18 おやつパーティー

 その日、科学センターは、夏休み前の作戦会議だった。ここ数年、天山市では、毎回の楽しい実験観察はいろんな学校の交流班で色々な友達と協力して行い、前期と後期の発表会は各学校の仲間や先生と協力し、地域や地元に関係した発表を行っている。

マイコとユカリ、ユウトは東小学校の松重先生と一緒に作戦を立て始めた。

「後期の発表会は2月の下旬だ。まだまだ先だね。でももし動物や植物の研究をするなら、この夏や遅くても秋までには実験観察を終わらせないと、寒くなって難しくなることが多い。ほら去年の人達が雲の研究だとか水辺の環境調査があっただろう。雲の研究は春夏秋冬の雲の変化をおいかけて、何カ月もの間、毎日必ず空を撮っていたらしいし、水辺の方は、夏休みと秋の日曜日に何回か手網を持って川や池に出かけて行ったそうだ。まずは、何を研究しようか?君達のやりたいことをどんどん出してほしい」

松重先生にあらたまってそう言われると、かえってアイデアがなかなか出てこない。

「先生、すいません、研究のテーマを調べたいんで、スマホで、ちょっと検索かけていいですか?」

ユカリは許可を得て、おもむろに調べ物を始める。ユウトは去年までの研究のまとめを借りて目を通し始める。だが少しすると、ほとんど居眠り状態でまどろんでいたマイコが、はっと閃く。

「ねえユウト君、東小の田んぼ、今年もやるのかな?」

東小の校庭の隅には小さな田んぼがあり、去年4年生だったマイコ達は田植えや草取り、稲刈りなどを行い、とれた無農薬のお米が給食に使われたのだった。

「ああ、この間、今年の4年生が田植えやってたよ」

「ねえ、田んぼで使った水を用水路に戻す水路があったでしょ…」

居眠りしていたと思っていたら、何を言いだすのだろう?どうやらおいしいお菓子の夢ではなく、あの田圃の土の実験を思い出していたらしい。

「あの水、どうせ用水路に戻すんだから、あの水を使えば私たちで新しく池とかつくれるんじゃないかなあ」

すぐにユウトが興味を示した。

「池?ビオトープってやつかい、自分たちで作るなんて面白いかもね」

するとユカリがすぐに検索でヒットさせた。

「町の中でトンボを増やそうっていう、トンボ池とか、水生植物を使った多様性のビオトープとか、けっこういけるかも!」

すると松重先生が言った。

「アノ水路のあたりに造るんじゃ、小さいものしか作れないけど、それでも良ければ可能だ。あの辺は全部田んぼの土だから水もれ防止工事も必要ないしね。先生の方から学校の先生方に許可を得ることはできそうだよ」

みんなの顔が輝いた。東小のチームサイエンスの研究テーマは「ビオトープを作ろう」に決定だ。

その日は帰り道も、ビオトープ作りで3人は盛り上がった。バスの中で、ユウトが今日の午後もう一度集まって話し合いをしようと提案し、みんなもそうしようということになった。

「家から色々資料を持ってくるからさあ」

集まると聞いて、マイコも提案した。

「じゃあ、うちで集まればいいんじゃない?おやつなら、ほらあのスナ袋今日も、すぐ用意できるし…」

マイコの頭の中は、研究よりもまず、おやつであった。

「僕たちも研究資料だけでなく、何かおやつ持ってくよ…」

そして3人は元気よくわかれて、一度それぞれの家に帰って行った。

マイコは昼ご飯を食べて、ママにスナ袋とジュースの用意をしてもらったところでハタと困った。なんと何時に話し合いが始まるのか忘れてしまったのだ。

「教えてもらうのもはずかしいし、ま、いいか、何かして待っていよっと」

マイコはいつものくせで待っている間、ドールハウスの掃除をしたり、庭に花を摘みに行ったりしていた。そしてしばらくしてドールハウスの家具を並べている時だった。

「ピンポーン!」

「マイコ、お客さんよ」

ママの声がして、マイコはあせった。ドールハウスの用意に集中して、時間が過ぎるのをすっかり忘れていたようだ。

「おじゃましまーす」

やる気満々の、ユカリとユウトが入ってきた。

「へえ、広い子供部屋だね。ここで会議ができそうだ」

「すてきなお部屋ね。え、これ、ドールハウスって言うの?かわいい。小さい家具がたくさんあるのね」

まずはユウトが東小の年間行事予定表をテーブルに広げた。

「ええっと、夏の移動教室が初めに会って、ここからプールの前半が始まる…」

ユウトが言うには、移動教室の前までに池の設計や工事の用意を進めて、プールの始まる前に工事を行い、あとはプールに行きがてら、毎日観察したらどうかという事だった。

なんという計画性、マイコには考えも及ばないことだった。次にユカリが、去年学校のホームページにアップされた田んぼの作業の写真をざっとみんなに見せてこう言った。

「ほら、マイコが言っていた田んぼで使ったっ水を流す水路、ここでしょ?!」

「そうそう、ここよ、ここ。こっち側に池を作ったらいいと思うんだけど」

さっそく池の設計図を描きだすユウト。ユカリは色々な資料を検索して、ビオトープの作り方やどんな用意がいるかなどをどんどん調べて行く。

マイコはというと、みんなにおやつを配ったり、ジュースを出したりと忙しい。

「今日はキャラメルコーンにカントリーマアム、柿ピーもあるわよ」

するとユカリもさっと小箱を取り出した。

「ふふふ、ポッキーのイチゴ味、よかったら召し上がれ」

う、うれしい。マイコの瞳が輝いた。

「あ、僕も持ってきた。アーモンドチョコ、どうだい」

マイコだけでなくユカリも大きくうなずいた。はずむ笑い声、みんなでジュースで乾杯だ。食べながら作業はどんどん進んでいく。

ところが少しした時、ユカリが急に言い出した。

「マイコ、ちょっとあそこにいるの人形なの?なんなの?」

するとユウトも続けた。

「あれ、ユカリも気がついた?僕もちょっと前から気になってさ、だって何か妙にリアルに動いているよねあの2つ…?」

おどろいてそちらを見るマイコ。そう、そこはドールハウスで、あの屋根裏部屋の小さなテーブルセットで、仲良しチャムチャムと好奇心の強いウフルンがこちらを見下ろしているではないか。ときどきうなずいたり、こちらをみて笑ったりしている…。

…あ、そうか。全部用意ができていたから魔法がかかっていたんだわ。うっかりしてた…。

「ええっと…、あれはね。ドールハウスに来た、妖精なの…」

「妖精?!」

みんななんて言ったらいいのか、3人の間に何とも言えない空気が流れた。

するとチャムチャムの声が聞こえてきた。

「私たちなら、気にしないでいいんですよ。盛り上がってるみたいだから、どうぞ作業を続けてください…」

するとユカリがつぶやいた。

「へえ、性格のよさそうな妖精ね。じゃあ、先にやることをやっちゃいますか」

「うん、静かにしてくれてるみたいだから、先に進めようか」

妖精だと言ったら、もっと驚くかと思っていたのだが、二人は当たり前のように受け入れていた。そしてさらに能率が上がって行く。

話はかなり進み、最後にユウトがまとめた。

「じゃあ、池の形、大きさ深さはめどがついた。そのくらいの大きさなら俺たち3人で半日くらいで終わるけど、問題はそのあとだな」

「そうね、どんな水生植物や水生生物をどこからどうやって運ぶか、なるべく地元の物じゃないとね。あとどんな池にするとトンボが卵を産みに来てくれるかも調べないとね」

さて、話し合いが終ったところで、3人の目はやはり妖精達の方に向く。あれ、変なかっこうをした妖精がいつの間にか一人増えている。誰だ?マイコは目をこらした。わからなかったはずだ。ピコピコだ、今日も強烈な動物コスプレをしている。くちばしと黒い頭、ヒレのような手、まぎれもなくペンギンだ。

「妖精のみんな、こっちへおいでよ」

マイコが、そう声をかけると、まずはファッショナブルなウフルンがハイヒールから光の粉をまき散らしながら、すうーっと飛んでやってく来た。そしておとなしいチャムチャムが、紅茶の香りとともに飛んできて、最後にピコピコがペンギンのくせに空を飛んでやってくる。

「すごーい、本当に妖精って、空を飛べるのね」

そして3人の妖精は、テーブルの上でユカリとユウトに自己紹介をして場をにぎわせた。特にピコピコは、よちよち歩くペンギンウォークと、空中で羽ばたくように泳ぐペンギン泳法を披露し、大ウケだった。

「マイコちゃんってちょっと変わってるから、こんなこともあるかと思っていたんだ。いいね、おうちに妖精がいて」

なんだろう、なごやかな雰囲気になってきた。チャムチャムが言った。

「話を聞いていると、みなさんいい人ばかりね、さすがマイコちゃんのお友達ね」

マイコはとてもうれしかった、おやつもジュースもおいしかったし、研究も見通しがついてきたし、みんなと妖精が仲良くなれそうだからだった。

やがておやつパーティーは終わり、みんな元気に帰って行った。

妖精と科学センターが結びついた、歴史的な日であった。

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