・・・・。」


華はマイクを取り、ボリュームを少し上げると思い切り息を吸い込んで・・・・・・


華「違~~う!!」


勉「止めて!ごめんなさい!」


華はボリュームを下げた。


華「髪をショートヘアにしてもらったの!」


華はマイクを置いた。


華「分かった?だからカラオケボックスにしたの。」


勉「(耳がジンジンする・・・・・・)そうか、ほかのところだとバレる可能性があるからか・・・・・・」


華は再びウィッグを被った。


華「はい、報告終わり。じゃあまず私から歌うね!」


華は曲を機械に読み込むと歌いだした。


華「ありがとう~!」


勉「歌うまいな~」


華「はい、次は勉の番ね。」


勉「僕、結構音痴だぞ。」


華「そうなんだ~{棒}(とか言っちゃって、本当は得意なんでしょう?)」


勉「そうだな、合唱曲の「翼をください」で・・・・・・」


勉が歌いだした。 数分後・・・・・・・・・・・・店側のテレフォンが鳴った。


店員「はい、どうなさいましたか?」


華「あ・・・・・・あの・・・・・・助け・・・・・・{倒れる}」


勉「あれ、華どうした? え、点数判定できていない!?」


華「(音痴・・・・・・コワイ・・・・・・)」


この曲を最後に2人はカラオケ店を後にした。


勉「大丈夫か、顔色が悪いけど。」


華「うん、もう平気・・・・・・(まだ耳がジンジンする・・・・・・)」


勉「そうか、じゃあ次はどこ行こうか。」


華「いつにもなく張り切っているわね。」


勉「だって、去年の夏休みは勉強だったりトラブルだったりで遊んでないだろう。来年は大学受験で大変だろうし、だから今年はとことん遊ぼうって思ってさ。」


華「そうだね。じゃあデパートで買い物でもしない?」


勉「よし、行こう!」


2人はデパートに向かった。しかし、中に入るや否や知り合いを見つけてしまう。


華「あれ、トイレ前にいるのって果報くんだよね。」


勉「本当だ、今日はバイト休みなんだな。」


華「1人で買い物かな?」


次の瞬間。トイレから出てきた女性が寝待に向かってきた。


勉「え!?あの子って・・・・・・」


華「団ちゃん!?」


その後、寝待と団子は向こうの服屋に向かった。


勉「そういえば最近果報のやつ部活休みの時は真っ先に教室を出ていくよな。」


華「団ちゃんも一緒に帰ることがあまり無くなったような。」


勉と華は2人が入った店に向かった。


一方そのころ寝待と団子のペアは。


団子「ねえねえ、どっちの服が好みかな~?」


寝待「青と赤だと俺は青のほうが落ち着いていいと思うぞ。」


団子「ふ~ん、葛藤くんは落ち着いているほうが好きなんだ~」


寝待「あのさ、いつも思うけどもうこういう風に会ってもう2ヵ月ほど経つけどいつ名前を覚えるんだよ!」


団子「じゃあ私着替えてくるから」


寝待「おい逃げるな!」


団子はフィッティングルームに入っていった。


寝待「もう・・・・・・(なんだかんだで、花寄さんとは趣味が合っていたし一緒にいて楽しいけど、花寄さんは俺のことをどう思っているのか・・・・・・俺のことを友達って思っているのかな?)」


団子「着替えたよ~どうかな?」


団子はカーテンを開けて選んでもらった青のTシャツを着ていた。


寝待「おっおう・・・・・・似合っているんじゃないかな・・・・・・」


団子「それだけ?」


寝待「うん。」


団子「ふ~ん・・・・・・。」


団子はその場で服を脱ごうとした。


寝待「ちょっと待て!何してんの?」


団子「買わないから返そうとしただけだけど。」


寝待「頼むフィッティングルームで着替えろ!」


団子「は~い。{フィッティングルームに入る}」


寝待「(何だよ・・・・・・)」


遠くで2人の様子を見ていた勉と華は。


勉「今、団ちゃん脱ごうとしていたな・・・・・・」


華「でも、何か団ちゃん不満そうな顔していなかった?」


勉「そうだった?」


華「はぁ・・・・・・まだまだだね。」


勉「え、ため息!?」


華「ほら、2人が別のところへ行くよ。」


勉「(何だろう、髪を切ったせいか性格までサバサバしているような・・・・・・)」


再び寝待・団子組。


団子「次どこ行こうかな~?」


寝待「そうだな・・・・・・」


団子「さっきから反応が悪いけど、なんか考え事してる?」


寝待「え、いやいや全然そんなことないって!」


団子「そう?あ~!あんなところにジェラートの店がある!」


団子の指さす方角にはフードコートに新しくできたジェラートの店があった。


団子「私、ずんだ味食べたいな~」


寝待「分かった、俺買ってくるよ。」


団子「加藤くんもなんか買ってくれば?」


寝待「はいはい分かりました。」


いつもの名前間違えをスルーし寝待はジェラートの店に向かった。


寝待「あの、ずんだ味とラムレーズン味を1つずつお願いします。」


店員「はい、かしこまりました。」


それから数分後。ジェラートが出来上がった。


店員「お待たせしました。」


寝待はジェラートを受け取ると団子のいる席に戻った。


寝待「ほい、ずんだ味。」


団子「ありがと~」


寝待「それにしてもずいぶん変わり種を頼んだな。」


団子「いいもんね~私こういう和風の味好きなんだもん。」


団子はずんだ味のジェラートをスプーンですくって食べた。


団子「おいし~」


寝待はジェラートにはまったく口をつけずぼ~っと天井を見ている。


団子「(む、またぼ~っとしている)」


寝待「(今まで全然考えていなかったけど何で花寄さんは俺なんかと一緒にいるんだろうか?彼女みたいな人気な子が俺みたいなやつと一緒にいて大丈夫なんだろうか。でも、俺も勉みたいに百合根さんと付き合えたみたいな感じだったし花寄さんも俺のことが・・・・・・それはないか。今まで女にモテずに終わっている俺が・・・・・・)」


団子「・・・・・・くん。」


寝待はようやくジェラートを口に運んだ。


寝待「(そういえば・・・・・・俺何で双子沢に行こうとしたんだっけ?)」


それは中学3年の時のこと・・・・・・


寝待「進路どうしようかな?」


友達A「俺は桜月高校に行くぜ。家に近いし公立だから金もかからないぜ。」


寝待「そうだな、じゃあ俺もそうするか!」


寝待が第1志望を書こうとしたら。


勉「あの、そこどいてくれないか。」


寝待「あっ、ごめん。(この眼鏡・・・・・・確か同じクラスの真面野だったよな。常にクラス1位の秀才。でも、表情が死んでまるでロボットみたいな男だな)」


友達B「確かアイツ、双子沢学園に行くらしいぞ。」


友達C「まあ、がり勉のアイツにはお似合いの高校だろうな。」


寝待「双子沢学園って難関高だっけ?」


友達A「そ、偏差値70ほどの難問校だよ。でもあそこの女子生徒がかわいい子が多いんだよ。まあ、外の生徒は手出し無用だけどな。」


寝待「へぇ・・・・・・ ・・・・・・俺、受けてみようかな。」


友達A「いや無理だろ!」


友達B「俺たちが勉強したところで受かりっこないだろ!」


寝待「でもさ、0%ってわけじゃないだろう。だったら俺は挑戦するよ!万が一落ちてもすべり止めで桜月受ければいいだけだしね。」


寝待「(そうだよな、それで1年間塾や家で勉強頑張って合格したんだよな。あの時の気持ちすっかり忘れていたな。)」


団子「ねえ、果報くん!」


寝待「はい!?」


団子「もう、さっきから呼んでいるのにどうしたの?」


寝待「わりぃ。呼んだ理由は?」


団子「なんか勉くんみたいな感じになってない?喋り方といいしぐさといい。」


その頃、離れた席でその話をジェラート食べながら話を聞いていた勉と華。{ちなみに勉はゆず味。華は桃味を食べていた。}


団子「あのさ、果報くんは何味食べているの?」


寝待「俺?ラムレーズンだけど。」


団子は「もらい~」と言いながらレーズン部分をすくって食べた。


寝待「あ!?」


団子「ふふふっ、隙だらけだぞ~」


寝待「こいつ・・・・・・人のことも知らないで・・・・・・」


しかし、団子の返事がない。


寝待「花寄さん?」


団子の顔がほんのり赤くなっていた。


寝待「え・・・・・・まさかラムレーズンで酔っている!?」


団子「じぇ~んじぇん酔ってましぇ~ん。」


寝待「呂律回っていないぞ!」


団子が寝待のそばに寄ってきた。そのあと、寝待の太ももにダイブしてきた。


寝待「な!」


団子「にゃ~んゴロロロロ」


寝待「猫になっている!?あと、太ももで寝転がらないで!(おっぱいが当たる!)」


すると団子ががばっと起き上がり隣の席に座った。


団子「・・・・・・なんで告白しないの。」


寝待「え?」


団子「何れ告白してこないのよ~!」


寝待「こっ、告白って。くぁwせdrftgyふじこlp!{何言っているのか分からない}」


団子「私がこんなにも待っているのにれんれん(全然)告って来ないじゃない~」


寝待「これはきっと酔っぱらっていると思わせてからかっているんだろう。きっとそうなんだろう・・・・・・」


団子「違う!私は酔ってないしからかっていない! 大体あんたね~チョコレートの件にしろラーメンの件にしろ私は分かっていたのよ~!」


寝待「はっ?チョコ・・・・・・ラーメン・・・・・・え、まさか今までのことは!?」


団子「なんで、私の気持ち気づいてくれないの・・・・・・{涙目}」


寝待「涙目にならなくても・・・・・・ でも、そうだったんだ。俺は何も気づいていなかったんだ。」


団子「ふふふ~ん、そうだよこの鈍感男~」


寝待「酔っ払いが・・・・・・」


団子「バ~カバ~カ」


寝待「いくら酔っ払いでも言っていいことと悪いことがあるぞ!」


団子「きゃ~果報くんが怒った~」


寝待「だから俺はかほ・・・・・・って今普通に俺の名前言ったよな?」


団子「ん~そうらっけ~?」


寝待「面倒くさい・・・・・・」


団子「わらし~、分かっていたんだからね~」


2年前、団子が中3の時。ラーメン屋、雷亭「いかずちてい」に入っていった。


団子「てんちょ~いつものビックサイズで~」


店長「あいよ。」


店長は麺をゆで始めた。


店長「そういえば団ちゃん高校受験の方はどうなんだ?志望校どこに決めたのかい?」


団子「友達が双子沢に行きたいって言っていたから私もそこにしようかなって。」


店長「え、双子沢かい!?」


団子「でもあそこ面接あるみたいだからそれが大変で~」


店長「なるほどな。あそこの学長喋り方で性格を言い当てるプロらしいよ。だから性格の悪い人は落とされるらしいぞ。」


団子「え・・・・・・何その人こわ~い・・・・・・」


その時、引き戸が開いた。


店長「へいらっしゃい!おお、果報くん!」


団子「果報くん?(面白い名前・・・・・・)」


店長「確か団ちゃんと同じ中3だったはずだぞ。 果報くんいつものかい?」


寝待は頷く。


店長「毎度!とんこつ醤油チャーハン付きね。」


団子「(へ~彼もコアなとんこつ醤油頼むんだ~意外に味の好み似ているかも)」


店長「大丈夫かい?髪もボサボサだし目にクマができているし満足に眠れていないんだろ?」


寝待「えぇ、まあ・・・・・・でも、今頑張らないと一生後悔するんで。高校入試は人生で1度しかないんで。」


団子「(・・・・・・私、バカだ。辛いのは自分だけって勝手に思っていた。ここまで勉強頑張っている人に対して失礼だ・・・・・・)」


店長「はい、とんこつ醤油餃子チャーハンセットビッグサイズ。」


団子は割り箸を割ると、ラーメンを綺麗に早く食べ始めた。10分も経たないうちにすべてのお皿が空になった。


団子「店長、ごちそう様!お代ここに置いておくね!」


店長「おう、毎度ね。」


団子「私、帰って勉強頑張ります!!」


そういうと団子は店を出て行った。その時寝待はカウンターで眠っていた。


それから数カ月後、双子沢学園の合格発表。


団子「あ、あった!合格だ~!」


華「私もあったよ!」


団子「まあ華ちゃんなら当然だろうね~」


華「そんなことないよ、合格できたのは団ちゃんと一緒に頑張ったおかげ。」


団子「女神か!」


寝待「{奥で}・・・・・・かよ!中学3年間同じクラスだった果報寝待だよ!」


団子「(この声、たしか、ラーメン屋にいた果報くん!?この学校を受けていたんだ。)」


寝待「そうだったのか、そこから俺のことを。」


団子「チョコレートも君のために特別に作っておいたんだよ~」


寝待「嘘つくなよ・・・・・・残り物って言ってただろう。」


団子「フフッ、ホ・ン・ト❤」


団子は微笑みながらそうつぶやいた。


寝待「マジか・・・・・・花寄さんが俺のこと好きって・・・・・・」


団子「んも~男子ってほんとうに鈍感なんだから~」


寝待「ちょっと考える時間をくれ!」


寝待は自分の食べているラムレーズン味のジェラートを急いでかきこんだ。


寝待「いって!」


食べ終わった直後、ジェラートを急いで食べたせいで、頭痛がした。


寝待「でも頭が冷えた。花寄さん、俺、お前のことが・・・・・・好きだ。」


しかし、隣の団子は椅子に座りながらすやすやと寝息を立てていた。


寝待「おい・・・・・・俺が心に決めた瞬間寝やがって・・・・・・」


寝待は団子を揺さぶって起こそうとしたが起きる気配がない。


寝待「はぁ・・・・・・しょうがない。」


寝待は勉たちのいる机に目を合わせた。


寝待「勉、百合根さん。そこにいるのは分かっているよ。ちょっと手伝ってくれよ。」


勉・華「(ば、バレていた・・・・・・)」


団子は華におんぶされて3人は帰ることに。


勉「いつから気が付いていたんだ?」


寝待「ジェラート店あたりから気が付いていた。」


華「でもまさか2人で内緒で付き合っていたなんて知らなかったな~」


寝待「俺も思わなかったよ。後、百合根さんたちも人のこと言えないからな。」


華「ハハハ・・・・・・そっか・・・・・・」


寝待「・・・・・・せっかく告ったのに聞いてないし」


華「そんなことないかもよ。」


寝待「え!?」


団子の寝言から


団子「うん、これからよろしくね。ね~くん。」


勉・寝待「ね~くん!?」


こうして寝待と団子の交際が始まった?


第35話(完)

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