2年生編第20話(第45話)「大和の看病物語」

文化祭が終わり次の週の昼休み、勉と華は屋上でお弁当を食べていた。


勉「ここも静かになったね。」


華「団ちゃんも果報くんと食堂で食べることになったから私たちだけになったよね。」


勉「そういえば大和くんたち遅いな。」


実は、屋上に大和と哀羅を呼んだのだ。呼んだ理由は大和と哀羅の仲直り&お付き合いおめでとう会を開こうと華が提案したからだ。ドアが開き大和が入ってきた。


大和「すいません。成留から逃げてまして。」


勉「そうか。大変だね。ところで喜籐さんと付き合っていることは言ったのか?」


大和「まだです・・・・・・」


華「今日は哀羅ちゃんいないね。休み?」


大和「風邪ひいたらしいっすよ。」


華「風邪・・・・・・奇遇だね。」


大和「奇遇?」


華「いや、何でもないよ!」


華は自分のお弁当を急いで食べだした。


大和「お見舞いに行こうと思ったんですけど家分からなくて。百合根先輩知ってますか?」


華「んんん。分からない。」


勉「僕、知ってるよ。」


華・大和「え!?」


2人は勉を見た。


勉「双葉寮という学校の近くにある寮に住んでいるんだよ。」


華「何で勉くんが知ってるの?」


勉「練磨が双葉寮に住んでいるんだよ。その時に知ってな。」


華「へ~磯蒲くん寮住まいなんだ。」


大和「分かりました。その寮に行けばいいんですね。」


勉「女子寮は男子禁制だぞ。」


大和「そんな・・・・・・」


勉「・・・・・・なんてな。入口の看守さんに許可を得れば午後6時までいれるから。」


大和「驚かさないでくださいよ・・・・・・悪趣味だな・・・・・・」


こうして放課後、双葉寮に行くため校門前で待ち合わせをすることに。


勉「(どうしよう・・・・・・華と一緒にいたら付き合っていることがばれるかも・・・・・・何か手はないか。)」


校門前で考えていたところ黄緑色のロングヘアの女性とすれ違った。


勉「(あの子は・・・・・・確か喜籐さんのルームメイトの・・・・・・)火ノ森さん!」


その女性はビクッとしたがゆっくり振り返った。


歌緒「あ、真面野先輩。お久しぶりです。」


歌緒はゆっくり勉のところに向かった。そして一礼をした。


勉「文化祭以来かな。今から帰るのか?」


歌緒「はい。今日哀羅ちゃん風邪で休んで。」


勉「それで相談なんだけど・・・・・・」


そう口を開いた瞬間。大和と華が同じタイミングで校門にやってきた。


勉「2人とも来たか。それで・・・・・・」


歌緒は口をパクパクしながら華を見ていた。顔は真っ赤だ。


歌緒「あ、なっ、えっ、もしかして百合根先輩ですか?」


華「こんにちは。」


と、満面の笑みで答えた。


歌緒「やっぱり可愛いです~ホント学園一の美女というだけありますね。」


大和「あれ、火ノ森さん?」


歌緒「塵積・・・・・・大和くん?」


大和「真面野先輩と知り合いなのか?」


勉「彼女、喜籐さんのルームメイトなんだ。」


大和「哀羅の!?」


華「私たち哀羅ちゃんのお見舞いに行きたいの。一緒に連れて行ってくれないかな?」


歌緒「ひゃい!私でよければ!」


緊張のあまり声が裏返ってしまった。


勉「じゃあ僕はこれで・・・・・・後は頼むよ。」


華「うん分かった。」


勉は家に帰ることに


大和「真面野先輩帰っちゃうんですか!?」


華「(勉、大和くんたちのこと考えて気を遣ったのね。)」


歌緒に案内され、華と大和は双葉寮に向かった。一階で看守さんに許可を取り、女子寮に入ることに。


大和「きれいな寮だな。」


歌緒「看守さんがキレイ好きな人なので。」


2人の部屋のドアの前に着いた。鍵を開けて中に入る。


歌緒「哀羅ちゃん、お客さんだよ。」


哀羅は布団で横になっていた。歌緒の声に気づいて振り返った。


哀羅「歌緒ちゃ~ん。頭痛いよ・・・・・・」


哀羅は華がいることに気づいた。


哀羅「百合根先輩、いらっしゃいませ。すいません寝たきりで・・・・・・」


哀羅は華の後ろにいる大和に気づいた。


哀羅「え~!!!!!!何で大和がここにいるの!?」


大和「風邪ひいたって聞いたからお見舞いに来たんだよ。」


哀羅「イヤ、帰って!!」


大和「何でだよ!」


哀羅「大和の前で弱った姿・・・・・・見せたくない・・・・・・」


哀羅は布団を被った。


大和「悪いな、門限ギリギリまでいるつもりだから。」


哀羅「なんでよ。」


大和「そりゃ、お前の彼氏なんだし心配するだろ。」


哀羅は布団の中で照れていた。大和の今の一言でさらに熱が上がりそうだった。


華はそのやり取りを見て微笑ましく感じていた。しかし、この情報を初めて知った歌緒は顔を真っ赤にして慌てていた。


歌緒「え、嘘・・・・・・二人付き合っていたの?」


哀羅「ごめん、言うの忘れてた・・・・・・」


歌緒「ソッソウナンダー(棒)デワワタシハヨウジアルノデアトハゴユックリー(棒)」


とんでもない棒読みでガクガクになっていた歌緒はぎこちない足取りでその場を後にした。


華「私も帰るわ。後は二人でゆっくりしてね~」


大和「え、百合根先輩!?待ってください僕を一人にしないでください。」


華「じゃっ、頑張ってね。彼氏くん♡」


華はウインクをしてドアを閉めた。


大和「(どうしよう・・・・・とりあえず頭のタオルを変えるか。)」


大和は哀羅の頭に置いてあるタオルを取った。洗面台に行きタオルを水で濡らし絞った。部屋に戻ると哀羅は目を閉じていた。


大和「(あんだけ騒いどいて哀羅寝ているとは・・・・・・)」


大和は哀羅の頭にタオルを置いた。


大和「(寝てるならしょうがない・・・・・・俺ももう帰るか。)」


大和が帰ろうとその場を去ろうとしたら哀羅がズボンの裾を引っ張ってきた。


大和「なんだ、起きてたのか。」


哀羅「帰っちゃうの?」


哀羅は頬を赤く染めて上目遣いで甘えてきた。


哀羅「1人は寂しいから、このままいてよ・・・・・・」


大和「(・・・・・・なんだこの可愛い生物は!!)」


大和はその場に座った。


大和「分かったよ。火ノ森さん帰ってくるまでの間だぞ。」


大和は座りながら時間を見ていた。


大和「その、風邪ひいた原因ってやっぱプールに落ちたからだよな。」


哀羅「まあね。それに文化祭の疲れもあったから。」


大和「そうだな。でもさ、なんで俺を選んだんだよ。」


哀羅「それは・・・・・・」


大和「最初、俺の事大嫌いだったんだろ。デリカシーのないこと言ったりしてさ。」


哀羅「確かに、最初は大和の事大嫌いだったわよ。」


大和「ぐっ・・・・・・改めて正面で言われるとキツイな。」


哀羅「でもね、努力家だってことも知ったのよ。大和、本当は勉強得意じゃなかったでしょ。」


大和「そう、だな。」


哀羅「そこが、惚れたところかな。後は、優しいとことかフォローができるところとかいろいろあるわ。」


大和「・・・・・・哀羅。」


哀羅「じゃあこっちからも質問。何で告白しようと思ったの?」


大和「それは、純粋に一緒にいて楽しかったからだな。」


哀羅「え・・・・・・」


大和「それだけかな。でも、今までの行いをしていたから告っても断られると思って・・・・・・」


哀羅「それだけって・・・・・・」


大和「あ、また不愉快にさせること言ったか!?」


哀羅「別に、もうそれくらいのことで腹を立てるほど心は狭くないわよ。」


哀羅は布団からゆっくり起き上がった。


哀羅「あのさ、お腹すいたんだけど何かないかな?」


大和「それなら、ゼリーならあるけど。」


哀羅「じゃあそれちょうだい。」


大和はレジ袋からゼリーを取り出した。このゼリーは寮近くのコンビニで購入したものだ。


大和「ほい。」


大和はゼリーを渡したが哀羅は不服そうな表情をした。


哀羅「あのさ、もうちょっと気遣いとかできないかな。」


大和「あ、悪い。」


大和は蓋を開けてスプーンを渡した。


哀羅「違~う!」


大和「何が違うの!?」


哀羅「だからさ・・・・・・」


哀羅は布団の上に座り、口を開けた。


大和「え、何やってんの?」


哀羅「分かんない?食べさせてよ。」


大和「・・・・・・。」


大和はまさかの回答に思考停止してしまった。


大和「いや、俺がそんなことできるわけないだろ!!」


哀羅「何でよ。あーんくらいなんてことないでしょう。」


大和「なわけあるか!あーんなんて恋人同士でやるもんだろ。」


哀羅「いや、私たち恋人同士だし。」


大和「たっ、確かにその通りですとも・・・・・・」


大和はゼリーをスプーンですくって哀羅に食べさせようとした。スプーンを持っている右手がプルプル震えていた。


大和「(緊張して手が・・・・・・いや、それにしてもかわいいな!口を開けてるだけでこんなにかわいいものか!しかもその子に俺はあーんをしようとしているんだぞ!心を落ち着かせろ!とにかく深呼吸して精神を統一させるんだ。)」


大和は震える手を抑えながらゼリーを哀羅の口の中に運んだ。


哀羅「ん・・・・・・おいしい。」


哀羅は唇についていたゼリーをペロッとなめた。その色っぽいしぐさにドキッとした大和は目をそらしていた。ゼリーを全部食べ終わった哀羅は大和にこんなお願いをした。


哀羅「あのさ、汗かいたから背中タオルで拭いてくれないかな。気持ち悪くて。」


大和は何を言っているのか分からなかった。いや・・・・・・意味は理解しているが思考が停止していた。


大和「いやいや、何言ってんの!?自分が何言ってんのか分かってんのか!」


哀羅「別に全部脱ぐわけじゃないわよ。私が服まくってるからそのうちにやってほしいのよ。」


大和「いやだからそういうことじゃなくて男の人に肌見せても大丈夫なのかってことだよ!」


哀羅「それは、大和だからだよ。ほかの人にはこんなことは頼まないわよ。」


大和「じゃあ日ノ森さんに頼めよ。」


哀羅「いつ帰ってくるか分からないしこのまま寝ても気持ち悪いのよ。だからお願い。」


大和はこれ以上断っても埒が明かないと思い要件を飲んだ。哀羅は大和に背を向けてシャツの上をめくった。白色の肌が露になった。


大和「(今日はやけに積極的だな。でも、今いるのは俺しかいないし、やるしかない。)」


大和はタオルを洗面器入れて水で濡らし絞った。


大和「じゃあ、いくよ。」


哀羅「お願いします。」


大和は哀羅の背中をタオルで拭いた。


哀羅「ひゃん!」


大和「変な声出すなよ!誤解されるだろ!」


哀羅「だって冷たかったから!」


大和「(集中しろ・・・・・・意識すると理性が飛ぶ・・・・・・)」


大和は無心で哀羅の背中を拭いた。


大和「はい、終わり。」


哀羅「ありがとう。助かったわ。」


哀羅はまくった服を戻した。


大和「そういえばブラはしてないんだな。」


哀羅「寝てるときはきつくて・・・・・・って何言ってんのよ!エッチ!!」


大和「純粋に気になっただけだけど!!」


と大和と哀羅の痴話げんかが始まった。こうして大和は寮の門限ギリギリまで哀羅の看病をしたのだった。


次の日・・・・・・すっかり元気になった哀羅は放課後、生徒会室に向かった。


哀羅「すいません。昨日は休んでしまって。」


卯円「いいって、元気になってよかったよ。」


白羽「そういえば塵積兄妹はどうしたんだ?」


卯円「兄は休みらしいぞ。風邪ひいたらしくてさ。」


哀羅「え!?」


白羽「まさか喜籐さんの風邪がうつったとか・・・・・・なんてな。」


哀羅「そうかも・・・・・・しれないです。」


白羽「あ、悪い!そんなつもりじゃなかったんだ!」


卯円「妹は授業が終わってすぐにお見舞いに行ったらしい。連絡しろってあとで言っとかねえとな・・・・・・」


哀羅「(じゃあやめておこう。お見舞いに行こうかと思ったけど成留ちゃんがしっかり看病してくれそうだし。)」


その頃大和の家では


成留「お兄ちゃん!!ほら早く上を脱ぎなさい!汗かいてるでしょうが」


と大和の服を脱がそうとしていた。


大和「やめろ!ていうかお前ウチに来るんじゃねえ!!!」


第45話(完)

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