31 おもちゃ博物館
「へえ、マイコたち3人は夏休みの自由研究はドールハウスにするんだ。そうよね、家にいいのがあるし、ミリアとこにもあるしね。え、まだ見たことの無いドールハウスが1つあるの?それでさっきオモチャ博物館って言ってたわけね」
「うん、でもそのドールハウスは壊れているらしく、今日、行って見てこようと思って…」
「そういうことか。でもオモチャ博物館って聞いたことないわね。場所は分かってるの?」
「うん、私もわからなくてどうしようかと思っていたら、ユカリさんが検索してくれて、駅のそばらしいの」
「あら、そういえば駅のそばに変わったおもちゃ屋があったけど、あの辺かしらね」
あれから毎日プールの帰りにトンボ池の観察は続けていて、トンボはまだ来ていないけど、植物や微生物は確実に増え、見た目もだんだん掘った穴から池らしくなってきていた。
マイコと同じユカリもユウトも、塾に行くでもなく、スポーツクラブがあるわけでもなく、3人で毎日顔を合わせていた。マイコの家にもあれから3回ほど集まって、ドールハウスの妖精たちともすっかり仲良くなっていた。そこでドールハウスにも色々な歴史がある事を知って、みんなでドールハウスを調べてみようと言う事になったのだ。
マイコはその日も、学校のプールから帰って来て、お昼を食べて少しゆっくりすると、バスで駅へ向かった。ただ、今日はいつもと違い、マイコのウエストポーチのポケットからは、チャムチャムが時々顔を出していた。
駅でバスを降りると、もう先にユカリとユウトが待っていた。
「今日も暑いね」
挨拶すると、ウエストポーチのチャムチャムも手を振る。
「あ、今日はチャムチャムも一緒なのね。よろしくね」
ユカリもユウトもチャムチャムに声をかける。
「うん、じゃあ、行きましょう。こっちよ」
ユカリに教えてもらって、駅のあまり行ったことの無い南口に抜けて行く。
「このビルの1階のどこかにオモチャ屋があって、そこから入るらしいんだけど」
いろんな店の入っている雑居ビルの1階の隅に、ごちゃごちゃした小さな変わったおもちゃ屋が確かにあった。「オモチャの植草」という看板が見える。雑貨コーナーを抜け、本屋の脇を通るとショーウィンドウがあり、そこに古いブリキのおもちゃや、アメリカンコミックのヒーローのフィギアや、ゴージャスな着せ替え人形などが並んでいる。いちおう全部に値札がついていて売り物のようだ。
「あ、これ」
ユカリが見つけた。ショーウィンドウの端に目立たない看板があった。
「オモチャ博物館、地下です。初めての方、御用の方は店主まで」
見回すと、山のように並べられたオモチャやゲームの箱の前で、メガネをかけたやさしそうなおじさんが掃除をしていた。
「いらっしゃい、ぜひオモチャを見ていってね」
あいそのいいおじさんにさっそくユウトが近づき、プリントをさっと渡す。
「店長の植草さんですね。ご協力、よろしくお願いします」
プリントには、自分達が東小の児童で、ドールハウスを調べていること、ここにもドールハウスがあるので見せてほしいこと、などがきちんと整理して書かれていた。
「ほほう、これはわかりやすい。なるほど」
するとおじさんは、時計を見て少し考え、急にみんなを下がらせると、壁のボタンを押した。するとベルが鳴り、天上からお店のシャッターが下りてきた。
そして昼休み中、御用の方は地下の博物館まで。という札を貼りだした。
「ハハハ、さあ、みんな地下のオモチャ博物館においで」
「ええ、いいんですか?」
「いいの、いいの。うちの売り上げの9割は、オモチャマニアのためのネット販売なんだよ」
そして、みんなは店のすぐ横にあるエレベーターに乗り込んだ。
「おじさんはね、趣味のオモチャ集めがこうじてオモチャ屋を出したんだけど、ネット販売が大当たりで、地下も借りて博物館にすることにしたんだよ」
やがてエレベーターが止まって扉が開く。
「ご来店ありがとうございます、地下1階、植草おもちゃ博物館でございます」
ゆかいなおじさんだ。エレベーターのドアが開くと、思ったより広くてきれいな空間が目の前にあった。
…植草オモチャ博物館、子どもは入場無料、大人は200円;館長植草等…
「ここからは店長じゃなくて博物館の館長の植草です。ハハ、とは言え小さな博物館だからね、うちは家族でやってるんだよ。受付にいるのが奥さん、喫茶コーナーにいるのが高校生の娘のミサだ。奥に倉庫とインターネットショップコーナーがあるけど、私の母校の工科大学から手伝いに来てもらってるのさ」
奥さんもミサさんも気さくに声をかけてくれる。
海外のオモチャコーナーにはスターウォーズやアメコミのヒーローの、超マニア向けの限定オモチャなどが並び、今日もマニアな若者グループがけっこう来ている。ブリキのおもちゃや昔のオモチャコーナーは子どもから中高年まで大人気、ミニカー、鉄道模型コーナーも盛況だ。でも植草さんのポリシーは「オモチャは見るものではなく遊ぶもの」だ。
展示コーナーのガラスケースの横に、必ずプレイコーナーがあり、同じ種類のオモチャで遊べるようになっている。
ブロックや積み木はもちろん、ミニカーや着せ替え人形、怪獣やロボット、最新のおもちゃコーナーまであり、自由に遊べるのだ。ユウトが質問する。
「へえ、実際にこれだけ遊べるって他にないんじゃないですか?汚れたり、壊れたりするんじゃないですか?」
「それがオモチャだよ。修理代や補充代もばかにならないけどね。でも丁寧に扱ったり、喧嘩せずに遊んだり、きちんと後片付けするオモチャのマナーを、ここで学んでいってほしいんだ」
でも実際、ここで遊んで面白かったと、上のオモチャ屋でオモチャを買って帰る人も多いらしい。さらにその横にあるのがミサさんのいる喫茶コーナーだ。今一番お客さんが来ているのは、山のように種類があるテーブルゲームレンタルだ。喫茶コーナーでメニューを見て、コーヒー・紅茶を注文するように借りられる。飲み物を一人ずつ取ればゲーム代は無料だ。海外ゲームや話題の人気ゲームも借りられてリピーターも多い。
「さて、君達がこっちだよ」
セキュリティが厳重な奥の小部屋に案内される。植草館長がカードキーをかざして中に入る。
「わあ、すごい」
そこは年代物のアンティークドールや、高価なクマのぬいぐるみ、人形が踊るオルゴール、西洋や日本のからくり人形などが飾ってある。そして、1番奥にそれはあった。
「これが、テーブルゲームドールハウスです。18世紀のストラトス・ゼルキンの作だが、おさめられているゲームは、その弟子達によって、19世紀から20世紀に継ぎ足しされて完成したと言われています」
するとマイコが質問した。
「私達が、ストラトス・ゼルキン作のティールームドールハウスと、コレクタードールハウスを見たことがあるんですが、そちらはクルミ材で造られた洋服ダンスみたいなやつなんです。でも、こっちは不思議な形をしていますね」
すると植草のおじさんは、まずマイコの話に驚いた。
「え、っていうか、誰も見たことの無い、伝説の2つのドールハウスを、君達が見たことあるのかい?」
あちゃ、言わない方がよかったかな?!
「あ、ごめん、これだけ貴重なものだからね、どこで見たとか、外で言わない方がいいよ。この間も、うちに怪しいセールスマンがドールハウスを探しに来たんだ。もちろん追い返したけどね。どこで誰が聞いているかわからないから気をつけないと」
あれ、このおじさんは何か良さそうな人かもしれない。そしてテーブルゲームドールハウスの説明が始まった。
これも堅牢でクルミ材でできているのだが、なんと六角形の6人がけのテーブルとイスなのだ。でも6個の椅子に、それぞれ二段の大きな引き出しがついていて、6つの部屋と6種類のゲームが入っているという。
引き出しの上の段には、それぞれのキャラの部屋、下の段にはそれぞれのゲームが入っている。上の段のキャラの部屋を広げ、ゲームの中身を並べるとテーブルの上がそれぞれの世界に代わると言うわけだ。
「たとえばこの椅子、探検スゴロク宝島の上の引き出しには、キャプテンダイスの海賊船の操舵室が再現されていて、海賊のキャプテンダイスや部下の海賊の人形や海図、羅針盤舵、酒樽やテーブルなどが入っている。下の引き出しには昔の海の地図風のゲーム盤、アドベンチャーブック、コマの海賊船、サイコロや宝物のカード、ドクロ島や大ダコや大渦のミニチュアなどが入っている。
「すごいですね、こんなゲームが6種類もあるんですか」
「でもまあ、見ての通りだ。何度も何度も壊れた部品やいたんだカードなどが補充された跡があるが、このオモチャ博物館に来た時点で、半分近くの部品が痛んでいたり、足りなかったりさ。まあ、それだけ遊ばれたわけだけれど、君達に遊んでもらえるまでには修復にまだかなり時間がかかりそうだよ」
するとそれを聞いていたマイコがしゃべりだした。
「ええっと、もしかしたら私達に直せるかもしれないんですけど…」
「え?ううむ、君達の優しい気持ちもわかるが、大昔の職人を呼ぶか、魔法でもかけない限り無理だね。ちなみにこのドールハウスには妖精が住んでるって伝説があってね。妖精の魔法でもあればねえ…いいんだけどね」
すかさずユカリが聞いた。
「植草のおじさん、いいえオモチャ博物館の館長さんは、妖精を見たことがあるんですか?」
すると植草の館長さんはまじめな顔で行った。
「信じてくれないだろうけど、このドールハウスが入った時、中をよく掃除していた時に、このキャプテンダイスの人形が動いたように見えたんだ。あれが妖精だったのかな。まあ、誰も信じてくれないけどね」
するとそれを聞いて、マイコ、ユカリ、ユウトの3人は視線を合わせてにっこりした。
「館長さん、マイコちゃんのウエストポーチを見てください」
マイコがウエストポーチを館長の方に向ける。館長の目がまん丸になる。ウエストポーチのポケットからはチャムチャムが顔を出し、手を振っていた。
「おおっ、これは驚いた。ほんものだ、本物の妖精だ!!」
するとチャムチャムは白い羽を使って、ウエストポーチから飛び出し、マイコの肩に飛び乗った。
「ティールームドールハウスの管理人、チャムチャムと申します。よろしくね、館長さん」
その瞬間、植草館長の顔がみるみる喜びに満ち溢れ、ぱあっと明るくなったのがわかった。
「よかった、本当に妖精に会えるなんて。僕は、僕はね、子どものころから妖精を信じていたんだよ」
館長さんの目から涙がこぼれていた。まるで子供のように瞳をキラキラ輝かせて、チャムチャムを見つめていた。
「あ、それで、もしかすると妖精の力で、このドールハウスを直せるかもしれないんだね」
するとチャムチャムが、チャムチャムチャイムをぱっと出して鳴らした。すると空間が輝き、あのコスプレ妖精のピコピコが現れた。
「ヤッホー!ピコピコでーす」
突然呼び出されたと言うのに、なぜか、口の大きなペリカンのコスプレをしている。
「え、これがテーブルゲームドールハウス?なに、部品が足りなかったり、痛んでいたりする?ああ、でもよかった本体の6角形のテーブルや椅子は平気ですね。これなら、僕が金の願い星さえゲットできれば、なんとかなります。ええ、ゲットしますとも。今76まで来たんですよ。もうひと頑張りしますから」
ピコピコが何を言っているのか、植草館長にはまったくわからなかった。でもそんなことより、妖精がまた一人出てきて、テーブルゲームドールハウスの周りを飛び回っているのが、とてもうれしかった。しかもなぜかペリカンだ。
「子どもと妖精の言う事なら信じられるよ。うん、近いうちにまたぜひ来てくれ。なんたって、小学生以下は無料だしね」
博物館の定休日は月曜だと言うので、他の客のいないその日にまた来ると約束した。
「それから、その日にお花を飾っておいてほしいんですけど」
そしてマイコは、また妖精を呼びだす方法を植草館長に伝授した。
「オッケー、妖精を呼び出すためなら何でもするよ。まかしとけ!」
植草さんの娘さんや奥さんにも見送られ、3人は博物館をあとにしたのだった。
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